構造工学の基礎と応用

宮本裕・秋田宏・岩崎正二・川上洵・五郎丸英博・佐藤恒明・永藤寿宮・長谷川明・樋渡滋共著、技報堂出版、1991年3月、1996年2月、2003年5月

構造工学の基礎と応用の表紙     構造工学の基礎と応用の表紙(第2版)     構造工学の基礎と応用の表紙(第3版)     構造工学の基礎と応用の表紙(第4版)

構造工学

宮本裕・岩崎正二・川上洵・小出英夫・五郎丸英博・佐藤恒明・永藤寿宮・長谷川明 ・樋渡滋共著、技報堂出版、1994年3月、1999年3月

構造工学の表紙     構造工学(第2版)の表紙

    構造工学(第2版)の訂正    構造工学の基礎と応用(第3版)の訂正     構造工学(第3版)の訂正     構造工学の表紙(第4版)

    

ここでは これらの本の内容の特徴見どころ、あるいは うら話など書きます。

     構造工学の編集委員会(写真)

  私の構造力学論(わがまま言ってすみません)

  SI単位について

  応力法と剛性マトリックス法

                        

  

 


内容の特徴 見どころ


構造工学の基礎と応用(改訂版)

第1章 力のつり合い
 安定していると構造物は力のつり合いが成り立っている。
  ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0 
 連力図もつり合いを直感的に理解するには必要と考え説明した。
 連力図は必要がないという先生も全国的にはいるようであるが。

第2章 断面の性質
 断面1次モーメント、断面2次モーメント 図心の計算
 断面2次モーメントの意味が理解できないという学生が多い。
  もっともなことで、これは応力やたわみを計算するとき必要な量ですね。

 断面2次モーメントが大きくなると梁の応力は小さくなり、
一方では梁はたわみにくくなります。
 梁部材の強さを示す、一つの物理的な量なのですが、
応力も目に見えないし
 (応力に比例するひずみなら見える可能性はあるが、
目に見えるくらい大きなひずみなら、すぐ破壊に至る)
 たわみも目に見えないくらい小さいから困ります。

 駅前の開運橋の真ん中で信号待ちしている車の中にいたら、
橋がたわんでゆっくり振動しているのを感じますから、
そういう場面で理解するしかないですね。
 ひずみとたわみは別のものですが、一般に大きくたわむものは大きなひずみを受けている。

 この章で工夫したことは、
組合せ断面の全体図心軸に関する断面2次モーメントを計算する問題について2つの
方法を説明し、
同じ結果を与えることを示したことである。

 第1の方法とは、各断面要素の断面2次モーメントを全体図心軸まで平行移動して、
それらの和を求める方法であり、
 第2の方法とは、一般設計計算で行われるように、
計算しやすい軸に関する断面2次モーメントを計算して、
 これから(全断面積)X(移動距離の2乗)を、引き算して求めるものである。

 これらの2つの方法は同じ結果を与えるものであるが、
どちらでもよいことを説明するためにわざわざ2つの方法を並べて書いたのである。

第3章 静定梁
 静定(せいてい)という専門用語の定義:
 力のつり合い条件式(ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0)だけで解ける問題。

 単純支持の梁について曲げモーメント図やせん断力図を描く。

 理解を深めるためにたわみ曲線のイメージ図も載せている。

 なお片持ち梁については自由端が右であるか左であるかで、せん断力の符号が異なるので、
 自由端が右の場合と左の場合の両方を並べて説明した。

第4章 梁の曲げ応力とたわみ
 すでに勉強した梁の断面2次モーメントを使って、
 曲げ応力とせん断応力を計算する方法を説明し、

 さらに組み合わせ応力を計算する方法を説明した。
 これは設計には重要なことがらである。

 梁の微分方程式を積分することにより、たわみ曲線を計算する方法を説明した。

 応力を説明するのに私はよくハイヒールの例をあげます。

 学生諸君も学校を卒業したら東京で会社勤務。
 そうすると通勤電車はラッシュアワーなら来る電車来る電車がみな満員。
 諦めて無理に乗ると、中は押す直すなのおしくらまんじゅうの世界、身動きもできない。
 誰かに足を踏まれてしまった。ハイヒールに踏まれた。だから痛かった。

 痛さを数式で表してみよう。
 もし体重42キログラム(何N?)の若い女の子に踏まれたとしたら、
彼女の片足にかかる力は21キログラム。
 計算を簡単にするためハイヒールの前と後ろに均等に力がかかるとすれば、
ハイヒールに10.5キログラムの力が働く。
 ハイヒールの先端の大きさ(底面積)を計算するのにまた簡単に、
ハイヒールの底面積の形を1辺が5ミリメートルの円形とする。
 そうしたら底面積は0.5*0.5*π÷4=0.196平方センチメートル。
 したがってハイヒールに作用する応力(面積当りの力)は
 10.5÷0.196=53.6平方センチメートル当りキログラムとなる。

 さて若い娘のハイヒール力を体験して、
 諸君は別な日にまたもや満員電車で足を踏まれるという体験をすることになる。

 今度はお相撲さんだった。
 あの(引退した)小錦に踏まれたとする。
 正確な体重はわからないが、ここでは仮に200キログラムとしよう。
 例によって片足に働く力を計算すると半分の100キログラム。

 お相撲さんは平べったい草履(ぞうり)を履いているとしよう。
 この草履の底面積を計算するため簡単に草履の大きさを
 10センチメールト*20センチメートルとしよう(本物はもう少し大きいかもしれない)。
 そうすると底面積は200平方センチメートルだから、
 草履に作用する応力は100÷200=0.5平方センチメートル当りキログラムとなる。

 つまり力士に踏まれたら、若い女性のハイヒールに踏まれた時の100分の1の応力しかない。

 したがって痛くないはず。

 しかし、もし諸君がその若い女性が憧れのタレントだったりすると
 物理的力は大きいはずだが心理的力はささいなものになってしまう。

第5章 静定トラス
 静定トラスも静定だから、力のつり合い条件式(ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0)だけで解ける。

 トラスの場合は各節点において力のつり合い条件式(ΣV=0,ΣH=0)を適用して
 次から次へと解いていく節点法が初心者には理解しやすいようである。

 しかし、この方法では支点から順次解いていくので時間がかかる。
 途中で部材力の計算を1つでも間違えると、それ以降の計算はすべて間違ってしまう。

 そこで上級者向きの断面法がある。

 マジックでベッドに横たえる美女を大きな刃物で切断するマジックがある。
 真二つに切られたと思いきや、美女は無事だったことがわかって観衆は拍手喝采。

 あのマジックのイメージをトラスに当てはめてみよう。

 どこかトラスにナイフを入れてある断面で切ってしまったとする。
 この切断面の左側の世界か右側の世界について考えてみよう。

 切られた断面に生じている部材力と自分の考える世界(たとえば左半分の世界) に存在する
 すべての荷重と支点反力の間で、
 力のつり合い条件式(ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0) を考えると解けるのである。

 しかし、これはなかなか難しいようだ。
 ついつい考えるべき荷重を忘れて計算に入れなかったり、
 あるいは違う世界の力(今の場合は右半分の世界)を計算に入れたりする。

 特にΣM=0はどこで考えても成立する。
 (トラスは安定しているから、どこにおいてもこの式は成り立つ。
 もし成り立たないときはトラスが動いて回転してしまう)

 この断面法のコツは、曲げモーメントのつり合い式(ΣM=0)を、
 切断面の部材の2つ以上の部材の交点において考えればよいのであるが、
 これがなかなか人によっては難しいらしい。

 できない人は時間のかかる節点法でやるしかないですね。

第6章 影響線
 橋の設計に絶対に必要な影響線のことを説明している。

 橋の上を連行荷重が移動する際、ある特定の位置に荷重がきたとき
 最大の曲げモーメント(絶対最大曲げモーメント)が生じるが、その求め方を説明して、
 そのほか考えられる色々な場合についても計算して、
 一番大きな曲げモーメントになっている事実を納得がいくように説明している。

第7章 柱の座屈
 座屈とは細長い部材や厚さの薄い板に圧縮する力が作用したとき、
 たわんで外力に抵抗する力(復元力)が部材を曲げる力に負けたようなとき
起こる現象で、
 鋼構造物に特有の破壊現象である。

 橋だけでなく自動車、飛行機、船舶などにも起こるので、
 設計応力を計算するには絶対に必要である。

第8章 不静定構造物の基礎
 みんなで集まって編集委員会をしたとき、この章を設けることになった。

 静定(せいてい)構造物が力のつり合い条件式(ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0)
だけで解けるのに対して、
 不静定構造物ではそれだけでは解けない。
 したがって、もう1つ場合によってはもっと多くの条件式が余分に必要になる。

 例え話であるが2人でゲームをしていたら、
 自分の勝点の分だけ相手は負点をもっているわけで、自分の点数からすぐ相手の
点数はわかる
 (これが静定)。

 しかし、3人でゲームをしていると自分点数だけでは2人の相手の点数はわからない。
 せめて片方の相手の点数がわかれば残りの相手の点数はわかるのだが。
 このとき片方の相手の点数を与える式が、不静定構造物を解くための条件式になる。

 不静定構造物を解くために、いくつ条件式が必要かを最初に見当をつけないといけない。

 最初の判断が誤れば当然正しい答えは得られない。

 この必要な条件式の数を不静定次数という。

 本格的な解き方は次の章で説明するので、
 ここでは重ね合わせによる解法と微分方程式による解法を説明している。

 重ね合わせというのは要するにスーパーインポーズ superimpose
 特撮映画のように、
 タレントCちゃんだけを撮影し、
 別にゴジラだけを撮影しておいて、
 2つの場面を合成すると、
 タレントCちゃんとゴジラが一緒に写っていることになる。

 ミルクコーヒーもわけて考えたら、
 ミルクだけ状態(状態1)と
 コーヒーだけの状態(状態2)
 を合わせるとよい(状態1+状態2)

 コークハイ=コーラー+ウィスキー
 ハイボール=炭酸水+ウィスキー。

 構造力学は単純だが、化学の世界は複雑だ。

 例えば、酸とアルカリを混ぜると塩になる(似ても似つかぬものができる)。

第9章 エネルギー法
 だんだん構造力学も難しくなってくる。

 正確な表現でなく物理学者には叱られそうだが、
 ひずみエネルギー、内力仕事、外力仕事を説明する。

 カスティリアノの定理を説明しながら最小仕事の原理を説明する。

 自然界の現象はエネルギーが無駄のないよう最小のエネルギーで起こるものである。

 例として光の空中と水中における速度の違いから屈折現象を説明して、
 お風呂の中に落ちた100円硬貨を見える方向に手を延ばしても届かないことなど説明する。

 また子どもの近道する習慣を例に
 正規の遠回り道を通らず芝生を横切って道あとをつける行為も例として示す。

 梁の内力仕事Wは曲げモーメントの2乗に比例するから、
 エネルギーを最小にするには、曲げモーメント式の2乗した式が最小になればよい。

 求める不静定力をXとすると、曲げモーメントの式はXについての1次式になる。
 つまりM=aX+b。
 曲げモーメントを2乗した式は(aX+b)を2乗した式だから、
 この式は2次式になる。 (aX+b)2=AX2+BX+C

 つまりエネルギー(内力仕事W)を表す式はXについての2次式だから
 放物線を表す式となる。

 となれば放物線の図を描いて、
 谷底が起こりうる最小のエネルギー状態である。

 早速横軸にXをとって縦軸に内力仕事Wをとってグラフを描けばよい。
 谷底を求めるために一般には第1次導関数を計算して0とおくわけである。

第10章 三連モーメントの定理
 三連モーメントの定理を使えば連続梁などは簡単に解ける。

 三連モーメントの定理は分類すれば、未知量は力(曲げモーメント)なので、
応力法になる。

第11章 たわみ角法
 ラーメンなどの解析に用いられるたわみ角法をやさしく解説しながら
解いている。

 たわみ角法は分類すれば、未知量は変位(回転角)なので、
変位法(変形法)になる。
 これは次の章の剛性マトリックス法と本質的には同じ方法である。

第12章 剛性マトリックス法
 現代の設計では有限要素法は常識となっている。
 しかし、その理論を学ぶことは大変である。

 未知量が変位や回転角なので具体的な目に見える量ではなく、
 立てられた方程式(剛性マトリックス)が多元連立方程式となるので
 筆算では計算が困難になり、
 どうしてもコンピュータの助けを受けないといけなくなる。

 この章においては、
 平面トラス、連続梁、ラーメンなどの構造物のそれぞれの剛性マトリックスを説明して、
 変位や応力を求めている。

 途中を省略しないで説明しているので、初心者でも理解しやすいと思われる。

 なお、ラーメンのたわみ角法においては、部材の伸縮を無視しているが、
 剛性マトリックス法では部材の軸力を考えているから
 当然部材の伸縮量を考慮している。

 たわみ角法は剛性マトリックス法における特別な場合といえるが、
 そのことを説明するため
 水平荷重を受ける門形ラーメンを例に取り、
 剛性マトリックス法で計算して、
 部材の伸縮量をパラメータにとり、
 このパラメータを変化させてラーメンの曲げモーメントを図に表示した。

 こうして部材の伸縮量がなくなった場合に、
 剛性マトリックス法の解がたわみ角法の解に一致することを確認させた。

 第11章と第12章を統合したわけである。

第13章 梁の振動
 1質点系の振動や連続体としての梁の振動解を説明した。

第14章 コンクリート構造
 卒業生が建設の仕事でよくぶつかる鉄筋コンクリート構造物、
 プレストレストコンクリート構造物、あるいは合成構造物などについて
 応力やひずみなどの具体的な計算例をたくさん説明した。

 鉄筋コンクリートの応力計算理論と鋼コンクリート合成桁の応力計算理論とは
 本質的には同じものである。

第15章 最適設計
 最適設計の考え方をいくつかの計算例を通じて説明した。

 

構造工学


 こちらの本は重複を避けるため各章ごとに説明するのではなく、全体的に注目
すべきことを箇条書きにしていきましょう。

 第1章では、力がつり合うためには、
 力の多角形が閉じている上さらに、連力図が閉じていないといけない。
 つまり ΣV=0,ΣH=0,ΣM=0 であるが
 連力図を使って直感的に説明している。
 連力図の応用としてアーチ橋が放物線になることを理論的に合理的に説明されている。

 第4章では、初心者にとって難しい影響線を単純梁や片持ち梁などについて丁寧に
整理してある。

 第11章では三連モーメント式を誘導するための基本のたわみ角式は
ラーメンのたわみ角式と同じものであるが、
研究のため別解として微分方程式から誘導している。

 第12章の剛性マトリックス法では平面トラスの剛性マトリックスをばね公式から
誘導している。
 梁の剛性マトリックスはたわみ角式から誘導している。
 なお計算例については、「構造工学の基礎と応用」では数値計算例で説明しているのに対して、
ここでは解析的な解を計算で求めている。

 つまり構造物の力や変位が解析的に求められたので、
 部材長、部材の剛性、荷重の大きさなどを変えたければ
 求められた解に数値を代入すると直ちにそのときの答えが得られる。

 第13章には梁の曲げ振動と衝撃問題が解説されている。

 最後に有効数字について説明している。
 設計では鋼やコンクリートの材料強度のばらつきや製作誤差などがあり、
 また地震力や洪水などの荷重を確率的に見積るために、
 計算に使われる有効数字には実用的な制限がある。

 実験においても測定値の読み取り誤差もある。

 これらのことを考えると、いたずらに桁数をたくさんとって計算しても無意味である。
 計算にあたって与えられる数値そのものが、限られた少ない桁数の有効数字であるからである。

 しかしながら、ある方程式などで計算される理論的な数値をあつかう場合は、
 計算機の特性から計算誤差が大きくなって計算精度が悪くなることを心得ておく
ことが大事である。

 これは理論を検討したり、発展させたりするときに計算シミュレーションの精度を
検討するため必要なことである。

 乗法や除法において、計算結果の有効数字の桁数は、最初に与えられる
数字の中の桁数の少ない方の数字の桁数となる。

 コンピュータは扱える桁数の制限があるため、
 絶対値が大きく異なる
2数の加法および減法によって、
 有効数字の下位の桁が失われる現象を情報落ちという。

 絶対値のほぼ等しい2数の加法または減法によって、
 計算結果の有効数字の桁数が
著しく減少する場合を桁落ちという。

 コンピュータを使って計算する場合、情報落ちや桁落ち誤差が累積され、
理論値に対して大きな誤差を生じている場合がある。

 対策として、このような現象が起こりにくいように
演算の順序を変えるなどの方法がある。
 ここでは具体的数値を使って説明している。

 読者の気分転換のため橋の写真を余白に掲載した。

 14頁の橋の写真は、三陸国道の鋼アーチ橋(赤色)と
 三陸鉄道北リアス線のコンクリートアーチ橋(灰色)が重なって見える地点に行って撮影した。
 この場所は旧道の谷の途中にあるので、宮古方面から北上し国道の鋼アーチを渡って
すぐ左折して谷底へ降りる道をいけばよい。
 カラー写真でなくて残念。

 36頁の橋の写真は大阪市の桜宮橋で鋼3ヒンジアーチである。
 この説明文のチェックをパソコン通信を使って現地の方にしていただいた。

 44頁の橋は北上市の珊瑚橋で岩手県の有名なゲルバートラス橋である。

 62頁には仙台東部道路の名取川に架かる単弦ローゼ橋の写真がある。

 80頁には江戸時代の石アーチ橋通潤橋の写真がある。

 104頁には福島県柳津町の只見川にかかるニールセンローゼ橋(瑞光寺橋)と
吊橋(観月橋)のすばらしい景観写真がある。

 156頁には三陸鉄道北リアス線のコンクリートのトラス橋の写真がある。
 コンクリートのトラスは珍しいが、海岸線の橋梁の維持管理の観点から新しい試みである。

 176頁には秋田県湯沢市高松の三途川橋の写真がある。
 赤い方杖ラーメン橋である。

 216頁には3径間連続PC斜張橋である青森ベイブリッジの写真を載せている。

 228頁には三陸のリアス式海岸の深い谷にかかるアーチの 思惟大橋の写真を載せている。

構造工学(第2版)


 この本は次の点が主な改訂点である。
SI単位に移行されたが、設計現場の事情を考慮して、従来の重力単位系とSI単位系を併記した。
2次元応力問題のモールの円の解法について、梁理論と弾性論の定義式をまとめて説明した。
初版本の説明の足りない部分を補い、かつ新しい例題を増やした。

 14頁の橋の写真 三陸国道の鋼アーチ橋(赤色)と 三陸鉄道北リアス線のコンクリートアーチ橋(灰色)

 36頁の橋の写真 大阪市の桜宮橋 鋼3ヒンジアーチ

 44頁の橋の写真 岩手県北上市の珊瑚橋 ゲルバートラス橋

 62頁の橋の写真 仙台東部道路の名取川に架かる単弦ローゼ橋

 80頁の橋の写真 江戸時代の石アーチ橋通潤橋

 162頁の橋の写真 山形自動車道 大井沢橋(P&Z工法)架設桁併用張出し片持ち架設工法

 182頁の橋の写真 秋田県湯沢市高松の三途川橋赤い方杖ラーメン橋

 222頁の橋の写真 3径間連続PC斜張橋青森ベイブリッジ

 234頁の橋の写真 岩手県田野畑村の鋼アーチ橋思惟大橋

 256頁の橋の写真 福島県柳津町の只見川にかかるニールセンローゼ橋(瑞光寺橋)と
吊橋(観月橋

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うら話


構造工学の基礎と応用


 構造工学の基礎と応用は簡単にいえば例題を使って問題の解き方を解説し、
応用問題と解答を要領よくまとめた本です。

この本を作るきっかけになったのは、ちょうどそのころ私はドイツ語の本「Bruecken」を
翻訳して鹿島出版会から「橋の文化史」として出版するところでした。

まさにそのころ
十数年間ずっと構造力学の教科書を使ってきた技報堂の会社の方が
私の部屋に来られたので、
私がドイツで買ってきた構造力学の問題集を翻訳して出版したいと相談したのです。

しかし、翻訳は原著者に著作料を払わなければならず
苦労するわりに利益が少ないからと私の提案は採用されませんでした。
むしろ自分で例題をいっぱい載せた構造力学の解説書を書いたほうがいいと勧められました。

ただし条件があったのです。
それは、東北学院大学の某先生が中心になって東北の私立大学の先生方で書かれた
コンクリート工学の本が大変よく売れたので、
私が書こうとする本は東北地区の大学の先生方と一緒に書くという条件でした。
こうすれば偏りのない内容となり東北の各地で講義に使われるでしょうから。

 東北の各地の大学の構造力学の先生はいっぱいいます。
どなたに声をかけたらいいか考えました。

結局、昔からお世話になっていた秋田先生にまず声をかけました。
秋田先生は私が岩手大学に赴任して土木学会東北支部の研究発表会で
最初に発表した時にお会いしたのです。

その時に、今も講義や演習に使っている、乱数を利用して各学生が異なる数値で解く
という問題の出題プログラムを教えていただいたのです。

学会が終わって懇親会は東一番町のはずれのパーラーでした。
秋田先生に誘われて参加したら、私以外はすべて東北大学の関係者でした。
東北大学の先生方に紹介され、
その時の縁で東北大学の関係者にはいろいろお世話になってきました。

岩手大学の土木工学科から東北大学の大学院にも多数進学することができました。

そういう長い間のお付き合いがあったから、秋田先生も原稿を書くことを承諾されました。
秋田先生には、問題を中心に解説した本はなかなかないから、良い企画だと言われました。
秋田先生は(名前は秋田ですけれども)盛岡一高の出身で盛岡にも詳しい先生です。

秋田先生の承諾を得て元気づけられた私は、
それから各大学の先生方に声をかけなんとかスタッフの目鼻がついてきました。

私はこの機会に、今までの構造力学の本と少し違いを出そうと思いました。
これまでの構造力学の本は、材料としては主として鋼を対象とした力学理論の本なので、
コンクリート構造とか鋼とコンクリートの合成構造もあつかったほうが
時代のニーズにあうと考えました。

合成構造の研究で私と共同研究の実績もある秋田大学の川上先生にも
加わってもらうことにしました。

さらに、高専編入生で岩手大学を卒業して現在母校の高専の教官になっている
2人の先生にも加わってもらうことにしました。
高専の教育はハードでなかなか忙しく、研究論文を書くにも条件が整わず
苦労しているのを知っているから、
高専の先生が本を書くということで研究業績を上げることになると考えたわけです。
他の高専の先生の励みにもなります。

この2人の若い高専の先生方には一番骨の折れる力の釣り合い、
梁の曲げモーメントやせん断力の計算それから不静定の各章の執筆をお願いしました。
ここらは高専の学生に説明するにも力を入れなければならないところで、
説明のノウハウも活字に残しておきたいところだからです。

ということで全員9名が夏の盛岡繋(つなぎ)温泉に集まりました。
学会講演などでたまに顔をあわせることもありますが、
全員同じ場所に集まったのは始めてでした。

 それから議論が始まり、
それぞれの体験や教育論に基づいて激論がいつ果てるともなく続きました。

たとえば、せん断力図の描き方で、
プラスのせん断力を上に描くべきか下に描くべきかということですが、
土木学会発行の構造力学の本では、プラスのせん断力を下に描いています。

すでに出版されている多くの本を調べた先生もいて、
その先生によると著者によりばらばらで、
プラスのせん断力を上に描く本と下に描く本は半々のようです。

結局、誰かが言ったことですが、
反力は普通は上向きなので、
左支点付近から考えていくから、
上向き反力から連想して
プラスのせん断力を上にとった方が初心者にはわかりやすいのではないか
という意見を採用しました。

また曲げモーメント、せん断力、軸力の正負の符号の判別をするのに
2つの方法があります。

1つはチョコレートのかけらのような微小な要素を考え、
その両側に作用する一対の力の向きで定義します。
→□←
(圧縮状態を表します。東京の満員電車の中のバレーボールを想像してみてください。
おしくらまんじゅうですね。)
←□→
(引っ張り状態を表します。綱引きの綱です。納豆の糸のイメージ。)

これは微分方程式を立てるときなどの常套手段だから、あんがいたくさん使われる説明です。

しかし、ラーメン構造などで部材と部材の接合部では応力(曲げモーメント)が
微妙に変化した場合に、
微小な要素を考えその要素の回りにどういう力が作用するか考えたら
なかなか難しい問題になります。

私の恩師の渡辺昇先生はドイツの本を読んで、
断面力つまり切断した断面に作用する一対の力を考えたほうが明快なことに気がつき、
自分の著書はすべて断面力で定義したと話されていました。
 〕→ ←〔 (引っ張り状態)
 〕← →〔 (圧縮状態)

つまり構造物の内部に作用する力の正負を考えるのに、
微小な要素に作用する一対の力として考える考え方、
切断面に作用する一対の断面力として考える考え方、
この2つの方法があります。

どちらも正しいのです。

実は同じことなのに説明の方法が違う。あとは学ぶ人の好き好き。

したがって私たちは両方の力の定義を本に載せました。
ややくどい本になりますが、徹底するという意味では良い本になったと自画自賛しています。

 こうして議論に疲れた私たちは、
別室で夜の部で食べながら飲みながら議論の続きをすることになりました。

よく考えたら私はこのメンバーと
少なくとも1度は酒を酌み交わしたことがあります。
たぶん全員との酒のコミュニケーション(ノミニケーション?)をしたのは
私だけでありましょう。

そこで私が各先生方一人一人について、
私とのこれまでのいきさつを説明しながら紹介していきました。

とにかく、細かい議論はわきにおいて(議論の結論が出なくても)、
この構造工学の本を出版しようということになりました。

各大学や高専で教科書として使うことにすれば、
毎年600〜700冊は売れるはずなので、
5000冊を目標に頑張ろうということになりました。

5000冊売ったら、改訂版を出してもよいと、
その席に来ていた出版社の I さんも言ってくださいました。

I さんはその日のうちに東京へ帰ってしまいました。

なんでも、その時に女の子が誕生したそうです。
だから I さんにとっても、この構造工学の基礎と応用は忘れられない思い出の本だそうです。

激論は翌日も続き、3日目の朝に疲れたみんなはそれぞれの家へと帰って行きました。
あの頃はみんな若かった。

 この本と橋の文化史の両方の出版が重なったので校正は大変忙しい思いをしました。

私はこの話をまとめて出版社に交渉したので、
私が全体のまとめ役になることに皆さんの同意が得られたから、
各執筆者との連絡や全体の原稿の調整、原稿の校正もいたしました。

各執筆者は自分の書いた章だけ校正するのですが、
私は全部の章をチェックしたわけです。

チェックしてみると、それまで気がつかなかった計算ミスとか説明不足とか、
似たような問題が別々の章で取り扱われている等不備が見つかり、
計算結果の答えが正しいかどうかを別解法で求めて確認しました。

その年の12月にドイツへ渡り橋の文化史の原著者と会って、
細かい質問をして教えてもらったり、
ミュンヘンのドイツ博物館をもう一度見学したりしてきたので、とにかく忙しい冬でした。

さて、本ができて教室で使ってみると、またもや多数のミスが発見され、
訂正を赤ペンで直した本を出版社に送って次の印刷の時に訂正しました。

その後も何度か印刷の度に新たに見つけられた間違いを訂正するなどして、
なんとか間違いのない本になりました。

そして5年たったら5000冊完売の見込みがたち、
約束の改訂版を出すことができたのです。

現在のところ改訂版が世に出てまる1年間で1500冊の本が出ました。

おかげさまで愛されていると思います。

この本は多数の先生方の長い講義や研究生活に基づいて書かれた本なので、
奥行きが深い本だと考えています。

構造力学の本は昔からあり、
土木工学や建築学や機械工学などの分野で、
それこそ星の数ほどたくさん出版されていますから、
なかなか新しい本を出しても相手にされないのです。

そういう状況なのですが、我々の本は、内容を少しずつ工夫して書いていて、
剛性マトリックス法の解法を具体的に詳しく書いたり、
合成構造物の理論式を説明したり、
最適問題を扱ったりして特徴を出したつもりです。

ただ今になってみると、反省することもあります。

実は原稿はもっとたくさん用意していたのです。
丁寧に詳しい説明も書いたのです。

しかし本の値段を安くしないと売れないということで、
本の値段を下げるためには頁数の制限があり、
結局詳しく書いた原稿を思い切って圧縮したので、
説明を省いたり文章を短くしたのです。

その結果、説明不足、わかりにくいという学生の声をよく聞くので、
今年は教室でアンケートや宿題に、どこをどう説明を加えたらいいか、
具体的な要望とか、修正案を募集するつもりです。


構造工学


 「構造工学の基礎と応用」を世に出してから、
我々が思ったのはなんとか説明のいっぱい入った教科書を書きたいということでした。
そして、その機会は案外早くきました。

 「構造工学の基礎と応用」の売れ行きが順調なので、
出版社も我々が今度は本格的教科書を書きたいという提案を受入れてくれました。

「構造工学」の最初の編集委員会は盛岡市内のホテルでしました。
もうメンバーも学会の度に集まっていたので気心も知れて、
主な点だけ相談したら互いの原稿に対する注文や意見も出尽くしたように思われました。

実際には本になって講義などで使ってから、また考え直したほうが実用的なのですが。

理論を最初から書き始めたいという著者たちの要望はかなえられ、
いちおう満足したのですが、
読者の感想はどうでしょうか。

もしかすると著者たちの自己満足に終わっているかもしれません。
説明をこういうふうに直したら、あるいは付け加えたほうがいいアイデアがあったら、
どうぞ私まで電子メールでお知らせください。

この2冊の本について質問や意見があれば電子メールを送ってください。