橋と太田橋の構造について
その続きです。
三 橋の形式
橋の構造形式を、岩手県の橋を例にあげながら説明しよう。 (一) 桁(けた)橋 いわゆる丸木橋のように、木桁、鋼桁、鉄筋コンクリート桁、などを架けた橋である。 桁橋には支持条件により、単純桁と連続桁とがある。 単純桁をならべて架けるよりも、連続桁を架けるほうが良い理由はつぎのようなもの である。 @ 連続桁のほうが、曲げモーメントが小さい。したがって材料が節約され、桁高が 小さくてすむ。 A 連続桁は橋床の伸縮継目がなくなるので、橋上を通過する車両に対して、振動が 少なく好ましい。 これに対して連続桁の最大の欠点は、支点の不等沈下により、上部構造に曲げの大きな 力が働くことである。したがって基礎地盤が軟弱で、不等沈下が予想されるような箇所 では、連続桁は不向きである。 (二) トラス橋 鋼橋では、支間が五十メートル程度以上になると、通常の場合、桁橋よりトラス橋の ほうが有利である。 連続桁と連続トラスを比較すると、中央支間が約六十メートルあるいはそれ以上になると、 所要材料の点だけから考えると、連続桁より連続トラスのほうが、一般に有利である といえる。 (三) ゲルバー橋 連続橋の中に適当なヒンジを挿入した形式の橋で、桁橋がトラス橋であるかにより、 ゲルバー桁か、ゲルバートラスに分けられる。ゲルバーという人が作ったので、 この名前がつけられている。 支持方法は、連続橋と同様であるが、ヒンジがあるため力学的性質が著しく異なり、 支点に大きな不等沈下が生じても、上部構造内に無理な応力や、変形が生じないため 有利となる。 また、単純桁を数径間並べるよりは、これをゲルバー桁形式とすると、全体の 曲げモーメントが小さくなって材料を節約でき、全体のけた高が小さくてすみ経済的に なる。しかし、伸縮継目の数が連続桁にくらべて多いので、構造上の弱点があり、 設計製作が複雑になり、またここを通過する車両に衝撃を与え好ましくない。 (四) アーチ橋 アーチは構造形態として、もっとも古い時代から使われてきたものの一つである。 ローマ時代の構造物として使われた。ローマ時代に野を越え、丘を越え、谷を越えて、 石の水道橋が作られたが、これらの水道橋の一部は、今でもヨーロッパに残っている。 水道橋とは、車を運ぶ橋ではなく、水を運ぶ橋のことである。 アーチは、その特性として両端に水平反力が生じる。したがって、アーチは原則として、 基礎地盤が水平反力に十分に抵抗できる場所でないと架けられないし、また基礎工も これにたいし、適切に設計しなければならない。 アーチ橋には、タイドアーチ、ランガー、ローゼなどの種類がある。タイドアーチは、 アーチの両端を引張り材で結んだものであり、アーチの両端に作用する水平反力を上部 構造の中で、互いに釣合うようにしたものである。たとえて言えば、弦の張った弓を 川の上に、かけ渡したょうなものである。こうすると、支承条件は単純桁のようになっ て、アーチ特有の水平反力はなくなり、具合がよくなる。アーチ橋のアーチ部には、 アーチとしての軸庄縮力のほかに、曲げモーメントおよびせん断力を受ける。 これに対して、ランガー橋はアーチ部には、曲げとせん断には抵抗できないと考えられ るほどの、細い部材を使用し、アーチリブは軸圧縮力のみに抵抗できるものとし、曲げ とせん断は別に設ける補剛桁または補鋼トラスによって受けると考えている。 またランガー橋において、アーチ部の断面を若干大きくし、曲げとせん断をアーチ部と 補剛桁または補剛トラスで、分担するように考えたものをローゼ橋という。 ここで補剛桁という言葉は、アーチ橋などで、車が直接通る部分 の桁のことを言う。補剛トラスとは、車が直接通る部分がトラスに なっていれば、そのトラスのことを言う。簡単に言えば、アーチが 細いものは、ランガーと言い、アーチも桁の部分も太ければ、ロー ゼと言うと考えていいだろう。 盛岡駅前通りの開運橋は、ランガーとトラス橋とが一体となった、 ランガー・トラスである。 (五) ラーメン橋 ラーメンと言っても食べるラーメンではない。このラーメンとは、 中国語ではなく、ドイツ語である。 本屋へ行って、建築や土木関係の書棚をながめると、ラーメンの 計算の本が必ず見つかる。建築のビルは、たいがいラーメン構造で ある。ラーメンとは、太い骨組が組み合わされて構造物を作る時、 骨組と骨組との連結状態が、しっかり固定されているものを言うの である。 トラスなどは、部材と部材との交点は自由に回転でき、それぞれ の軸方向の力しか伝えないと考えられ、ラーメンよりは自由なもの と考えられる。たとえ話で説明すれば、私が普通の状態では、足首は自由に動かすこと ができる。前後左右にふったり、ぐるぐる回転することさえできる。ところが、 スキーで骨折をしたため、足首にギブスをはめてしまったら、もう自由に動かすことは できない。 このように、ラーメン橋は荷垂を受けて変形することがあっても、骨組と骨組となす角度 は、いつも一定となるのである。ラーメンは、がんじがらめに固定されるので、構造全体 として働くから、強い構造物である。ラーメン橋とは、ラーメンを主体とした橋である。 ラーメン橋と単純桁橋とを比較すると、その違いがよくわかる。通常の単純橋では橋台を 必要とする。橋台は上部構造の反力を支持するほかに、背 面の土庄を支える必要があり、橋台め高さが大である場 合には、これに多大の材料と工費とを注がなければなら ない。この場合に、橋台と上部の単純桁とを一体にすれ ば、門形ラーメンになり、橋台および主桁の断面が小に なり、きわめて経済的になるほか、耐震的にもきわめて 安定な構造になるのである。 ラーメンの一種に、フィレンデール橋がある。これはトラスにおいて斜材を 取り去り、弦材と柱材とを剛結した橋ということができる。フィレンデール橋 は、ベルギーに多いが、これは最初に考えた人がフィレンデールという人で、 ベルギーの人だからである。 (六) 吊 橋(つりばし) 吊橋もアーチ橋とならんで、原始時代より使われていた橋の形式である。ケーブルを かけ渡して、それに床を吊り下げた橋である。床め動揺を防ぐために、補剛桁あるいは 補剛トラスをかける。大昔はこの補剛桁や補則トラスがなかった。今でも山奥くの谷川 に架かっている小さな吊橋が大変ゆれるのは、このためである。 ケーブルは、全断面が一様に張力を受け、座屈などの心配はないので、橋の主要材料 としてもっとも有効に利用され、吊橋は長大径間にたいして独占的な構造であると いえるであろう。 世界最長の支間は、ニューヨークのベラザノ・ナロウズ橋で、一、二九八メートルで あるが、将来、瀬戸内海に架ける予定の吊橋は、この記録を破り、世界一の吊橋になる はずである。 長大径間では活荷重などの影響が、死荷重にくらべて小である。巨大な吊橋としての 自分の垂さが、自動車などの荷重にくらべて、とても大きいのである。いわば、 象の背中にノミがのるようなものといえるだろう。だから大きな吊橋の設計は、自分の 重さを中心に考えればよいことが、よく理解できると思う。 補剛桁吊橋であみ旧タコマ・ナロヴズ橋は、その補則桁の曲げおよびねじりに対する剛性 の不足から、風のためもろくも落橋してからは、風に対する吊橋の空気動力学的安定性と 補強トラスの重要性とが再検討されるようになって、現在の長大吊橋では、ほとんどすべ て補則トラスを採用することになったのである。 (七) 斜張橋 中間橋脚上に塔を立て、塔から斜めに張られたケーブルによって、主桁を支持する 橋である。中間の斜めに張られたケーブルによって、弾性的に支持される連続桁と考 えられる。これはドイツで考えられ、その合理性、経済性および単純な外観の良さと から、多数架設されている。岩手県でも北上市の項瑚橋の歩道部は斜張橋である。 斜張橋として有名なものは、西ドイツのケルン市のゼベリン橋である。この橋はー 九五七年におこなわれた競争設計の第一位に選ばれたもので、ケルンの名物の高さ百 五十メートルの大ドームの眺めをさえぎらないようにとの配慮から、片側にだけタワ ーが設けられている。この橋は斜張橋の特性をよく生かしたものといえる。 (八) 合成桁橋 合成桁というのは、鉄筋コンクリートの床版と鏑桁とを「ずれ止め」で連結して、 鋼とコンクリートが一体として作用するようにした構造である。 合成桁として考えない以前の桁では、コンクリート床版は、車輪荷重から床を守る だけの役目で、橋を支えるのは鋼桁の仕事であった。これをわかりやすく説明しよう。 例えば、ここに五人家族があったとする。非合成の場合には、鋼桁である父親が一人で 稼いで一家を養うことになるので、生活は父親一人の肩にかかってくる。しかし合成桁 の場合では、そろそろア人前になった息子や娘たち、つまり、コンクリート床版が各々 働きに出るので一家の暮らしは、楽になるというわけである。 今の道路橋は、この合成桁がほとんどといってもよいほど多いのである。鉄筋コンク リート床版を打つ前の鏑桁の上面を見ると、「ずれ止め」のイボイボがたくさん見みる ことができる。丁度御所ダム建設にょって生ずるダムに架橋中の橋を見る機会があると 思うので、この点を注意されるとよい。 (九) コンクリート橋 これまで鏑橋を中心に説明してきたが、コンクリード橋もたくさんある。コンクリート橋 には鉄筋コンクリート橋とプレストレスト・コンクリート橋とがある。 コンクリートの一番の長所は、化学的にみて安定した自然な材料であるということであろう。 これに対して、鋼はきわめて強い重要な材料であるが、安定しない不自然な状態にある ため、常にもっと安定な酸化鉄にもどろうとして、さびるという短所を持っている。 材料が安定した自然な状態にあるということは、気象作用および化学的浸食に対する 耐久性の点からみて、非常に有利であるということである。耐久性が大きいことも、 長所の一つである。また、コンクリートは運搬に便利な材料を工事現場まで持っていき、 任意の形状寸法の構造物を一体として造ることができるという大きな長所を有している し、施工に際して、リベット、溶接ほどの熟練を要しないことも長所として数えられるのである。 以上にあげた一般的長所のほかに、わが国の国情を考えた上でのコンクリートの重要な 長所は、原料をほとんど全部国産でまかなえるということである。 しかし、コンクリートにも短所がある。一番大きい短所は、コンクリートが引張り力に 対して弱いということである。また乾燥すると収縮する。これらの結果、コンクリート にはひびがはいりやすくなるのである。また、現場における施工が簡単であるという長所 は、反面においていいかげんな施工が行われやすいことを示していることにもなる。 これについては、品質管理をよくすることによって、良いコンクリートを作る必要が あることになる。 さて、ここであげた、コンクリートの「引張り力」に対して弱いという性質を補うために、 特に引張る力の強く働く所に、引張りに強い鉄筋を配殼しだのが、鉄筋コンクリートである。 プレストレスト・コンクリート橋とは、載荷時における応力を軽減するために、 あらかじめ載荷前に鉄筋を緊張して、コンクリート桁に圧縮力を働かせるものである。 こうしておけば、載荷時にコンクリート桁に、引張り力が働いても、この圧縮力により かなり打ち消されることになる。載荷時に生じる力と反対の力を、あらかじめ橋に与え ておくのであるから、実にうまい考えである。 プレストレスの考え方は広く用いられ、最近は合成桁やコングリートアーチにも用い られている。またコンクリートの斜張橋についても、プレストレスを働かせることが 研究されている。 一般に上部工の形式については、経験的に支間長に対して、経済的な形式がつぎのように 言われている。 @二十メートルまで鉄筋コンクリート桁。ただし、支保工の建てられない所や工期の著 しく短い場合は、プレストレスのプレキャスト桁やH形鋼桁が用いられる。 A二十メートルから四十メートルまでは、プレストレスト・コンクリート桁か合成桁。 ただし、基礎が極軟弱で、K値○・五以下の場合や、基礎の深い場合で三十メートル以上 ある場合、および橋脚が高く、二付メートル以上ある場合は、鋼プレートガーダや合成桁 を用いる。 B四十メートル以上は連続桁。 C六十メートル程度からトラス。 D八十メートル程度からアーチ。 E百五十メートル程度から、斜張橋や吊橋が用いられることになる。 以上で橋の説明を終えることにするが、「橋」というものの概念を十分理解できたと思う。
四 太田橋の構造