ドイツ留学前に数年間、この三修社の雑誌を購読していました。
ドイツ語の能力はさっぱり上達しませんでしたが、ドイツ語の文法の
知識はこの雑誌のおかげで高いレベルを知ることができました。
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ドイツ語に関する12章 ―1― 日本語になったドイツ語 近藤逸子 「きみ,いまなにかバイトやってる?」「うん,ちょっと家庭教師に行ってるよ。」 こんな会話はいまやふつうのものになりました。 本来「労働」とか「仕事」とかを章味するアルバイトが,「内職・副業」という 特殊な意昧にうつされてわたくしたちの語感の中におさまってしまい, どうやら日本語として定着しつつあるように思われます。 ここでは日本語になったドイツ語を紹介します(原語は末尾にまとめて 掲げるととにします)。 言霊(ことだま)の幸ふ(さきおう)国の言霊はおおらかで包容力があり、 その昔輸入した漢語はもはや外国語とは言えず,昭和の今日も新聞をひろげ, 街を歩いてみるだけで,いささか無節操,無秩序とも思えるほどに外来語が 自在に日本語に混ぜて使われていることは―目瞭然です。 適当なフランス語がある限りは,広告などに外国語を使ってはいけない, それがなければ,その外国語にフランス語の説明を添えること, という新法律をつくり,「アフター・シェービング・クリーム」の広告を すれば法律違反に問われることになったというフランスとは対照的かもしれません。 その日本でも,ドイツ語となるとぐんと数は限られてきますが, おやこれもドイツ語だったのか,という単語もあると思います。 目ぼしいものを拾ってみることにします。 新しいところでは学園紛争以来のゲバルドも,ゲバ棒,内ゲバなど他語を 以て替えがたいほどに熟していて,日本籍化したドイツ語にかぞえられるでしょう。 もっと歴史が古いものでは,登山やスキーの用語にはかなりドイツ語があります。 山に登る人は,ヤッケを着てリュツクサックを背負い,ピッケルやアイゼン、 ザイル、ハーケンなどを持って行きます。夜はヒュッテに泊まるか,適当な場所に ビバークをしてコッヘルでお湯を沸かし,シュラーフザックにくるまって 寝ることになるでしょう。 大学のクラブに「ワンゲル」というのがありますが,あれももとはドイツ語の Wandervoge1「ヴァンダーフォ―ゲル]「渡り鳥」で,グループで山野を 歩くことです。 スキーに行けば,人はゲレンデで雪の上にきれいなシュプールを描いて すべりますが,斜面のブツシュには気をつけなくてはなりません。オリンピックに アルペン種目があったり,大倉山シャンツェで各国選手がジャンプを競ったりします。 医学用語にドイツ語が多いことも知られていますが,手術をオペ,患者をクランケ、 脈をプルス,カルテをカルテ(?)というのなどはおなじみがありますね。 専門的にはもっといろいろあるのでしょう。 オペはオペレイションにあたる「オペラツィオーン」の省略、カルテは本来 「かるた」と同語源(ギリシア語)で,日本語のかるたはポルトガル語から きたとされています。要するにカードのことなのですが, 病院の診療簿はカルテとして定着していますね。 ノイローゼやトラホームやカリエスなどもドイツ語からはいってきたのでしょう。 そのほか思いつくままをあげますと、「童話」のメルヘン、デモの群集が一斉に スローガンなどを叫ぶのがシュプレヒ・コール、「男声合唱」がメンネル・コール、 論文のテーマ、左翼的イデオロギー、原子力エネルギー、エネルギッシュな人、 大学のゼミ(ゼミナール)などもごくふつうに適用している語です。 (注)矢崎源九郎氏著「日本の外来語」(岩波新書)を参考にさせて頂いた。 1 Arbeit[アルバイト] 2 Gewalt[ゲヴァルト]暴力,権力 3 Jacke[ヤッケ]上着 4 Picke1[ピッケル]つるはし 5 Eisen〔アイゼン]鉄 6 Seil[ザイル]ロープ 7 Haken〔ハーケン]鉤(かぎ) 8 Huette[ヒュッテ]小屋 9 Biwak[ビ―ヴァク]露営(原語は仏語) 10 Kocher[コッハー]湯わかし 11 Schlafsack[シュラーフザック]寝袋 12 Gelaende[ゲレンデ]13 Spur[シュプーア]跡 14 Busch[ブッシュ]灌木の繁み 15 Alpen[アルペン]アルプス 16 Schanze[シャンツェ]ジャンプ台 17 Kranke[クランケ]患者 18 Puls[プルス] 19 Operation[オペラツィオーン] 20 Karte[カルテ」 21 Neurose[ノイローゼ] 22 Trachom[トラホーム] 23 Karies[カーリエス] 24 Maerchen[メーアヒェン] 25 Sprechchor[シュプレヒコーア] 26 Maennerchor[メンナーコーア] 27 Thema[テーマ]主題 28 Ideologie[イデオロギー]観念形態 29 Energie[エネルギー] 30 energisch[エネルギッシュ]精力的な 31 Seminar[ゼミナール]演習 (5月号)