留学生の入学選考の改善方策についての提案が
文部省高等教育局学生課編の「大学と学生」平成9年12月号に
出ていましたので、紹介します。
著者は東京大学工学部教授の大園成夫先生です。

留学生受け入れ10万人計画を立てたのに、留学生受入れ総数が
平成8年度から減少に転じている。その対応策を探るため、
留学生のための入学選考方法の問題点を明らかにして、解決するため
の施策を検討する「留学生の入学選考の在り方に関する調査研究協力者会議」
が文部省に設けられた。

この会議の提言を簡単に述べる。
・留学生入学選考の現状及び問題点
・留学生入学選考方法の改善

留学生入学選考の現状及び問題点
留学生選考を、書類選考のみで行っている大学は少ない。
多くの場合、留学生は渡日して希望の大学において試験を受けなければ
ならない。これは米国の大学と比べて大きな差異となっている。
外国にいる受験生を日本の大学に呼び寄せて試験をするという従来の
慣習は再考されるべきではないだろう。

大学院の場合は、さらに受験前に研究生として在籍するという習慣が
多くの大学で見られる。本来大学院の研究生制度は別の目的のために
設けられたものであり、それを留学生の入学制度の一部として便宜的に
流用しているのは問題である。

(財)日本国際教育協会では、留学生の大学入学能力を判定する
私費外国人留学生統一試験を実施している。 いわば留学生のためのセンター入試
みたいなものである。

この試験は、国内3都市、外国2か国(タイとマレーシア)で毎年1回12月に
行われており、理科系は数学、理科(2科目選択)、外国語の3教科4科目、
文科系は数学、世界史、外国語の3教科3科目の構成となっている。

留学生の入学選考という観点からみて、緊急課題は、試験実施国と回数を
更に拡大して、多くの留学希望者が母国で選考を受けることができるように
することである。

試験体制の整備充実がなされれば、私費統一試験と後述の日本語能力試験の結果
のみで入学判定を行う大学が増えることが予想され、また外国にいる日本留学
希望者にとって入学のための条件が明確になり、分かりやすい入学選考制度になる
であろう。

日本語能力試験は国内6地区、海外31か国70地域で年1回12月に実施
される。

現在多くの大学(学部)でこの能力試験の最上級である1級の合格
又は受験を入学の条件に要求しており、留学希望者にとって1級合格又は
高得点獲得が目標となっている。

私費統一試験と同様、実施回数を増やすことが重要である。

留学生入学選考方法の改善
(1)入学選考方法の改善の方向
これを一言で言えば、「留学希望者が母国に居ながら入学選考を受けることが
できるようにすることである」ということに尽きる。

日本人受験生と比べ外国人に対してそのような配慮をするのは不公平であり
過保護であるという考えがあるが、外国の多くの大学で留学生の母国での
入学選考方法を採用していることを考えると<その考えは間違いであるといえる。

優秀な学生が他国へ流れている現実を直視しなければならない。

書類選考を主とする入学選考に反対する意見の中には、米国の一流といわれる
大学では入学選考に多くの費用と時間を費やしており、受験生についての
情報収集に努力が払われていることから、日本の大学の現状では、
書類選考に対する選考の精度について不安があるというものがある。

これに対しては、留学希望者の母国での選考(書類選考)を許容し、同時に
精度の高い選考方法を追求するしかないだろう。

(2)入学選考方法の改善の具体的方法
(イ)書類選考方法の確立
精度の高い書類選考を行うには、受験生の資質を判定するのに必要な
基礎となる情報を収集して、データベースを作成することが必要である。

データベースは、新入留学生を入学後に追跡調査することによって絶えず
情報の質の向上を図ることが重要であるが、経験によるとデータベースの
質の維持に努めれば、留学希望者の出身大学における成績は評価基準として
十分信頼できることがわかっており、大学間の格差についての知識が
十分整えば、高い精度で入学選考を行うことができるといわれている。

出身大学における成績の他に利用できる評価材料に外国の機関等によって
実施される統一試験類がある。代表的なものとして米国のTOEFLやGREが
あるが、東南アジアの国々でも国家的な統一試験が卒業時に行われている例が
あり、その評価を利用することが考えられる。

(ロ)能力判定のための統一試験制度の充実
学部入学者のための「私費統一試験」があるが、その問題点として年間実施回数が
1回のみであることと、国外での実施地域が2か国に限られていることがある。

渡日前の入学選考にこの統一試験を利用するには、年間複数回の実施と開催地域
の拡充が必要である。

また、大学院の入学選考に利用できる新たな統一試験を創設することは、
同じく渡日前入学選考を実施するために必要である。

こうした統一試験制度が実現したら、大学もこれを積極的に活用すべきである。

(ハ)大学院研究生制度運用の見直し
現在多くの大学院において、大学院研究生制度を留学生の大学院入学試験受験前の
予備教育に利用するという運用が行われている。

この運用方法は、大学院研究生制度の本来の趣旨と異なっており、そのこと自体
問題である。また留学生の側から見ても、特にまだ母国に居てこれから
留学を考えている外国の学生から見て、理解しがたく受け入れがたいものである。

この運用方法は、受入れ教官にとって、一種の観察期間となり、能力に問題の
ある学生の入学を阻止できるという安心感のため続けられている。

しかし、現実には研究生として受け入れられた留学生は、高い確率で入学を
許可されているので、教官にとって単なる気休めのための運用でしかない。

統一試験制度の充実などにより書類選考を一般化して、この大学院研究生制度
運用の見直しをはかるべきである。

日本へ留学を希望する外国人学生が我が国の大学に入学する際に感じる
制度上の困難さをできるだけ小さくすることが、資質ある留学生を
たくさん受け入れることにつながる。

入学選考をどのような基準で行うかは各大学の自主判断によることは
もちろんであるか゜、他国の大学と競争しつつ、できるだけ多くの優秀な学生に、
日本の大学への入学希望を持ってもらうためにどうすれば良いかという視点から
入学選考の在り方を考えることが重要である。