薬害エイズ事件

産官学の複合過失が生んだとされる薬害エイズ事件
元帝京大学副学長の安部英(たけし)被告に、東京地裁の検察側は禁固3年を求刑した。
これはミドリ十字の元社長松下廉蔵被告にも禁固3年を求刑した経緯と対応している。
学の責任を指摘し、指導的立場にある学者は、一般の学者や医者以上に、
重い責任がある、という判断である。

HIVに汚染された非加熱製剤を投与して、血友病患者を死亡させたとして
業務上過失致死罪に問われた元帝京大学副学長の安部英被告

論告で検察側は「感染の危険性を十分認識していたのに、製薬会社と金銭的に
密着し、安全な製剤への転換を拒否した。謝罪も反省もせず、医師としても
良心のかけらもない」と厳しく指摘した。

安部英元副学長は帝京大病院の第一内科長と血液研究室主宰者を務め、
診察行為を指導する権限があった。

1984年秋には、抗体検査で48患者のうち23人がエイズに感染したことを知った。
外国文献を読み国際シンポジウムに参加して、エイズの最新情報を得ていた。

被害者の血友病患者に対する外国製非加熱製剤の投与(1985年5〜6月)に
安部元副学長は危険を熟知しており、投与すれば死に至ることを予見できたはず
と指摘した。

安部英元副学長が非加熱製剤の使用を中止し、安全なクリオ製剤による代替治療
を実行していれば、適切な医療水準が形成された可能性が極めて高かったと指摘した。

1983年から84年に、関係製薬会社から、被告に対し
被告が設立準備中の財団法人血友病総合治療普及会に合計4300万円
(カッター1000万円、トラベノール1000万円、日本臓器1000万円、
化血研300万円、ミドリ十字1000万円)が支払われた。

他にも1984年11月に被告が開催した第4回国際血友病治療学シンポジウム
運営資金として合計2500万円(化血研500万円、カッター350万円、
日本臓器350万円、ミドリ十字400万円、日本製薬100万円、日本赤十字
100万円、ヘキスト405万円、トラベノール350万円)が支払われた。

他のものも合計すれば、関係製薬会社の3年間における被告に対する提供金額は
1億円余に上る。

我が国における加熱第8因子製剤の導入においては、ミドリ十字は、
同製剤の開発及び製造準備がトラベノールよりも遅れていることを認識していた。

トラベノールは被告に加熱第8因子製剤の臨床試験実施を依頼して、被告が快諾した
ことから、同製剤を他社よりも早く承認を得て発売することを準備していた。

しかし、被告は「1,2社の先駆けは許さない。申請承認は8社同時」との方針を
示した。

当時の被告の日記には、1983年11月に、「トラベノール来たり、金を収めない
ことをいう。絶対に優位は与えない」と書かれてあった。
1984年1月に、「トラベノールが来て、一応の説明をした」「ほったらかして
置こう」と書かれてあった。

被告が加熱第8因子製剤の臨床試験の進行に手心を加えて調整し、エイズ伝播防止策
を遅らせたことは明らかである。

被告は1983年当時から、エイズに関する内外の文献などを通じて、諸外国に
おけるエイズ発生状況等に関する最新のデータを入手し、これを自己の論文等で
紹介していた上、我が国の血友病患者へのエイズ伝搬を回避するためには、
いずれクリオ製剤への転換が必要となるということを認識して、その旨を日記や論文
に記載していた。

被告は自分の弟子である木下忠俊助教授や松田重三助教授から、外国由来の
非加熱製剤の使用を中止してクリオ製剤等による代替治療を行うべきである
との進言も受けていた。

被告は関係製薬会社から多額の金額援助を受けつつ、自らが中心となって推進して
きた自己注射療法を拡大したいとの意図などから、クリオ製剤への転換ないし
緊急避難に強く反対していたものであるが、外国由来の非加熱製剤投与による
エイズ原因ウイルス感染などの高度の危険性が明らかとなった後も、自己のメンツや
製薬会社に発生する損害にこだわり、クリオ製剤への転換ないし緊急避難を拒絶した。

被告は、我が国の血友病専門医、血友病患者及び関係製薬会社に大きな影響力を
有していたが、エイズ伝搬防止のために必要な措置を講じるべき立場にあったにも
かかわらず、注意義務を怠り、帝京大病院の第一内科医師らに対し、外国由来の
非加熱製剤投与によるエイズ原因ウイルス感染などの危険を伝えず、同第一内科
における適正な血友病治療の実現を阻害し、感染防止の対応を遅らせた。

被告は、公判廷において、「本件当時は、エイズの知見が十分ではなかった」、
「エイズ原因ウイルスに感染しても発生率が低いと思っていた」などと弁解して
いるが、それらは事実に反するばかりか、本件クリオブリン投与に係る本件被害者の
出血については、クリオ製剤などによる代替治療が十分可能であり、同ウイルス感染
へのリスクや生命へのリスクを賭した治療など受ける必要はおよそなかった。
被告の弁明は何の意味もないむなしいものである。

被害者には何の落ち度もない。
被告の謝罪及び反省がない。
医師としての責任感、良心の一片をも見いだすことができない。

薬害エイズ事件をめぐる動き