基礎ドイツ語

ドイツ留学前に数年間、この三修社の雑誌を購読していました。
ドイツ語の能力はさっぱり上達しませんでしたが、ドイツ語の文法の
知識はこの雑誌のおかげで高いレベルを知ることができました。

この記事の転載については、出典を明示し原文を変更しないという条件のもとで、三修社から許可を得てあります。

第25巻第1号−第12号(昭和49年5月−昭和50年4月)

西ドイツ青少年の飲酒癖
              坂本明美

『音楽を聴き、ビールを飲み、ディスコ
テークに遊びに行き、いろんな仲間とおし
ゃべりをし、男や女の友達と会い、なんとは
なしに町をブラつく』というのが、14才か
ら18才までの学校や職場に通っている西ド
イツの青少年が、毎日ごく普通にやってい
る暇つぶしの方法だとしたら、これは私達
がこれまで西ドイツの青少年について抱い
て来たイメージとはちょっと矛盾するので
はないでしょうか。いかにビールの国の西
ドイツだからとは言え、まさか14才や15才
でビールの魅力にとりつかれるなんてと考
えるのは、20才まで飲酒喫煙を禁じられて
いる日本人の発想です。

西ドイツの法律では16才未満の青少年に、
居酒屋など公の場所での飲酒喫煙を禁止し
ているに過ぎません。一般家庭で子弟にア
ルコールや煙草を禁じているところが絶対
にないわけではありませんが、それはたい
てい大目に見られ、食事中や、食後の団ら
んの席で父親からビールやワインを一杯注
いでもらうというのは、ごくありふれた光
景になっています。ビール祭やワイン祭が
観光西ドイツの売り物になっているような
お国柄では、青少年だからビールは駄目、
ワインは飲ませないとは大人も言いづらい
ことでしょう。むしろ、一般の大人達は子
弟の飲酒を放任しているというのが現実で
す。しかし早くからアルコール飲料になじ
む傾向が、今や西ドイツの一部の識者の間
では、大きな社会問題としてクローズ・ア
ップされようとしています。

一昨年末に酉ドイツ最大の州で、ルール
工業地帯Ruhrgebiet[ルーアゲビート]や首
都Bonnをかかえたノルトライン・ヴェス
トファーレン州Nordrhein-Westfalen[ノ
ルトライン・ヴェストファーレン]の196の学
校で、14才から18才までの生徒4,653人に
ついて飲酒調査を行なった結果が、昨年末
になってやっと発表されました。日本人に
とっても他人事とは思えない驚くべき事実
が現われています。 14才でも3人に1人は
既にビールとかワインの比較的弱いアルコ
ール飲料をたしなんだ経験があり、17才の
少年ではこれが85%に及んでいます。
66%の青少年がビールやワインを規則的に
飲んでおり、さらに、弱いアルコールでは
満足できず、22.5%以上のアルコールを含
有する、蒸溜酒、シュナップスSchnaps
[シュナップス]、つまりブランデーやコニャ
ック、ウイスキーの類にも手を付け、14才
でも36.6%、17才なら70%という数字が出
ています。「17才ではまだ夢がある」という
西ドイツの流行歌Schlager[シュラーガー]
ではありませんが、17才ともなれば、一度
は酔っぱらった経験さえあるのです。

西ベルリンを含む西ドイツ全国について
同様な調査はケルンにある連邦健康問題啓
蒙センターBundeszentrale fuer gesund-
heitliche Aufklaerung [ブンデスツェントラ
ーレ・フューア・ゲズントハイトリッヒェ・アオ
フクレールング]が行い、最新の結果は
1971年のものですが、調査の対象になった
14才から25才までの青少年の14%は毎日ビ
ールを飲み、22%は週に数回、週に一度飲
む若者が13%になっています。ワインにつ
いては1%が毎日、8%が週に数回、17%
が週に一度飲むと回答していますし、週一
回は必ずコニャックを飲む若者が10%、穀
物や果実からとった焼酎のような Shnaps
を愛用する人々が9%、ウィスキー党が全
体の8%も占めています。

1969年ごろから2,3年は西ドイツ中が
ドイツ語ではHaschisch[ハシシュ]と呼ば
れるマリファナやLSD、あるいはアルカロ
イド系のMeskalin[メスカリーン]やKokain
[コカイーン]など、服用が法律で禁止され
ている麻薬Drogen[ドローゲン]を常用す
る中毒患者の青少年が世間の悩みの種にな
りましたが、最近では Drogen の方はい
ささか下火になっています。たとえば12才
から15才の青少年の22%が1971年には
Haschisch をためした経験があると回答し
たものですが、昨年の調査では17%に減っ
ています。これはひとえに取締りが厳重に
なった為です。所持したり服用したりすれ
ば警察に逮捕される危険性の高い Drogen
から、青少年の関心が、16才になれば、晴
れて公の席でも許されるアルコールに移り
始めたと言えましょう。それに西ドイツの
どんな家庭にでも必ず買い置きがあるビー
ルやワイン、あるいは居間の棚に並んだ
Schnaps のボトルに手が伸びるのはごく自
然の成り行きと言えましょう。

確かに、一時的な陶酔を求めるあまり、
Drogen に溺れ、度を過ごしては無気力状
態に陥り、すべてに無関心になるなど、廃
人状態に陥る青少年が減少する傾向にある
のは、喜ばしいことですが、しかしその彼
等がアルコールに救いを求めるとしたら、
西ドイツ青少年の飲酒癖を笑って見過ごす
わけには行かないでしょう。アルコールで
も中毒になることは衆知の事実です。これ
は西ドイツのアルコール中毒患者矯正所
Entziehungsanstalt[エントツィーウングス・
アンシュタルト]がアル中患者Alkoholiker
[アルコホーリカー]で常時満員盛況の状態
を呈していることからも判ります。パーテ
ィー好きの国民性で、なにかにつけ飲酒の
機会が多い西ドイツでは、もはや青少年と
いえども、お酒の誘惑から完全に逃れるこ
とは出来ません。

それにしても、青少年の日常的な娯楽が
『音楽を聴き、ビールを飲み、ディスコ
テークに遊びに行き、いろんな仲間とおし
ゃべりし、男や女の友達と会い、なんとは
なしに町をブラつく』だけだとしたら、いさ
さか寂しさを感じるではありませんか。テ
レビのチャンネルは3つ、しかもその1つ
は硬い番組だけを放送する教育テレビです
し、映画も外国物を除けば、良いドイツ映
画はほとんどなく、音楽会や芝居と来た
ら、しかつめらしい格好で出かけるものが
ほとんど、という状態の西ドイツでは、手
頃な日常的な暇つぶしをみつけるのはひど
くむずかしいのかもしれません。極言すれ
ば、西ドイツの青少年の最近の飲酒癖は、
西ドイツの退屈な日常生活に由来すると言
えましょう。

Nordrhein-Westfalen 州の4,653人の生
徒を対象に行われた調査でも、青少年の
住む町が小さければ小さい程、ビールやワ
イン、その他の強いアルコールに救いを求
める傾向が強くあらわれています。デュッ
セルドルフやケルンなど町も大きく、遊び
場所にも不自由しない所では、全体の10%、
小都会では12%、教会と居酒屋しか公の施
設がないような村では23%もの青少年がア
ルコールの魅力にとりつかれ、連日ビール
をあおっていると言われます。

どうやら、西ドイツの青少年の大部分は
適当な暇つぶしがなくて困っているようで
す。
  (9月号)



ルトビック王
                真 鍋 良 一

さる有名な俳優ご夫婦、ヨークシァテリアを買って、その犬にドイツの王様の名前を
つけたそうです。(去年の夏頃のある新聞のテレビブログラムの横のゴシップ欄に
出ていた話です。)さて、その犬の名は「ルトビック」というのだそうですが、
ルトビックというドイツの王様をどなたかご存じですか。 Ludwig [ートビッヒ]
という王公なら沢山おりましたが。知らないということは、おそろしいもので、
飼主同様何も知らない犬は「ルトビック」にされ、「ルトビック」とよばれれば、
ワンワンと答えているのでしょう。この記事を書いた記者さんもタレントご夫妻同様
ドイツ語は知らなかったのでしょう。

この記事が出た2、3日前に、これはまた別の新聞ですが、Soest [ースト]という
ドイツの町が [ゼースト] になって出ていました。この記事を書いた記者さんは、
ドイツ語を知っている、いやスコーシ知っているのでしょう。o ウムラウトは活字が
ないときは oe で印刷することもある、というしきたりをなまじ知っていたからで
しょうか、それとも Goethe [ゲーテ] の oe は [エー] だからそれと同じと思った
のでしょうか、とにかく Soest を [ゼースト] にしちゃったわけです。少し知って
いる、生半可(なまはんか)にかじっている、ということもおそろしいことです。

[oe や oi は低地ドイツ語の名前では、たいがい [オー] と発音される] のです。
上に述べた Soest は北ライン・ヴェストファーレンにある古い町で、中世的の町の
たたずまいで、また近年は鉄鋼産業で有名です。 [ゾースト] ですよ、おぼえておいて
ください。 oi のほうは、日本に長らくおられた法律家 Voigt [ォークト] という
方がおられました。日本の民法を独訳されたのも、この Voigt 氏だと思います。
それよりドイツの写真機に Voigtlaender [ォークトレンダー] というものがあります。
私もかつて愛用したことがあります。

ドイツ語はだいたいローマ字のように読むというのが原則ですが、地名とか人名には
またいろいろな読み方もあります。上野の山をにぎわした「モナリザ」もドイツ人と
話すときは [ーナ ーザ] (Mona Lisa) といってくださいね。固有名詞の発音は
かならず辞書で調べることです。
  (9月号)

これも原稿の調子が悪くスキャナーでよく読みとれなかった。3/4はキー入力した。

             

 

 

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