Herbst ―― 秋 ―― 9月 September ドイツの8月末から9月はちょうど日本の10月末頃の気候です。 昼間でもセーターを着こみ、晩にはストーブをたかないと寒くて やりきれぬ日があります。この国の9月は、私にはいろいろ もの想うことの多いときです。 カスターニエン(栗)やポプラの並木が黄ばみ、木の葉がハラハラと 散りはじめます。毎朝家の前の歩道の落葉掃きを、勤めにでる前に すませてしまわなくてはなりません。買物かごをさげ、ゆっくり ひとりで歩いている老人たちが落葉に足を滑らせけがでもしたら、 わが家に補償要求が向けられるのです。車道の掃除は市や町の責任です。 市民のすることではありません。落葉の頃は自動車のスリップ事故が多い。 市役所は真空掃除機をとりつけた清掃車をくり出して道を掃除してくれます。 市民としての義務や責任分担ということを、このことからも教えられる 気がしました。しかし味気なかったのは、掻き集めた落葉を自分の庭で あっても燃してはいけなかったことです。それには警察と消防署の 特別許可がいる、というので、恐れをなしてやめてしまいました。 夏があまり暑くもなく、日本ほど苛酷な湿気もないので、ドイツ人たちは 秋の日を特にしみじみ味わってはいないようです。とくにありがたいと 思わないからでしょう。秋は短く、急速にきびしい冬に傾いていく わずかの間です。 なるほどヨーロッパ文学では、秋は季題になりえなかったわけです。 長い西洋文学の歴史で、秋をテーマにして詩が作られるようになったのは、 わずかここ2世紀のことです。文学における自然の役割がわが国とこれほど 違うのも、なるほどとうなずかれます。 9月23日は秋分です。 だからといって特に何をするわけでもありません。 むしろ月末29日のほうが、地方によってはお祭りの日です。 この日は天使ミカエルをまつる Michaelistag[ミヒァエーリス・ターク]で、 カトリック教会では特別ミサが行われます。学期・就職・税金の新制度も この日からはじまるのです。北独から北欧にかけてこの日は昼の正餐に、 おいしい鴨料理を出す習慣があります。 Es ist Herbst. 「秋だ」。 Im Herbst fallen die Blaetter von den Baeumen. 「秋には木々から葉が落ちる」。 Der Herbst in Deutschland ist kurz. 「ドイツの秋は短い」。☆ ☆ ☆
ドイツの秋は短くもうすぐ冬が来る。
北海道と同じように。