【ムギ】 ムギは外側の皮がとても難くて、内側の胚乳がやわらかい。胚乳を取り出そうとして 幾層も重なる硬い繊維質の皮をこすりとると、粒全体が粉々になってしまう。 フスマも胚乳も砕かれてしまうが、フスマの方は硬い繊維質なのできめが粗く、 胚乳の方は細かく砕かれるため、、ふるいにかければ、細かい粉のほうが下に落ち、 よりわけられる。 (米は、籾殻を取り除くと玄米になる。これは薄い皮をかぶっている。 精米すると、この皮はかんたんに剥がれて、内部の胚乳が現れる。 剥がれた皮が糠で、胚乳が白米である。米の皮は薄く、胚乳はとても硬い。 だから、米は搗いても胚乳は壊れず粒のままである。粒のまま食べられる米は わざわざ粉食にする習慣はない) 【穀類】 コーン 米国ではトウモロコシ イングランドではコムギ スコットランドではオートムギ(エンバク) ドイツではコルンと呼んでライムギ 北欧ではオオムギ コムギ 白パンの原料 ライムギ 耐寒性にすぐれ黒パンの原料 エンバク パンやカユ(オートミール)の原料 ライムギよりさらに厳しい環境で オオムギ コムギより耐寒性あり 粒のまま煮たり、ビールの原料 【麦を噛んでガム】 小麦を噛むとガムのようになる。 これはパンづくりで重要なグルテンの働きである。 大麦では噛んでもガムにならない。 【イースト】 パン生地の中で増殖活動しているイーストが吐き出す炭酸ガス この炭酸ガスをグルテン膜が包み込む。パン生地が膨らんでいく。 そして、このパン生地を焼けばふっくらしたパンになる。 パンの発酵 自然界に存在するイースト菌(酵母菌) パン生地中の麦芽糖を取り込み、炭酸ガスとアルコールに分解し増殖 生地中の炭酸ガスがグルテンをふくらませ、無数の気泡をつくる。 アルコールはよい香りを与える。 【パンの作り方】 ・生の穀物を用意する ・粉にする ・水でこねる ・(発酵する、発酵しない) ・焼く ・焼きあがると固形物になる 【指拭きパン】 古代ギリシアの話です。 上流階級では貴重なパンも手拭きがわり。 フォークやナイフのない時代だから、ご馳走は手でつまんで食べた。 とうぜん手は汚れる。 汚れた手を拭くのに、焼いていないパン生地を丸めたものを ナプキン代わりにしていたという。 用が済むとテーブルの下の犬に投げ与えた。 貧しい人の中には、この指拭きパンを食べてなんとか生きのびた人もいたという。 汚れたおしぼり役のパンも焼けば立派な食料になったから。 大麦粥を堅焼きにした匙パンというものですくった。 また、中世のまな板パンというのもあった。 器用さを要するが、パンを使って食べ物をつかんだり、すくい取ったりもできる。 平焼きパンに具を乗せて食べると皿はいらない。 このようにパンは(スプーン、フォーク、皿など)食器の役割もはたせる。 【パンの失敗作】 家庭用のパン焼きでよく失敗するのは、小麦粉をたくさん買いすぎて使い切れず 古くなること。製粉から3ヶ月以上たつとパンには向かない。 麺類にすればごまかせる。 うどん、そば、パスタ、餃子の皮 生地を用意しているとき急用ができ、やむをえず作業を中断しなければならないときがある。 そういうときには、その生地を冷蔵庫や冷凍庫に入れて発酵をストップさせる方法がある。 こういう場合、揚げパン、ピザ、ステッキパン、プレッツェルなどに目標変更して パンを活かすアイデアがある。 生地がよくないのに強気にパンに焼いてしまったが、食卓に出す気がしないパンは、 パン粉、ラスク、メルバトーストにしたり、プディングに作りかえる。 こんなことを読むと、ああ頭がよいと思う。 もしかしたらこれらに出てきた名前の食べ物は、こうやって失敗作に手を加えて なんとか別の名前の食品として利用したのかもしれない。 【フレンチ・トースト】 フレンチ・トーストはアメリカの食べ物。 牛乳と卵を混ぜ、なかにパンを浸してフライパンで軽く焼いた(揚げた)もの。 アメリカにあってフランスにない。 しかし例外的に、ブルターニュ半島にある。 ここは海産物は豊かだが、小麦はあまりとれないやせた地味の貧しい地帯。 春先には小麦が尽きてしまうので やむなく十字軍がイスラム世界から持ち帰ったソバ粉でクレープを作った食べた からソバのクレープも有名。 【パンの恨み】 ローマ帝国も大きな国だったが、やはり食料は大変なテーマ。 昔からパンは小麦から作ったものがおいしい。 大麦のパンは喪のときや囚人用に使われた。この大麦パンが出ると喜ばれなかった。 「クラッスス」伝で、戦場で小麦粉が不足して大麦パンが支給されたとき 兵士達が怒って暴動になりかけたということを、プルタルコスは書いている。 アントニウスが失策した部下に罰として小麦の代わりに大麦を与えたそうな。 大麦はビールですね。やはり 「パンをよこせ」 フランス革命の口火を切ったバスチーユ襲撃の大義名分に 使われたセリフ。 天候不順で、パン屋も材料が手に入らない。パンの値段は上がる。庶民の飢えの恨みはおそろしい。 派手な生活をして庶民の苦しい暮らしを知らなかった王妃が 「パンがないなら、○○を食べたらいいのに」と言ったのは軽率でした。 もし諸葛孔明がついていたなら(母親がそばにいたのなら)、もう少しましな対応があったろうに。 【たねなしパン】 たねなしパンの祭り 日常は発酵パンを食べているユダヤ人も、この祭りの七日間は発酵させないパンを食べる 出エジプト記 夜明け前 大急ぎで粉と水だけで生地をこね、発酵させる時間もなく逃走 このエジプト脱出を記憶するための祭り 最後の晩餐 たねなしパンの祭りの前夜なら発酵パン、祭りの夜なら無発酵パン 薄いパンをワインにひたして食べる。 発酵には腐敗がつきもの たねなしパンの祭りは腐敗という穢れを避けるため? 【シュトーレン】 フルーツ・ブレッドとして一番ポピュラーな ドイツのクリスマス用のパン「シュトーレン」 冬場は3ヶ月は保存できる。 日本の梅雨時にテストした人がいました。3週間はもつそうです。 すごい。カビをよせつけない。 その秘密は何だろう。 【ブレッツェル】 ドイツ人がビールやワインのつまみに食べる、8字型の塩辛い固いパン菓子 米国ではスナック菓子に変形してしまった「ブレッツェル」 【ベーグル】 トルコ軍に包囲されたウィーン 1683年のとき ポーランド国王がウィーンを守ってくれたことに対して、 その土地にいたユダヤ人のパン職人が感謝して 乗馬好きの王を喜ばせようと、馬のあぶみの形(オーストリア語でbeugel)をした 特殊なハードロールパンを作った。 このパンがポーランドに伝わり、子供を生まれたときの公式の贈り物として認められた という記録がある。 母親たちは、子供の「おしゃぶり(歯がため)」としてベーグルを使った。 ベーグルはロシアに伝わると、bublikiと呼ばれ、紐に通して売られるようになった。 (ブレッツェルのように)円形のものは、幸運をたらすという言い伝えがあり、 魔法の力をもつ食べ物としてベーグルは歌にも歌われた。 やがて、ユダヤ人がアメリカに移り住んだとき、ベーグルはアメリカにもたらされた。 一方、他のベーグル職人たちも東欧からカナダへと移住してきて、 ベーグルはカナダにも広まっていった 実はそれより70年前のクラクフの記録があるという。 ポーランド王国に移住してきたユダヤ人たち 1610年 ユダヤ人社会での規則に記録されている。 「ベーグルは出産を控えた女性に生まれる子の健康を祈って与えられるべきもの」 (似たような話で、オーストリアのある地方では、女の子が産まれたら、 大きなプレッツェルが母親に贈られるという) やはりベーグルは、あの出エジプト記にあるように、大急ぎで粉と水だけで生地をこね、 発酵させる時間もないパン生地をかかえて逃走した「エジプト脱出」を記憶するために ユダヤ人が守ってきた伝統の食べ物なのであろうか。 アメリカのベーグル 旧約聖書には、聖なるパンは無発酵でなければならないと書かれている。 「このパンには酵母を入れて焼いてはならない」「これは神聖なパンである」 「最後の晩餐」のパンのように、カトリックのミサでは、小麦粉と水だけでこねて 焼き上げた無発酵のパンを使う。キリストは弟子たちとこの薄く焼いたパンを割いて ワインに浸して食べたのであった。 【カステラ】 南蛮人が日本に渡来したとき、これは最初はパンだったのに 日本人はお菓子にしてしまった。 カステラは pao de Castella (ポルトガル語) あるいは Castella brot(オランダ語) の略で、もともとはカスティリャ王国のパンという意味だった。 食事用のパンがリーン・タイプのものであったのに対し、 これはリッチ・タイプのスイート・ドウであった。 これをさらに甘くおいしくした日本人の智恵。 【パンとビールの関係】 古代エジフトでは パンからビールを作っていたらしい。 まず竈で麦芽パンを焼き上げておく。 そのパンをほぐして湯に溶かしておくと発酵してビールになる。 それは現代の科学で考えても合理的な製造方法。 ただ、ホップが使われていないから現代人が飲めば何か足りない味。 ホップにいたるまで、いろいろな香草が使われた歴史がある。ビールの作り方 麦芽→(麦芽中の糖化酵素の働き)→ 糖分 →(酵母の働き)→ アルコール
昔はパン酵母とビール酵母の区別はなかった。 ビール酵母をパン酵母として使ったり、パン種がビール酵母としても使われた。 パンでは酵母の作った炭酸ガスを主に利用し、酒ではアルコールを利用するのが違う。 パンのアラカルト 世界のビールの分類 麦の代用食としてのソバ 発酵と腐敗