梅田修:世界人名ものがたり、講談社現代新書1437
これはヨーロッパ人の名前を考えるに良い本です。
インターネット書籍注文をしたら、どういうわけか在庫なしで断られた。
しかし、仙台の書店で数冊おいてあるのを発見。さっそく買ってきた。
この本で勉強したことをもとに、私のおそまつ知識も加えて書いていきましょう。
アン
赤毛のアンは Anne でありAnn ではないとこだわっている。
私も高校の時の同級生(なぜか男の学生)から勧められ、赤毛のアン全集を読みました。
確かにアンは自分の名前に "e" をぬかされて綴られると怒ったり悲しがったりした。
Anne は聖母マリアの母とされるAnna に由来する。
Anne はイギリスのアン女王(在位1702−14)をはじめヨーロッパの王侯
貴族に伝統的に人気のあった名前である。
孤児院育ちのアンは自分に自慢すべきものがなく、名前だけがプライドをもつ
対象だったのだろう。 もちろん小説では、彼女は成績もよく、回りから信望を
集めていく展開になっているのだが。
映画ローマの休日の主人公ある国の王女様の名前は Ann 、
これは庶民的な王女を描こうとした作者の意図を感じるという。
赤毛のアンが大嫌いだと言ったAnnを、気品ある愛すべき王女の名にしたのは、
「ローマの休日」にユーモアを感じると梅田修氏は書いていた。
ここまで理解して映画を見ることができたら楽しいだろう。
マリア
カトリック圏では、女ばかりでなく男にもマリアの名前がつけられている。
カルメンに翻弄されたドン・ホセ(Don Jose)の本名は
ホセ・マリア(Jose Maria)である。
実際に私がドイツのデーテ・インスティテュートのクラスにホセ・マリア
(Jose Maria)というスペイン人の男がいた。口ひげがさまになっていた陽気な若者だった。
女の名前になるとマリア・デ・イザベラ(Maria de Isabella)、
マリア・デル・カルメン(Maria del Carmen)などとなる。
ヨーロッパでマリア信仰が盛んになったのは、聖地巡礼の盛んになった10世紀頃
からである。12世紀のはじめからシトー会の影響でマリア崇拝は頂点に達した。
シトー派修道士の制服は白、それは聖母マリアの白百合の象徴であった。
聖母マリアの別名が、フランス語のノートルダム(Notre Dame, our Lady)、
イタリア語のマドンナ(Madonna, my Lady)である。
なお、ドイツ語なら(Unsere Liebe Frau)である。
16世紀プロテスタントが盛んになってから、マリアの神性が否定され、
人気は急速に低下した。その反動として、カトリック圏ではますますマリア崇拝が
盛んとなり、今でもカトリック圏ではマリアの名前の女性は多いようだ。
ウェストサイド物語のヒロインもマリア。彼女はプエルトリコから来た役になっていた。
ローマ法王と一緒にカトリックを保護してきた
神聖ローマ帝国の宗家であるハプスブルク家にもマリアの名前をもつ女性が
多かった。代表的な人物はマリア・テレジア(Maria Theresia)。
彼女の末娘マリア・アントニア(Maria Antonia)が、フランス王家に嫁いだ悲劇の
あのマリー・アントワネット(Marie Antoinette)である。
ジョン
英語名ジョン John は洗礼者ヨハネ(John the Baptist)から来た名前。
フランス語ではジャン(Jean)
イタリア語ではジョヴァンニ(Giovanni) 銀河鉄道の夜!
スペイン語ではファン(Juan)
ドイツ語ではヨハン(Johann)、イアン(Jan)、ハンス(Hans)などが派生した。
スコットランドではショーン(Sean)→ショーン・コネリーはスコットランド人?
アイルランドではシャーン(Sean)→西部劇名作シェーンはアイルランド難民
ハンガリーではヤーノシュ(Janos) この名前は多い。
ロシアではイワン(Ivan) イワンの馬鹿は馬鹿ジョンのこと?
洗礼者ヨハネのラテン語名ヨハンネス(Johnannes)の女性形ヨハンナ
(Johanna)もよく見かける名である。
この名前の変化したものにはジョハナ(Johana)、ジョアンナ(Joanna)、
ジョアナ(Joana)、ジョアンヌ(Joanne)、ジョーン(Joan)、ジェハンヌ(Jehane)、
ジャンヌ(Jeanne)、ジャネット(Jeannette)などがある。
ジャンヌ・ダルク(Jeanne d'Arc)は英語になおしたら
ジョーン・オブ・アーク(Joan of Arc)である。彼女は自分の村の人からは
ジャネット(Jeannette)と呼ばれていた。裁判の判決文ではラテン語で
ヨハンナ(Johanna)と書かれていたという。
つまり、みんなキリスト教の影響を受けている。
ヨーロッパは各国、各民族のプライドがあるが、底辺でつながっている。
エリザベス
エリザベス女王(Queen Elizabeth)、女優のエリザベス・テーラー(Elizabeth Taylor)
など思いうかぶ。
愛称はベティ(Betty)、ベス(Beth, Bess)、リズ(Liz)、リサ(Lisa)、エライザ(Eliza)
など沢山ある。ベスは若草物語に出てきましたね。
レオナルド・ダ・ビンチのモナ・リサ(Mona Lisa)は英語にするとマダム・リサ。
スペイン語ではイザベラ(Isabella) フランス語ではイザベル(Isabelle)
イザベル(Esabelle)はフランス語的名前である。
旧約聖書では、エリザベト(Elisabeth)はモーゼの兄弟アロンの妻として
出エジプト記6.23に登場する。
新約聖書では洗礼者ヨハネの母として登場する。
エリザベスの名前の伝搬にもっとも影響力のあったのが
ハンガリーの聖女エルジェーベト(Erzsebet 1207-1231)である。
エルジェーベトはハンガリー王エンドレ2世(在位1205−35)の王女に
生まれた。当時モンゴルが勢力をもちつつあったハンガリーに援軍を送った
チューリンゲン伯ヘルマンのもとに1歳のとき引き取られ、ドイツ風に育てられた。
エルジェーベトは、夫ルードヴィヒが十字軍に参戦中に戦死してから、ドイツで
はじめてのフランシスコ信奉者となり、病院や修道院を建てて慈善活動に尽くした。
中世の聖人伝説「黄金伝説」の中に、聖女エリザベトとして、7つの慈悲を
行ったと記述されている。すなわち、それらは、病人を見舞い看病すること、
渇いた者に飲物を与えること、飢えた者に食物を与えること、捕虜を受け戻すこと、
着る物がない者に衣服を与えること、孤児や旅人をもてなすこと、死者を葬ること
であった。
マイケル
英語の男子名マイケル(Michael)やその女性名ミッシェル(Michelle)は、
やはりキリスト教からきている。サタンと戦う大天使ミカエル(Michael)が元の名。
マイケルといえば、漕げよマイケル。それにマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)。
フランスの「ミッシェル」では、男性はMichel、女性はMicheleと綴る。
なお、ミッシェルの女性形は真中のeの上に右下がりアクセント(アクサングラーブ)がつく。
アイルランドにもこの聖ミカエル伝説が伝わった。宗教改革があってから、
新教徒たちの間ではカトリック的なマリアやマイケルの人気が落ちたが、
アイルランドはカトリック教徒が多かったため、マイケルの名はすたれず、
アイルランドを象徴するものになった。
ところで、ミッキー(Mickey)はマイケルの愛称である。
20世紀の中頃まで、アメリカでは
ミッキーとはアイルランド人を侮蔑的に指す言葉であった。
ミッキー・マウス(Mickey Mouse)はディズニー映画のキャラクターから、
今では日本人のあこがれディズニーランドのアイドルとなってしまった。
これはアイルランドのジャガイモ飢饉の時にアメリカに移住した曾祖父を
もつウォルト・ディズニーが、
ミッキーを大切なものとして
自分の作品で大きく咲かせたものである。
つまり、ディズニーの努力が世界の意識を変えたということだろう。
ヤコブ
英語名ジェームズ(James)は、事故死した永遠の俳優ジェームズ・ディーン
(James Dean)の名で有名。
ヤコブは旧約聖書でイサクとレベッカの間に生まれた双子の弟とされている。
(創世記25.26) Jacob
新約聖書の12使徒のうちに2人のヤコブがいる。1人は「ヨハネによる
福音書」の著者ヨハネの兄弟のヤコブ(大ヤコブ)。
もう1人はアルパヨの子ヤコブ(小ヤコブ)。
大ヤコブは、アンデレ、ペトロ、ヨハネとともに最初のイエスの弟子である。
大ヤコブはガラリアの漁師だった。イエスに声をかけられ、網で魚をとらずに
人の心をとらえる道についたといわれる。
グリム兄弟
兄ヤーコプ Jacob Ludwig Carl Grimm(1785‐1863)
なお、弟ウィルヘルム Wilhelm Carl Grimm(1786‐1859)。
ラテン語のヤコブス(Jacobus)→ヤコムス(Jacomus)→古フランス語のジャムス(James)
→イングランドでのジェームズ(James)
英語にはジェイコブ(Jacob)とジェームズ(James)がそれぞれある。