土田貴之氏の博士論文の審査要旨

審査結果の要旨                                                           

 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)をきっかけに建設省が中心となり、道路橋 
示方書が平成8年12月に全面的に改定された。それまでの示方書では非線形領
域におよぶ橋梁全体系の破壊状態を考えた設計が要求されなかったが、新示方書
では必要になったのである。そして、設計におけるこの分野の研究は今までほと
んどなかった。この示方書の精神にもとづいて、高速道路に多数見られる中小規
模橋梁の耐震性を明らかにしたのが本研究である。すなわち、大規模地震時の橋 
脚や支承などの局所系の損傷やこれに伴う構造系の変化が橋全体系の耐震特性に 
与える影響を明らかにしたものである。                                    
 この研究によって、橋梁を全体システムとしてとらえ、破壊過程を考えた合理 
的な耐震設計をすることができるようになった。特に鉄筋コンクリート構造や合 
成構造の非線形動的解析を行い、これらの橋の性能照査設計に役立つ資料を与え
たことは、この分野の先人的な研究成果であり、独創性が認められ、設計に大い 
に貢献するものである。なお、性能照査設計とは、構造物がその生涯において想 
定される様々な限界状態に対して所要の性能を明らかにし、それらに対してバラ
ンスよく設計することである。

 論文の主な内容は次のようになる。                                       
  耐震設計法の分類(第2章)

第3章では、等橋脚ラーメン高架橋に対して、静的な水平震度を漸増載荷するプ
ッシュオーバー解析を主体とした大規模地震時の耐震設計法を提案した。そして、
荷重の載荷方法や基礎の境界条件が動的解析やプッシュオーバー解析における局
所系の損傷と全体系の耐震特性に与える影響を検討した。                     

第4章では、不等高橋脚ラーメン橋を対象とし、局所系の損傷状態のモデル化と
して、弾塑性梁要素を用いて曲げモーメントと曲率の関係でモデル化する方法と、
弾塑性回転バネを用いて曲げモーメントと回転角の関係でモデル化する方法の2
種類を比較するとともに、地震荷重の載荷方法の違いによる影響を検討すること
によって第3章で検討したプッシュオーバー解析の応用を試みた。             

第5章では、第4章の不等高橋脚ラーメン橋に対して、従来の鉄筋コンクリート
橋脚より耐震的かつ経済的な橋脚として、工場製作した鋼鈑を現場で組み立てコ 
ンクリートを充填する合成構造橋脚を提案し、その優位性を確認した。         

第6章では、1960年代に山岳地の道路橋で多く建設された多層のコンクリートラ
ーメン橋脚を有する橋台固定式橋梁を取り上げ、加速度振幅を調整した数種類の
地震波形を用いた動的解析により、橋軸方向および橋軸直角方向の局所系の損傷
過程と全体系あるいは橋脚系の耐震特性の関係を検証した。                   

 この研究の主な結論は以下のようである。                                 
・大規模地震による地震力と局所系の損傷状態を考慮した全体系解析モデルを採
用することによって、実構造物の大規模地震時の挙動を精度よく表現することが
できた。                                                                 
・任意の大きさの地震力に対する局所系と全体系の損傷度の相互関係が明確にな
るため、設計地震力に対する全体系の損傷度がさらに明確になった。           
・想定地震力より大きな地震力が作用した場合、全体系の耐震安全性の余裕度が
明確になった。                                                           
・全体系に最も影響を及ぼす局所が推定できることによって、全体系にとって最
も望ましい損傷過程が推定でき、これに対して合理的な耐震設計が可能になった。
・この考え方は耐震補強設計における補強対象部位を特定する場合にも有用であ
る。                                                                     
・建設された橋梁が地震被害を受けた場合に、特定の局所系の損傷度をモニタリ
ングすることによって全体系の健全度が評価できるようになった。             
 本論文の一部は3編の査読付論文に発表された上、日本コンクリート協会発行
の「コンクリート構造物の震災復旧・耐震補強技術と事例」(1998.8)に引用され
た。                                                                     
                                                                         
 よって、本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認める。