基礎ドイツ語

ドイツ留学前に数年間、この三修社の雑誌を購読していました。
ドイツ語の能力はさっぱり上達しませんでしたが、ドイツ語の文法の
知識はこの雑誌のおかげで高いレベルを知ることができました。

この記事の転載については、出典を明示し原文を変更しないという条件のもとで、三修社から許可を得てあります。

第26巻第1号−第12号(昭和50年5月−昭和51年4月)

西ドイツのテレビ放送
              坂本明美

西ドイツのテレビ放送はあらゆる意味で日本の
それと異なっています。

まず番組 Programm は3つしかなく、次に日本
のように早朝から深夜までノンストップのテレビ
放送はありません。さらに半年とか1年単位で
毎週定時に放送される連続テレビドラマがなく、
そして最後に西ドイツのテレビは決して中立では
ありません。

西ドイツには ARD と ZDF と2つのテレビネット
ワークがあります。共に公共放送局で、全ての
テレビ受像器所有者が郵政省に対して払う受信料
で運営されます。但し郵政省は電波の送信の管轄
をやるだけで番組の内容にはタッチできない仕組
になっています。

ARD は元来州単位でラジオ放送を行っていた
9局が1952年テレビ放送開始にあたって作った
協力機構で正式名称は Arbeitsgemeinschaft der
oeffentlich-rechtlichen Rundfunkanstalten in
der Bundesrepublik Deutschland. 夜8時からの
全国放送が始まるまでは傘下9局がそれぞれ地方
番組 Regionalprogramm [レギオナール・プログ
ラム] を流しています。これが西ドイツの3つの
Programm のひとつ Erstes Programm 第1番組。
ARD 各局はこれと並行して、内容が非常に特殊な
教育番組を各州単位でやっていますが、これは
第3番組、 Drittes Programm.

第2番組、Zweites Programm の ZDF は Zweites
Deutsches Fernsehen の略称で、全国放送だけ
しかやっていません。

本来なら ZDF と ARD は視聴率を争ってしのぎを
削るライバル関係にあるはずですが、その実両者
間には定期会議がもたれ番組の調整をします。
ZDF が娯楽番組の時、ARD は「裏番組をぶっつぶ
せ」と同じ趣向の番組で張り切るのではなく、
全く趣向の違った報道番組やルポルタージュ、
あるいはドラマなどを放送し、視聴者に選択の
可能性を与えるよう努力しています。

視聴率が1ケタしかない Drittes Programm を
計算に入れてもたった3つの番組、しかも主と
して夜の7時以降の放送しかないテレビのために
西ドイツ市民は1か月ラジオとテレビの代金として
10.5マルク、ラジオの聴取料だけなら3マルク
支払っています。

西ドイツのテレビも商品のコマーシャルをしますが、
ZDF,ARD 局とも、夜の全国放送が始まる前の20分程
に限られ、コマーシャルばかり集めて行われるので、
番組のあいだとか放送中にコマーシャルが挿入され
ることはありません。これで不思議とコマーシャル
番組を見る人が多いのです。大人の場合には夕食も
済んで一服入れる時間と一致し、子供の場合は、
コマーシャルのあいまに使われるギャグマンガを
見てからベッドに入るせいもあるでしょう。

テレビは1日中放送しませんからさほどテレビの虫
もいません。それに夜のドイツには音楽会や講演会、
教会の催物やパーティなどふんだんにあり、テレビ
がなければどうにも暇がつぶせない程退屈なもの
でもないのです。それでも Fussball などの国際試合
が実況中継される時には、街中から人の姿が消えて
しまうこともあります。とにかくスポーツ番組は
局でも重視する人気番組のトップクラスに属している
のです。もうひとつ西ドイツ人が好きな物に Krimi
[クリーミー] と呼ばれる推理小説があります。
テレビで Krimi をやる時間に下手な講演会を開いて
もまず学生達のインテリも集まって来ません。

西ドイツではテレビを時計がわりに使うことはでき
ません。朝はまず放送はないし、夜の本放送も最初の
ニュースは定時に始まるが、その内だんだん時間が
ずれてきます。だから番組内容も放送終了時間に
ついては um 11 Uhr 「11時に」とは言わずに 
gegen 11 Uhr「11時ごろ」とぼかしています。ドイツ
人にとって5分や10分テレビの時間が狂ってもなんの
意味も持たないのです。秒単位で放送をする日本では
およそ想像できないおおらかさです。

日本人が好きな連続テレビ小説に似た番組はありま
せん。毎日、あるいは毎週同じ時刻に、出歩くことの
大好きな西ドイツ人を一定時間テレビの前に束縛する
など、どんなに厚顔無恥なプロデューサーも考えつか
ないのでしょう。大作でも2時間位だったらぶっと
おしで、何回も分けなければならない場合は2,3日
の内にまとめてやってしまいます。

西ドイツのテレビは中立でないと言いましたが、ある
事件についていろんな意見がある場合、日本のテレビ局
なら双方の立場を公平に紹介して視聴者に判断をゆだ
ねることが多いが、西ドイツの場合、番組制作者が
自分の意見を明瞭に打ち出し、それを視聴者に押し
つけ、自分の責任で片方だけの意見でもどんどん平気
で紹介する。それで片手落の批評が上がれば、別の
機会を作って反対意見を紹介する。万事がこんな調子
ですから西ドイツのテレビの報道番組やルポルタージュ
番組はきわめて旗色が明らか、そして批判的になり
ます。どっちつかずの中立性など薬にしたくもない。
その結果放送後に世間をアッと言わせ激しい論争を
巻き起す番組が時折あらわれるのです。

西ドイツのテレビがこのように活気を持っているのは、
やはりその特殊な無検閲制度のためでしょう。政府や
政党、教会や労働組合も放送前に番組を見ることは
できず、批判をさしはさめません。放送後、各界代表
と局の代表で定期的にひらかれる委員会の席ではじめ
て批判できる仕組になっているのです。このことが
西ドイツのテレビを世界でもあまり例のない、すぐれた
テレビ放送にしている理由のひとつであると言われて
います。
     (9月号)

これも原稿の調子が悪くスキャナーでよく読みとれなかった。2/3はキー入力した。

             

 

 

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