ドイツ留学前に数年間、この三修社の雑誌を購読していました。
ドイツ語の能力はさっぱり上達しませんでしたが、ドイツ語の文法の
知識はこの雑誌のおかげで高いレベルを知ることができました。
この記事の転載については、出典を明示し原文を変更しないという条件のもとで、三修社から許可を得てあります。
和製ドイツ語
真 鍋 良 一
Pidgin English という英語がありますが、手許にある辞書を引いて見ますと、「英語の
単語または語形を中国式マライ語式に並べて混合した通商用英語」とあり、また他の辞書
には、中国やメラネシア地域の人々と外国人の間で「通商に用いられる1種の簡略な英語」
という説明がついています。まあ必要上生まれた破格な英語ですね。よく英語の先生に、
そんな英語はないぞ!といって叱られる Japanese English もこの1種でしょう。ずい分
沢山の商売人がこの日本式英語で用をたしているようです。よく駅の立札や店の看板など
に間違った英語が堂々と幅をきかせていますが、間違いを教えてあげても一向になおそう
ともしないのだそうです。(これはある外人さんから直接きいたことです。)要するに
わかればいいじゃないか、通じればいいんだろうという建前でしょう。
ドイツ語のほうにも、だんだんこの傾向が出てきているようです。交通会社とかその他の
旅行社の広告、パンフレットに出ているドイツの地名など間違いだらけです。ベルリン
といえば、昔からドイツの Berlin [ベルリーン] ということに固定してしまったように、
Nuernberg [ニュルンベルク] は日本語ではニュールンベルグ、Augsburg [アオクスブルク]
は日本語ではアウグスブルグということにきまってしまいそうです。しかし商売の上から
いうと、地名もそうですが、ドイツの会社の名前、映画俳優の名前など、少しぐらい不正確
でも、いや間違っていても、日本人に発音し易い名前に変形してしまったほうが、目的に
かなうのだそうです。ドイツの Sulzer [ズルツァー] という会社など日本ではスルザー
です。いやな感じのするのは 1、2、3 [アインス、ツヴァイ、ドライ] の「アインス」
を日本ではアインということです。テレビドラマ、映画、演劇など、平気な顔で、あたかも
これが正しいドイツ語だといわんばかりに、「さあ歌おうぜ、アンイ、ツヴァイ、ドライ
!」。小説などになると eins というつづりまで、わざわざ ein と印刷し、またイラスト
したりしています。 Arbeit [アルバイト] にいたっては、アクセントがアルバイトと変
わり、バイトと短縮され、ドイツ語にない意味で使われています。先日さるお芝居で、
Doppelgaenger [ドッペルゲンガー]「分身」のことを、「それをドイツ語ではドッペル
ガンガーという」という台詞にぶつかり、作者、演出家、俳優その他がドイツ語をいかに
ご存知ないかという証拠を見せつけられた思いがしました。
さて、そこで、こういう間違いに気がつくだけでなく、気になり、また癪にさわり、むら
むらするようになったら、一応ドイツ語が進歩したと思って差支えありません。
(6月号)
外来語の発音
橋本文夫
ドイツ語を習い立ての人に向かって、純粋のドイツ語と外来語との区別を求め
るのは、無理難題です。ただ普通のドイツ語と何となく異なった発音や異なった
つづりをもつ語は、外来語ではあるまいかと思う程度でよいのです。余り神経質
にならぬことです。まず第一に
アクセントが終わりの方にあれば、だいたい外来語と見てよい
Uniform[ウニフォルム]f 制服 Telegramm[テレグラム]n 電報
Student[シュトゥデント]m 学生 Philosophie[フィロゾフィー]f 哲学
外来語の特殊な母音
1. au,eauを[オー],euをoeと同じく「エー]と発音するフランス語系の語:
Bureau[ビュロー]n 事務所,オフィス,ビューロー(いまではつづりまでドイツ
化してBueroとするのが普通です)
Chauffeur[ショッフェーア]m(タクシーの)運転手(いまはつづりもドイツ化
してSchoffoerとすることがあります)
Friseur[フリゼーア]m 理髪師(=Frisoer)
2.eu, aeu を[オイ](Freund[フロィント]m 友,Baeume[ボィメ]pl 樹木)と発
音せずに、[エーウ]と発音する古典語系の語:
Museum[ムゼーウム]n 博物館 Jubilaeum[ユビレーウム]n 記念祭
このほかAeronaut[アエロナオト]m「航空士」のaero- やAppartement[ア
パルテマン]n 「高級アパート」 の ment[マン]など、いろいろな特殊例があり
ます。5月号の「発音 I 」のS.6に説いた ue と同音の y を含む語も実はすべて
外来語だったのです。
外来語の特殊な子音
l.cを[ク](k) または[ツ](ts) と発音するもの。おおむねkまたはzで書
き換えられます:
Centrum(Zentrum)[ツェントルム] n 中心 Cigarre(Zigarre)[ツィガレ]
f シガー Cursus(Kursus)[クルズス] m 課程 Credit(Kredit)[クレディ
ート] m 信用 Accent(Akzent)[アクツェント]m アクセント
2.ch を[ク]kと発音するもの:
Christ[クリスト] m キリスト教徒 Chlor〔クローア] n 塩素 Cholera[コー
レラー] f コレラ Chaos[力―オス] n 混沌(こんとん)
[注]chs[クス]は純ドイツ語:Ochs[オックス]m 雄牛
3.ch を[シュ](sch)と発音するフランス語系のもの:
Chauffeur[ショッフェーア] m 運転手 charmant[シャルマント]魅力的な
4.gを[ジュ]と発音するフランス・イタリア語系の語:
Genie[ジェニー]n 天才 Ingenieur[インジェニエ一ア]m 技師 Orange[オ
ラーンジェ]f オレンジ Giro[ジーロー]n 振替
5.jを[ジュ]と発音するフランス語系の語:
Jargon[ジャルゴン] m 隠語 Journalist[ジュルナリスト] m ジャーナリスト
6.ph をf[フ]と発音する古典語系の語:
Philosophie[フィロゾフィー] f 哲学 *photographieren[フォトグラフィー
レン]撮影する Sphinx[スフィンクス]m スフィンクス
*好んで fotografieren と書き換えます。
7.tia[ツィア],tie[ツィエ] ,tio[ツィオ]は古典語系:
Initiale[イニツィアーレ] f イニシャル Patient[パツィエント] m 患者
Aktie[アクツィエ] f 株式 Nation [ナツィオーン] f 国民、民族
8.vを[ヴ]と発音するもの:
Verb[ヴェルプ] n 動詞 Klavier [クラヴィーア]n ピアノ Violine [ヴィオリ
ーネ]f バイオリン
(この原稿は本が古くて変色していてスキャナーが解読不能のため、一部手で
入力した。ドイツ語と日本語混じりの文章はキー入力が疲れる)
(6月号)