ドイツ語 続コーヒー・ブレイク その36
Humor
―― ユーモア ――
ドイツ人はユーモアとは関係のない民族だと思われています。
必ずしもそうではありません。ユーモアを解する人も多くあります。
もっとも、ヨーモアをだじゃれ・笑い話だと考えると、ユダヤ人には
かないません。長い歴史的な生活の知恵でしょうか、ユダヤ人のウィットや
ユーモアは実にたくみで、洗練されているのに驚かされます。
ドイツ人でもWitz erzaehlen 「ウィットの利いたユーモラスな話をする」
のがうまい人はたくさんいて、
Kennen Sie den?
「あれ(あの話:den Witz の短縮形)ご存じですか」
と言って語り始めます。楽しい話がいっぱいあります。
とある国鉄の(ドイツは国鉄しかありませんが)駅で、うしろに
知人の女性ふたりを従えて、私が出札口で3枚の切符を買うと窓の中の
駅員氏、こちらをガラス越しにすかし見ていわく、「ご婦人をふたりも
お連れ申しての旅はたいへんですなあ」。思わず皆爆笑しました。
日本の駅では、まずありえないでしょう。
こういう段階よりもっと高い人生の朗らかを、ヨーモアと呼ぶとすれば、
それは人生の中で対象(自己自身を含めて)からそっと距離を置き、
微笑をもって対象を見ること、と言えましょうか。
どんなに苦い経験を重ねても、朗らかさ、清朗さを失わない人がいます。
たとえばモーツァルトの音楽は、その極地だと思うのですが、彼に
あっては常に天地の清朗さHeiterkeiが、楽しく鳴りひびいています。
heiter[ハイター]とは、天空がまっ青に晴れ渡っていること、
そしてまた、それと同じように心が澄み渡つて朗らかであることを
意味します。 Heiterkeit こそ、人間の持ちうる最も好ましい美徳でしょう。
ユーモアも同じで、ドイツ人というのは罵り schimpfen、呪う fluchen
する傾向が強いのですが、どんなにつらく歯ぎしりするような状況でも、
にもかかわらず trotzde 軽やかに、朗らかに笑える人、そんな人を
ユーモアのある人だ、と申します。かつての日本人には、こういう美徳を
備えた人が多くおられたように思えますね。
Heiterkeit ist die hoechste Tugend.
「朗らかさは最高の美徳である」。
Humor ist hoeher als Heiterkeit.
「ユーモアは朗らかさより高い」。
☆ ☆ ☆
ユーモアは人生を楽しくしてくれる。
たとえピンチの時でも。