万葉集は日本人の心
およそ4500首のヤマトウタ
万葉集は20巻からなる。
佐保川に こほりわたれる 薄氷(うすらひ)の うすき心を 我が思はなくに
大原桜井真人
佐保川にうっすらと氷が張っていますが、そんな薄っぺらな氷と
わたしの気持ちが同じだなんて思わないでください。 生半可じゃないんですから。
新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)
大伴家持
新年早々から雪とは、なんとおめでたいことであろうか。
この降り積もる雪のように、いいことがどんどん重なって、今年がいい年でありますように
近江の湖 夕波千鳥 汝が鳴けば 心もしのに いにしへ思ほゆ
柿本人麻呂
あんなに栄えた都が、こんなにも荒れてしまうのだろうか。
人が少なくなり、華やかさえもなくなってしまった。
日が西に傾き、千鳥がしきりに鳴いている。
千鳥たちよ、そんなに鳴かないでおくれ。 久しぶりに近江にやってきた私も、
悲しくなってしまうじゃないか
有月夜(ゆうづくよ) 心もしのに 白露の おくこの庭に こほろぎ鳴くも 湯原王
秋の月夜は、また別の味わいがあるものだねえ。
ひんやりとした空気... 庭の木の葉には白露がキラキラと光っている。
こんなに静かだと、淋しくなってしまうよ。
おや、コオロギの声が....
これではますます気持ちがションボリしてしまうよ
高円(たかまど)の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なしに 笠金村(かさのかなむら)
志貴皇子の葬送の時の歌
高円の野辺は、今ごろハギの花が満開になって、きれいだろうなあ。
でも、ハギが好きだったご主人さまが亡くなられて、お花見にお供することもなくなってしまいました。
さぞかしハギの花も寂しがって、散り急いでいるんじゃないだろうか。
経(たて)もなく 緯(ぬき)もさだめず 娘子(をとめ)らが 織る黄葉(もみちば)に 霜な降るりそね 大津皇子
紅葉錦の、なんとまあ、鮮やかなこと!
まるで乙女たちが縦糸も横糸もきめないで、気の向くままに織った錦みたいだ。
こんなにきれいな紅葉錦の上に、霜よ、降らないでおくれ
あしひきの 山桜花 日並べて かく咲きたらば いたく恋ひめやも 山部赤人
山のサクラの花が幾日もずっと咲いているなら、こんなにサクラの花が恋しく思うこともなかろうに
たらちねの 母が養(か)ふ蚕(こ)の 繭(まよ)こもり 隠(こも)れる妹を 見むよしもがも 作者不詳
餌を与えているカイコが、飼い主の気もしらないでマユの中に籠もってしまうのはともかく、
可愛いあの娘までが、母の監視が厳しいからといって、カイコと同じように家の中に籠もってしまうなんて...
何としてでも逢いたいが、何かいい手はないのかなあ
山越えて 海渡るとも おもしろき
今城(いまき)のうちは 忘らゆましじ
斉明天皇
中大兄皇子の子の建王が八歳で亡くなった。
祖母の斉明天皇は この孫を可愛いがっていたので
心を癒すため 中大兄皇子と共に 紀の湯へ行幸した。
白浜温泉は 道後・有馬と並んで日本最古の三湯の一つの温泉とされています。
磐代(いわしろ)の 浜松が枝(え)を 引き結び
ま幸(さき)くあらば またかへり見む
家にあれば 笥(け)に盛る飯(いひ)を 草枕
旅にしあれば 椎(しい)の葉に盛る
有間皇子
孝徳天皇の子の有間皇子は 斉明天皇の紀の湯行幸中に
蘇我赤兄(そがのあかえ)の口車に乗って、政治批判に同調し、挙兵を決意した。
しかし、その日の夜に捕縛され、紀の湯に護送となった。
酒杯(さかづき)に 梅の花浮かべ 思ふどち 飲みての後(のち)は 散りぬともよし
大伴坂上郎女
お酒は親しい方たちと飲むのが、一番ですね。 ごらんのように梅の花が満開です。
これだけ飲んで、お花見もしたことですから、もう梅の花が散ったってかまいませんよ。
燕来る 時になりぬと 雁がねは 国偲(しの)ひつつ 雲隠(がく)り鳴く
大伴家持
ツバメの季節になったから、雁たちが雲間に見えたり隠れたりしながら飛んでいくよ。 遠い故郷のことを思っているのだろうか。
山の際(ま)に 雪は降りつつ しかすがに この河楊(やぎ)は 萌えにけるかも
作者不詳
山峡(やまかい)には雪が降り続いているというのに、この川辺のネコヤナギは、もう芽吹いているよ。 もうすぐ春なんだなあ。
啄木短歌