Im November ―― 11月に ―― 11月 November 11月2日はAllerseelen[アラー・ゼーレン]「万霊節」という日です。 死者たちの霊を慰め記念するしめやかな祝日です。 私の家の近くに広大な市立の墓地があって、散歩のみちすがら私も よくそのなかに入りましたが、前の日の夕方からお墓の前にたくさんの 花が飾られ、カンテラの中に太い赤ローソクの常夜灯がともされ、 翌日も一日中燃え続けているのでした。 花が飾られていた、と書きました。妙にお思いになるでしょうが、 ほんとうに赤や黄や白の色とりどりの花が、どの墓石の前にも横にも いっぱいに置かれ、常緑樹の枝を編んでそれに花をさした花環や花束が、 墓石の上にかけてあるのさえありました。 お墓というものの感じがまるで日本と違うのです。 ドイツ人が家族や友人のお墓を大事にするのには、私は驚きました。 ドイツはたいていの場合が土葬ですから、どのお墓も棺を埋めた上に、 あまり土盛りをしないで石の墓標を立てます。どの石も立派なものです。 名前の上に小さく十字架が彫ってあったり、聖句が刻んであったりします。 夫婦がひとつの墓に収められているのがたまにありますが、 わが国のように、何々家の墓というのは全くありません。 それを見ていると、人間はひとりで土に返っていく、そんな感慨がわくのでした。 墓石の回りには芝をうえたり、ジェラニウムの花を咲かせてあったりして、 一年中よく手入れがしてあります。家族や友人がよくお墓まいりをして 草一本生えないようにしているのでしょう。 そして花に囲まれ、緑の多いドイツの墓地は、まるで公園のように 楽しいところでした。 Allerseelenの日には、死者たちの霊が地上にもどってくる、と 古い俗信では考えていました。そのためでしょうか今でも常夜灯の横に、 小さなビスケットが置いてあったりしてほほえましいものでした。 花の値段の高いドイツですのに、大輪の菊の花や、黄色いバラが 供えてあるのでした。もうすぐ雪がやってくる。その前に今年最後の花を 供えて、逝きし者の霊を慰めようとしているのでしょう。 Herzliches Beileid zum Tode lhres Herrn Vaters. 「ご尊父様のご逝去に心からおくやみ申しあげます」。 Wo ist er begraben worden? 「どこに埋葬されましたか」。☆ ☆ ☆
ドイツの墓は土葬だから畳1枚くらい。
トルストイの小説「人にはどれほどの土地が必要か」を思い出す。
死んでしまえば、畳1枚ほどの土地で十分なのです。