橋と太田橋の構造について
これでまとめです。
四 太田橋の構造
太田橋は橋長四三二メートル。かなり長い橋である。昭和十年(一九三五)に完成された 当時は、幅員はわずか四・五メートルしかなかった。その後昭和三十七年(一九六二)、 三十八年(一九六三)に、六メートルに広げられ、さらに昭和四十三年(一九六八)から 昭和四十五年(一九七〇)にかけて、幅一・五メートルの歩道がつけられた。 太田橋の構造は、鉄筋コンクリートの二径間連続桁である。最初架設された時は、全支間 が十二メートルであった。 ところが昭和三十八年(一九六三)十二月に、盛岡側から十二番目の橋脚が沈下し、一部 落橋してしまった。この対策として、プレストレスト・コンクリート橋(略してPC橋) が架けられた。PC橋の支間はそれぞれ十二、二十四、十二メートルで、単純桁が三連並 べられたのである。太田橋の重要性から、長期に渡って交通を止めないように、架設工事 は迅速に行なわれた。すなわち工場で製作されたコンクリート桁を現地に運んで、その場 で桁に緊張力を与えPC橋を架設したのである。 しかし雫石川の猛威はすさまじく、そのような人々の努力の成果は無残にもひっくり返さ れてしまった。 それは昭和四十四年(一九六九)七月二十九日のことである。洪水とそれによる河床低下 の影響で、ふたたび盛岡側から十二番目の新しい橋脚が沈下して、一部落橋してしまった のだ。そこで支間三十六メートルのポニートラスを架けたのである。ポニートラスの前後 には支間十ハメートルの合成桁が架けられ、また流水により河床が削りくずされることの 対策として根固めブロックを十分配置した。 私はこのアイデァは実にいいと思っている。自然の力にさからわず、巧みに新しい橋を作 ったのである。 ポニートラスとは、上横構と橋門構のないトラスのことをいう。 ひらたく言えば、天井のないトラスのことである。 ポニートラスは、桁橋と本式のトラス橋の中間的な存在で、むか しはよく用いられたが、いまでは連続桁などの適用範囲が延び、だ んだん減少の煩向にある。橋の規模が小さいと、トラスの高さも低 いので、車の通行の妨げにならないように、天井をとりはらってし まったわけである。 ポニートラスの上弦材は圧縮材で、これが横方向になんら支持さ れていないから、横方向の座屈に対してはきわめて弱い構造であ る。道路橋示方書において、ポニートラスは横方向に座屈しないよ うに、丈夫に設計するように規定されている。 ポニートラスの座屈は、弾性床上の桁の座屈として、興味ある研 究分野の一つである。垂直材と床の横桁などが一体となって、上弦 材を弾性的に支持している。 さて橋の下に降りて、橋脚を見てみよう。橋脚の下手の柱は細い のに、上手の方は太くなっている。もとは両方とも同じくらいの太 さだったに違いない。作った時は、こんなちぐはぐにしたわけでは ないはずである。これは幅員の広がったことと関係がある。つまり 昭和十年(一九三五)の竣工時には、両方そろって橋脚は細かった のである (写四七参照)。その後幅員をー・五メートル広げたため に、橋脚も新しく必要になったのである。上の写真の右側の太い橋 脚は、そうして追加されたものである。その後さらに、歩道の必要 性を考えて、一・五メートルの歩道が加えられた。 ところがこの歩道は鋼桁である。歩道荷重は車より軽いので、コ ンクリート桁の支間の倍でも間に合うのである。それで鋼桁に必要 な橋脚は、一つおきに新しく作られた。つまり前からあった細い橋脚を広げて 太い橋脚にしたのである。 こういうわけで、細いのと太いのとが一緒になっている橋脚と、左右とも太い橋脚が交互 に並んでいるのも、太田橋の特徴といえるかも知れない。 こうして太田橋を見てみると、橋の幅員が年とともに広げられ、橋脚も太くされ、ポニ ートラスの形式が加えられるなど、長い年月の間に、更に多くの技術者の手が加えられた ことがわかる。 そして太田橋の歴史というものが、ひしひしと感ぜられるのである。それと同時に、何代 にもわたって技術者たちが、守り育てあげていった合作の重みが、深く胸に伝わって来る のである。 五 ま と め 以上、橋に関する説明や、太田橋の構造について書いて来たが、最後に橋を力学的に考え て、まとめとしたいと思う。 橋というものは、橋上の車両や人などの荷垂を受けるものである。荷重とは重さのことで あるが、およそ地球上のすべてのものは、ニュートンの引力の法則に従って地球に引きつ けられる。飛行機でさえも引力に負けると地上に激突する。 もし橋がないと川の中へ落ちてしまう車も、橋によって無事、向う岸まで渡れるのである。 地球は暴君で、重さのある物を無差別に手もとに引きつけるのであるが、橋がその間には いって、地球をなだめているのである。 橋の設計などの力学計算をしてみると、結局「力の流れ」が橋の中に伝わって、主桁や主 構から伝えられた力が、橋脚を伝わって、地球へ集められる様子がわかる。太い部材には 大きな流れが、細い部材には小さい力の流れが伝わる。 車などの重さが橋脚までに伝わる、途中の力の流れの分配の仕方は、橋の形式や、橋を構 成する部材の力学的性質によって決まって来る。たとえば、開運橋のようなランガー橋で は、どの垂直材にも一定の力が働き、アーチ部材にはある規則的な力が働くのである。 トラス橋には、トラス橋特有の力の流れがある。桁橋には桁橋特有の力の流れがあるわけ である。 比較的強い部材には大きな力の流れが働き、弱い部材には小さな力の流れが働く。橋脚は、 力の流れを地球に伝えるから、雷よけのアースにたとえることもできるだろう。 結局、用いる材料の種類と橋のとる構造形式によって、さまざまの流れの伝達形式が考え られ、ここに技術者の腕の見せどころがあると言えるだろう。 (宮 本 裕)