基礎ドイツ語

ドイツ留学前に数年間、この三修社の雑誌を購読していました。
ドイツ語の能力はさっぱり上達しませんでしたが、ドイツ語の文法の
知識はこの雑誌のおかげで高いレベルを知ることができました。

この記事の転載については、出典を明示し原文を変更しないという条件のもとで、三修社から許可を得てあります。

第27巻第1号−第12号(昭和51年5月−昭和52年4月)

ドイツ語に関する12章 ―2一

発普に.注意したい人名・地名
                小塩 節

ある人がドイツに旅行しまして,西ドイツから列車でBerlinに符こうと思って,
とある駅に行ったそうです。切符売場でベルリン1枚と言ったのですが,
駅員が”Bitte?“[ビッテ]とききかえすんだそうです。 

Bitte? というのは相手の言ってることがわからないときに,問い返す
決まり文句というか決まった表現です。英語のPardon ?にあたります。

しかたがないから大声で「ベルリン」と何度も叫んだそうです。
そのうちに、スイスの首都Bern(ベルン)行きの切符を出されて、
違う違うと言ってつきかえしたりしました。

何度か言っても通じないので、とうとう最後に紙に書いたら、
 Ach, Berlin ?(ベルーン) と聞き返されたとか。

日本ではベルリン,ベルリンと言っていますが、現地ドイツではベルリーン
と言わないといけなかったのです。

さて、ことほどさように、アクセント、発音の長短など、つまり発音は大切です。
地名で気をつけたい、ごく2、3の例を申し上げましょう。

Augsburg 南ドイツ,バイエルン州にある,かなり大きな町です。フッガー家が
世界で最初の福祉施設をつくったので歴史上知られており,ディーゼル・エンジン
の大工場があります。この地名,アウグスブルクと言う人が多いけれども,いけません。
[オクスブルク]でして,まんなかの-g-も,そして語末のーgも,
そのあとに母音がなく,k[ク]の発音になるのです。むろんアウグスブルグ,
なんていうのはいけない。モーツァルトの生地Salzburgも[ルツブルク]であって,
ザルツブルグはいけません。ましていわんや,ザルツバーグは,独・米語の混合した,
世にも奇妙な発音で,だれもわかってくれません。

Hamburg も[ンブルク]でして,ハンバーグではありませんぞ。

Muenchen 日本の新聞は,ミュンヘン,と記すくせがありますが,ヘンですねえ。
[ュンヒェン]ですよね。 -chen はMaedchenr[少女」,Maerchen[メールヒェン]
「童話」などでご存知のように,[ヒェン]なのです。

Nuernberg ニュールンベルク,とのばさないで,短く[ュルンベルク]。

Weimar ワイマールと言いならわしていますが,実は[ァイマル]ですから,
カナ書きでは,せめてワイマルと言いたい。

Tuebingen これを,チュービンゲンと言う人の、なんと多いことか。冗談じゃあない,
[ュービンゲン]ですよ。

Duesseldorf この1は舌を上あごにつけ,rはのどひこより舌先をひびかせないと
いけません。間違えると,全然通じません。

人名をひとつ。人の名前を間違えるのは失礼です。

Tonio Kroeger[ーニオ クーガー]かの有名な Thomas Mann[ーマス・ン]
(1875-1955)の作品です。斎藤宗吉氏はこの作品が好きでペンネームも
北杜夫(もりお)<ト(ニ)オとしています。

しかしですね、北杜夫氏が言ったり、書いたりしている「トニオ・クレーガー」
っていうのはいけません。Tonio は南方イタリア系のAntonio[アントーニオ]
を短縮した名で、「トー」を長く言うのです。

北さんばかりか、みなさん「トニオ」とおっしゃるけど、間違いなく
「トーニオ クレーガー」です。
     (6月号)

             

 

 

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