土木用語大辞典をお奨めします

待ちに待った『土木用語大辞典』(土木学会編)がいよいよ出版された。総見出し語数 22,800語は,1991年出版の文部省学術用語集土本工学編(増訂版)の12,252語の約2倍 に達する。本来,用語辞典の編集は大事業である。ましてや,このような大著は,当事者 でなければわからないさまざまな苦労を伴う。 今回の大辞典では,すべての見出し語に英語を併記し,主要語2,300語については,英 独仏および中国の4外国語を加えたのも顕著な特徴である。多数の執筆者の協力なくして 本書が作成されないのは当然ではあるが,特に編集に当たった人々の努力と,外国語を担 当もしくは校閲に当たった方々,さらに膨大な出版事務と巨費を投じた出版社の協力には, 深く敬意を表したい。まことに土木学会ならではの偉大な成果と言ってよいであろう。 土木のように広範囲な部門の用語辞典の場合は,その範囲の定め方によっては極端に言 えば際限なく用語数が増加する。加えて,情報氾濫時代の今日,次々と新語,外来語の出 現により,この種の用語辞典編集の困難性が増してきた。この新辞典においては,従来ほ とんど採用していなかった,土木史と人物,土木関連行政,環境,景観分野,さらに土木 に関係する重大事件,重要な構造物や施設が加わったことは特筆に値する。すなわち,最 近の土木の工学,技術,行政の範囲の拡大への積極的対応として評価できる。 たとえば,安積疏水,アッピア街道,カスり−ン台風,帝都復興事業,阪神・淡路大震災, フォース鉄道橋,四日市港潮吹防波堤などは従来の土本用語辞典では扱われなかったが, これら用語が加わったことにより,本書は親しみと奥行を加え,多数の新語の積極的採用 とともに,新辞典の必須条件である新鮮昧に満ちた大著となった。 土木学会は,その80年余の歴史において,用語辞典編集に輝かしい成果を挙げてきた。 まず,1908(明治41)年、中島鋭治外7名共著の英和工学辞典を工学界の先頭を切って出 版したのを皮切りに,1930(昭和5)年の同改訂版(土木用語を主体に17,000語),1936年 の土木工学用語集など数々の地道な業績を挙げた。 第二次大戦後は,土木学会としては前述の文部省による学術用語集の初版が1954年出版 後は,1971年に技報堂・コロナ社の共同発行による土木用語辞典が出版されたのみで,長 らく学会による本格的辞典が期待されていたが,漸くその実現をみた。 辞典の質がその国の文化のバロメーターであるといわれる。学問各分野の辞典こそ,そ の学会の鼎の軽重が問われる大事業である。重要なことは,長年の汗と英知の結晶である この辞典が,土木学会会員のみならず土木および関連分野の多くの技術者,教員,行政マ ンによって,いかによく利用されるか否かであり,その利用を通してこそ,本辞典出版の 社会的評価が高まるであろう。 東京大学名誉教授 高橋 裕

  

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