Wohlstand ―― 福祉・繁栄 ―― ドイツ人の生活水準は、現在スイス、スウェーデン並みでアメリカ より高いと申せましょう。 Den Deutschen geht es so gut wie noch nie. ドイツ人の生活水準は史上かつてないほどよい、と言われるのも 当然です。 赤軍によるシュライヤー誘拐・殺害そしてモガジシオ空港への 国境警備特別部隊出動以来、公安当局による思想調査の強化、 過激派の公務員就職拒否など、一連の上からの締めつけは警察国家への 危険をはらみながら、あやういところでやっと民主々義のバランスを 保っている、というところです。 それ以外の点では、西ドイツの生活がこれくらい理想的にいって いるのは、実際この日で見て驚くばかりです。高速道路は全部無料。 国鉄運賃も日本より安い。 しかし、当のドイツ人たちは文句ばかり言います。 Die Deutschen kritisieren. 「ドイツ人は批判する」。 それは黙って羊のようにおとなしく周囲の状況に従う日本人の 正反対だと言っていいでしよう。 批判とは、必ずしも文句、不平というだけではなく、 諸外国の実例に即して改善を要求することでもありますから、 民主々義の根本には批判がなくてはなりますまい。 ヒトラーのDrittes Reich 第三帝国のようになってはならぬ、 と考えるのが一般のドイツ人の発想です。 19フ8年春に、左派の作家ギュンター・グラスが来日しました。 お寺や神社には退屈そうな顔をしていた彼は、魚河岸を見物した ときは日をらんらんと輝かせていましたが、このギュンター・ グラスは、体制をこっぴどく批判する知識人の一方の旗がしらです。 この人が、ドイツは警察国家になっていくのではないかという 質問に対して、いや、けっしてそんなことはない。 私は西ドイツ国内にあっては徹底的批判派であるが、 外に出れば現在の西ドイツの苦悩をともに担いつつ、祖国を弁護する、 と申しました。 築地の飾屋さんで握り鮪を一緒に食べ、おおいに語る一夕を過ご しましたが、私は彼からたいへんいい印象を受けました。 人は外国に出ると愛国者になるのかもしれません。 それでいいではありませんか。 ☆ ☆ ☆ Ich verteidige mein Vaterland. 「私は祖国を弁護(防衛)します」。