ラインの中流のブルグントの国に美しい姫クリームヒルトがいた。 父は世を去っていたが母ウオテは健在で、兄グンテル、弟ゲールノート、 ギーゼルヘルたちが国を守っていた。 さらにグンテルの叔父たちハーゲン、ダンクワルト、 辺境伯ゲールとエッケワルトなどが勇者としてひかえていた。 クリームヒルトのみた夢(彼女の飼っていた強い美しい鷹が 突然2羽の鷲に襲われ引き裂かれる) 母親はクリームヒルトの未来の夫のことだと予言する。 クリームヒルトは夫のために悲しみを受けないように結婚しないと言う。 母親は結婚こそが人生ですばらしいものとクリームヒルトに教える。 ライン川の下流のニーデルラントの国の国王ジゲムントにジークフリート というけだかい王子が生まれた。王子ジークフリートは武勇に秀でていた。 ジークフリートは美女クリームヒルトの噂を聞いてクリームヒルトに 求婚することにした。両親が心配して強い武士たちを護衛につけてやろう としたが、ジークフリートは自分の力でクリームヒルトを手に入れるつもりで わずか12騎の供を連れてグンテルの国へ向かった。 ジークフリートはブルグント国で客として迎えられ宴会が続いた。 石投げや槍投げなどさまざまな競技が行われたが、ジークフリートに ならぶ者はいなかった。 おりしもザクセンとデンマルクの王がブルグント国に攻め込むことを 通告してきた。グンテル王は、それに対抗できるだけの兵を急には 集められず国は危機におちいった。 ジークフリートはもしグンテル王が兵1000名を提供してくれるなら 自分の国から連れてきた12名の戦士と共にブルグントの国を敵から 守ってあげようと申し出た。 敵は数十倍の兵をひきいていたが、ジークフリートはデンマルク王 リウデカストを一騎討ちで倒し捕虜とした。次の戦いではザクセン王 リウデケールをも生け捕りにしてしまった。ザクセン軍もデンマルク軍 もよく戦ったが王が捕らえられたため敗北を認めた。 凱旋した一行は大歓迎を受けた。ジークフリートは暇乞いをしたが、 グンテル王からしきりにこの国に留まってほしいと懇願された。 ジークフリートはいつの日かクリームヒルトに会えることを心待ちにして この国に留まった。 精霊降臨祭に祝宴が催されクリームヒルトも姿を現した。 弟王ゲールノートは妹クリームヒルトが勇士ジークフリートに 感謝の意をこめて挨拶したら今後ともジークフリートがこの国のために 役立つはずと、クリームヒルトに挨拶するように説得する。 彼女の挨拶を受けてジークフリートは喜び、ミサのため寺院に入った クリームヒルトが出てくるまで待っていた。ミサの後に出てきた姫は 彼が待っていてくれたことに感謝して接吻した。 ジークフリートは彼女に求婚したかったが、まだ自信がなく グンテル王のすすめるままブルグントに留まっていた。 海の彼方のイスランドの独身の女王ブリュンヒルトの噂がブルグント国 にも届いてきた。ブリュンヒルトは絶世の美女でありながら武芸にも すぐれていた。 「私と槍投げ、石投げ、幅跳びの3種の試合をして私に勝った人でないと 結婚しません」そして、どの試合でも彼女に負けたら、命を奪った。 これを聞いてグンテル王は、ブリュンヒルトと結婚したいという あやしい執念にとりつかれた。グンテル王の望みにみな反対した。 ブリュンヒルトをいくらか知っていたジークフリートも賛成しなかった。 ハーゲンは言った。「この困難な仕事には、ジークフリートの力を 借りないといけない。あの女王のことはジークフリートが知っているから」 グンテル王はジークフリートに頼む。「どうか、いとしき女への求婚に 手を貸してほしい。もしあの女が私の妻になるのなら、あなたのために 何でもしてあげよう」 そこでジークフリートは提案する。「もしクリームヒルトと結婚できるのなら 私はあなたを助けましょう」 二人は約束する。 ジークフリートは隠れ蓑をもっていくことにした。これは彼がかつて小人族と 戦ったとき、苦心の末にその王アルプリヒから手に入れたもので、これを着ると 誰からも姿が見えなくなり、自分自身の力の他に12人分の力が加わるふしぎな 宝物だった。 ジークフリートはグンテル王、ハーゲン、その弟ダンクワルトそして自分と わずか4人で武者修業をよそおってライン川を下り北海を越えてイスランドに 向かった。イスランドの都イーゼンステインが見えてくると、ジークフリートは みなに、彼はあくまでもグンテル王の家来として来たことを、 ブリュンヒルトに対しても装うようにと言った。 ジークフリートとブリュンヒルト女王はかねて知り合う間柄だったから、 女王はジークフリートが自分に求婚に来たものと考えた。 自分に求婚に来たのがグンテルだと知って驚いた。 隠れ蓑を身につけたジークフリートの助けがあったので、ブリュヒルトは グンテル王に負けたことを認めた。 彼女は家来たちに、本日からグンテル王の家来になることを命じた。 しかし、ブルグント勢はわずか4人しかいないので、家来たちは女王の 言うことを聞こうとしなかった。 そこでジークフリートは一昼夜ボートを漕いでニーベルンゲンの国にたどりついた。 そこの城門にどう猛な巨人が守っていたが、ジークフリートはついにこれを倒し 騒ぎをききつけ駆けつけてきた小人族の王アルプリヒが、ジークフリートに昔 倒されたことをもはや忘れていて、凶暴に戦いをいどんできた。ジークフリートは彼を倒し 自分の名前を名乗り至急1000人の勇士を用意してほしいと頼んだ。 たちまち兵士が集められ、彼をそれをひきいてイーゼンステインに引き返した。 グンテル王がそれを自分の臣下として堂々と威風を示したので、ブリュンヒルトは グンテルの妃としてプルグントの国に行くことを承知して、多くの家来をともなって ブルグントの国のあるヴォルムスに向かった。 ジークフリートはグンテル王に頼まれて、グンテル王がヴォルムスに王妃をともなって 凱旋することをひとあし先に報告に行った。 グンテル王の妃となったブリュンヒルトもクリームヒルトもひときわ目立って 美しかった。 祝宴の時、ジークフリートはグンテル王に約束通りクリームヒルトと結婚を願った。 王は約束を守り妹を呼んでジークフリートとの結婚を承諾するかどうか聞いた。 彼女の顔を赤らめた様子から二人の結婚は実現できることになった。 ジークフリートとクリームヒルトが並んで席についたのを見ると、ブリュンヒルト は泣き始めた。「あの美しい妹君が、臣下の身分の者の妻となるのを見るのは悲しい。 なぜ、あの高貴なクリームヒルトがジークフリートの妻にならねばならないのか」 そこでグンデルは「あの男は、この国に劣らない広い国の王子なので、妹も あの男と結婚すれば幸福になる」と説明した。 (訳者はここで、どうやらブリュンヒルトとジークフリートの間には隠されたえにし があり、元来はこの二人は愛を誓い合った間柄らしいと書いている) ジークフリートとクリームヒルトの幸福な結婚生活に対して、ブリュンヒルトは グンデル王をベッドで受け入れなかった。彼女はせまってくる王を縛り上げ 壁につるしてしまった。朝にならないと縛りをほどいて王を自由にしなかった。 王から屈辱の話を聞いたジークフリートは、隠れ蓑を着てグンテルらの 寝室に忍びこみ、手強いブリュンヒルトを苦労の末おさえつけた。 かくして彼女はグンテル王に従うことを誓った。 ジークフリートはその場をそっと退いたが、ついブリュンヒルトの手から 黄金の指輪を1つぬきとり、彼女の腰帯も持ってきてしまった。 そして、この指輪と帯を何気なくクリームヒルトに与えてしまった。 これが後日彼の禍のもととなった。 二組の王たちの結婚の祝宴が2週間続いた後、ジークフリートとクリームヒルト は辺境伯エッケワルトや多くの侍女と家来を伴い自分の国ニーデルラントに帰り 父ジゲムントから王位を譲られた。 そして10年の月日がたち、クリームヒルトの産んだ王子の名はグンデル、 ヴォルムスのブリュンヒルトの息子にはジークフリートの名が付けられた。 ブリュンヒルトは夫に説いて、臣下であるはずのジークフリート夫妻を ヴォルムスに招待することにした。再会したみんなは宴会や競技会を何日も 楽しんだ。 高貴な二人の王妃は競技を見ながら誉れ高い武士たちのことを話していたが いつか互いの夫の自慢となっていった。自分の夫が兄グンテルの臣下であると 言われて腹を立てたクリームヒルトは、後で寺院に詣でるときには、自分の ほうが先に堂内に入ることに決めた。 着飾って多くの侍女を従えて寺院の前に来たクリームヒルトのところに ちょうどブリュンヒルトがやってきて「臣下の妻の分際で、国王の妃に 先立つということはありますまい。私が先です」と言った。 クリームヒルトは怒って「側妻の身で妃になれたものはいない」と言う。 彼女は、ブリュンヒルトの処女を奪ったのは夫グンテルではなく、 自分の夫ジークフリートであると言うものだから、ブリュンヒルトは くやしがって泣いた。クリームヒルトは泣くブリュンヒルトをしり目に 国王の妃に先んじて寺院に入っていった。 ブリュンヒルトは堂内から出てくるクリームヒルトに、側妻と呼んだ 何か証拠があるのかと聞く。クリームヒルトはジークフリートからもらった 指輪と帯を見せる。ブリュンヒルトは悲憤の涙にくれて、屈辱を 夫グンテルやブルグントの家来たちに話す。彼らはジークフリートを 倒そうと誓った。グンテル王と王弟ギーゼルヘルは反対したが、重臣 ハーゲンはジークフリートを倒す秘策をねっていた。 物々しいいでたちの32名の武士たちがやってきた。ザクセン王リウデゲール とデンマルク王リウデガストが、またもグンテル王に宣戦に来たというのだ。 宮廷は大騒ぎとなった。これはハーゲンの謀略だったが、何も知らない ジークフリートは彼らの討伐におもむくことを申し出た。 ハーゲンはクリームヒルトのところに行って、夫ジークフリートをどんなことを しても守るから彼の弱点がどこにあるか教えてほしいと頼んだ。 クリームヒルトは、夫が竜退治したとき、両方の肩の間に1枚の広い菩提樹の 葉が落ちて、そこだけ竜の血を浴びなかったことを教える。 そして、ハーゲンの頼みで、クリームヒルトは夫の衣装の肩のあたりに 細い絹糸で十字の印を縫いつけた。 翌朝、ジークフリートが出陣しようとしたとき、ハーゲンから報告があって ザクセンとデンマルクの使者は、宣戦布告にきたのではなく単なる修好使節 だとわかった。 せっかく戦闘の用意をしたジークフリートにとって一戦もせずに馬を下りる のは残念であった。その気持ちをみてとったのかハーゲンは国王グンテル に相談してワスケンの森で熊や猪を狩る計画を立てた。 ジークフリートは狩りでたくさんの獲物を得た。一同はグンテル王に招待され 食事をしたが、ハーゲンの謀略でワインや他の飲み物はすべて他の場所に 送ってあったためみな喉が渇いた。ハーゲンの提案により、近くの泉に 水を飲みに行くことになった。ジークフリートは一番に泉に着いたが 国王グンテルが水を飲むのを待っていた。ジークフリートが水を飲んでいる とき、ハーゲンは槍でジークフリートの背中(肩胛骨)を深々と刺した。 ジークフリートは剣が見つからないので楯で、必死で逃げていくハーゲン に追いつき力任せになぐりつけた。悪運の強いハーゲンは死ななかった。 ジークフリートの遺骸はクリームヒルトの寝室の前に運ばれた。 彼女の悲嘆はひどかった。ブリュンヒルトは傲然としていた。 ニーベルンゲンの歌、山室静、筑摩書房、1987
この続き(後編)