Humor ―― ユーモア ―― ドイツ人はユーモアとは関係のない民族だと思われています。 必ずしもそうではありません。ユーモアを解する人も多くあります。 もっとも、ヨーモアをだじゃれ・笑い話だと考えると、ユダヤ人には かないません。長い歴史的な生活の知恵でしょうか、ユダヤ人のウィットや ユーモアは実にたくみで、洗練されているのに驚かされます。 ドイツ人でもWitz erzaehlen 「ウィットの利いたユーモラスな話をする」 のがうまい人はたくさんいて、 Kennen Sie den? 「あれ(あの話:den Witz の短縮形)ご存じですか」 と言って語り始めます。楽しい話がいっぱいあります。 とある国鉄の(ドイツは国鉄しかありませんが)駅で、うしろに 知人の女性ふたりを従えて、私が出札口で3枚の切符を買うと窓の中の 駅員氏、こちらをガラス越しにすかし見ていわく、「ご婦人をふたりも お連れ申しての旅はたいへんですなあ」。思わず皆爆笑しました。 日本の駅では、まずありえないでしょう。 こういう段階よりもっと高い人生の朗らかを、ヨーモアと呼ぶとすれば、 それは人生の中で対象(自己自身を含めて)からそっと距離を置き、 微笑をもって対象を見ること、と言えましょうか。 どんなに苦い経験を重ねても、朗らかさ、清朗さを失わない人がいます。 たとえばモーツァルトの音楽は、その極地だと思うのですが、彼に あっては常に天地の清朗さHeiterkeiが、楽しく鳴りひびいています。 heiter[ハイター]とは、天空がまっ青に晴れ渡っていること、 そしてまた、それと同じように心が澄み渡つて朗らかであることを 意味します。 Heiterkeit こそ、人間の持ちうる最も好ましい美徳でしょう。 ユーモアも同じで、ドイツ人というのは罵り schimpfen、呪う fluchen する傾向が強いのですが、どんなにつらく歯ぎしりするような状況でも、 にもかかわらず trotzde 軽やかに、朗らかに笑える人、そんな人を ユーモアのある人だ、と申します。かつての日本人には、こういう美徳を 備えた人が多くおられたように思えますね。 Heiterkeit ist die hoechste Tugend. 「朗らかさは最高の美徳である」。 Humor ist hoeher als Heiterkeit. 「ユーモアは朗らかさより高い」。 ☆ ☆ ☆ ユーモアは人生を楽しくしてくれる。 たとえピンチの時でも。