”vielleicht” ―― ひょっとしたら ―― 副詞vielleicht[フィライヒト]の訳語はふつう「ひょっとしたら;たぶん」 となっています。「ひょっとしたら、もしかしたら、あるいは」と 覚えるのがよろしく、「たぶん」という意味はないと 考えたほうがよろしい。 「たぶん」というのは、可能性がかなりありますね。 「おおかた、だいたいのところ」OKなのです。 「たぶん」にあたるドイツ語はwohl、あるいはwahrscheinlich 十中八九は」です。 (1)私の友人のH君はドイツに9年いて、そのうち7年は ドイツの大学で先生として教えていた人です。 むろんペラペラにドイツ語ができる人です。 そのH君がこんな失敗談をしてくれました。 金髪ブロンドで侮い眼のすてきな少女と知り合った。 「明晩いっしょに映画を観に行きませんか」と誘いました。 「6時に、この橋のところでお会いしましよう」、といささか強気に 出ました。すると相手は, ,,vielleicht.“ と答えてくれました。 胸をときめかせて帰ったH君は、翌夕を待ちかねました。 しかし、その翌日、霧の中で一晩中橋のたもとに立ちつくした 彼の前に少女はついに姿を現わしませんでした。 数日して彼女に再会したので、少しなじる口調で、「お待ちして いたのに」と言うと、へえ、といぶかしがる顔で言うのです。 "Ich habe doch 'vielleicht' gesagt!" 「あら、だって、フィライヒトって申し上げたじゃない」。 ― つまりこれは、ひょっとしたら行けるかもしれないけど、 まずだめですよ。万が一には行けるかもしれない。もしかしたら 伺うかもしれないけれど、まあだめと思ってください、 という意味なのですね。 H君は、昔の独和辞典にあった訳語「たぶん」のことを考えていたのでした。 (2)ただし、ものを頼むときには「済まないけど,もしよかったら」 の語感を添えるのに使うことがあります。子どもに頼むときの表現です。 大人には使いません。 Koenntest du mir vielleicht Zigaretten holen? 「すまんが、タバコを貿ってきてくれないか」。 (3)さらに俗っぽい会話で、「ほんとに、まったく」という 意味で使うこともあります。うまく栓が抜けない友人に向かって、 Du bist vielleicht ungeschickt. 「君は、ほんとに無器用(下手くそ)だなあ」。 また、アホクサと自嘲するときに、 Das war vielleicht ein dummes Zeug. 「まったくバカバカしい話だった」。 ☆ ☆ ☆ vielleichtがついて言われたら たぶん実現困難な見通しなのでしょう。 こういう表現は日常使っていないとわかりませんよね。