第6章の結論
本章では橋軸直角方向には高次不静定構造であるフレキシブル橋脚に対して
地震応答解析を用いて耐震性を検討した。その結果、次のことが明らかになっ
た。
(1)橋軸方向
橋台の固定支承は大規模地震により損傷する可能性が高く、この損傷によっ
て構造系は短周期構造から長周期構造へ変化する可能性が高い。
長周期化することによって、橋脚に作用するせん断力、橋脚中間の曲げモー
メントが低下する。ただし、橋脚基部はいずれのモデルでも降伏曲げ耐力に至
っている。また、桁遊間より大きい変位が発生することから上部構造が橋台に
衝突する可能性がある。
衝突によって、曲げモーメントは固定モデルより大きくなり、橋脚基部だけ
でなく橋脚中間についても降伏曲げ耐力以上の曲げモーメントが作用すること
がわかった。
同じく、せん断力は固定モデルより大きくなりせん断耐力以上である。特に
橋脚天端でのせん断力の卓越が著しく、橋脚上の支承についても損傷の可能性
がある。
(2)橋軸直角方向
塑性ヒンジは梁端部と柱基部に形成される。塑性ヒンジは、まず梁端部に形
成され、統いて柱基部に形成される。
橋脚の応答加速度や応答変位は、梁端部よりも柱基部の塑性化によって大き
な非線形性を示す。
柱の軸力変動は極めて大きいが、応答加速度や応答変位への影響はほとんど
ない。
柱基部の塑性化の程度は、軸力変動に伴うM‐φ関係の変化を考慮することによ
つて結果に差異が生じる。軸力変動に伴うM.φ関係の変化を考慮すると圧縮を伴
う曲げモーメントに対しては耐震性に余裕がでるが、引張を伴う曲げモーメン
トに対しては耐震性が厳しくなる。
以上の結果を踏まえて、耐震性向上にあたっての留意事項を示す。
橋軸方向に関しては、上部構造と橋台の間に充分な遊間を確保し、橋台の固
定支承を弾性支承等に取り替えて長周期構造とすることによって、損傷の可能
性がある部位を限定することができると思われる。 しかしながら、既設橋では
施工上の制約等の理由により充分な遊間を確保することは極めて困難である。
このような場合の対策としては、上部構造と橋台の間に衝突緩衝材等'を設置す
ることで地震入力を低減し、上部構造と橋台の衝突緩衝を図ることが有用であ
ると考えられる。
橋軸直角方向では、柱および梁部材のせん断耐力の向上および変形性能の向
上が望まれる・曲げモーメントに関しては、柱の軸力変動に伴うM‐φ関係の変
化により、柱基部が終局状態に至ること、また、柱基部の塑性化は橋全体とし
ての地震応答に大きな影響を与えることから、特に橋脚基部の変形性能を高め
るとともに耐力に対しても向上を図る必要があると考えられる。
これまでの耐震検討は、せん断破壊等のぜい性的な破壊形態を生じたり、変
形性能が不足している可能性が高いものから優先的に行われてきた。今後は低
い橋脚だけでなく高橋脚を有するような長大橋等の耐震性についても検討して
いく必要がある。高橋脚は脚高の低い橋脚と比べると補強が大がかりになり、
多額の費用を要すると考えられる。したがって、効果的な補強を行うためには、
本研究で述べたような耐震上の弱点となる部位や構造を明確にしたうえで補強
工法に種々の工夫を施す必要がある。また、これまでの耐震設計は部材レベル
の照査に関するものが多数であり、今後は本研究で試みたように橋梁システム
全体として耐震性を評価していくことが重要である。
本研究では水平方向の入力地震動しか考慮しなかったが、鉛直方向も同時に
考慮すると、軸力変動やこれに伴うM‐φ関係の変化もさらに大きくなると考え
られる。せん断耐力は軸力によらず一定として評価したが、曲げ耐力と同様に
作用する軸力によって変化することから、軸力変動に伴うせん断耐力の変化を
考慮した評価が必要である。また、高橋脚では大規模地震時には幾何学的非線
形性の影響も大きいと思われるので材料非線形性と合わせた複合非線形問題と
して検討していく必要がある。

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