ドイツ語 続コーヒー・ブレイク その26
”vielleicht”
―― ひょっとしたら ――
副詞vielleicht[フィライヒト]の訳語はふつう「ひょっとしたら;たぶん」
となっています。「ひょっとしたら、もしかしたら、あるいは」と
覚えるのがよろしく、「たぶん」という意味はないと
考えたほうがよろしい。
「たぶん」というのは、可能性がかなりありますね。
「おおかた、だいたいのところ」OKなのです。
「たぶん」にあたるドイツ語はwohl、あるいはwahrscheinlich
十中八九は」です。
(1)私の友人のH君はドイツに9年いて、そのうち7年は
ドイツの大学で先生として教えていた人です。
むろんペラペラにドイツ語ができる人です。
そのH君がこんな失敗談をしてくれました。
金髪ブロンドで侮い眼のすてきな少女と知り合った。
「明晩いっしょに映画を観に行きませんか」と誘いました。
「6時に、この橋のところでお会いしましよう」、といささか強気に
出ました。すると相手は,
,,vielleicht.“
と答えてくれました。
胸をときめかせて帰ったH君は、翌夕を待ちかねました。
しかし、その翌日、霧の中で一晩中橋のたもとに立ちつくした
彼の前に少女はついに姿を現わしませんでした。
数日して彼女に再会したので、少しなじる口調で、「お待ちして
いたのに」と言うと、へえ、といぶかしがる顔で言うのです。
"Ich habe doch 'vielleicht' gesagt!"
「あら、だって、フィライヒトって申し上げたじゃない」。
― つまりこれは、ひょっとしたら行けるかもしれないけど、
まずだめですよ。万が一には行けるかもしれない。もしかしたら
伺うかもしれないけれど、まあだめと思ってください、
という意味なのですね。
H君は、昔の独和辞典にあった訳語「たぶん」のことを考えていたのでした。
(2)ただし、ものを頼むときには「済まないけど,もしよかったら」
の語感を添えるのに使うことがあります。子どもに頼むときの表現です。
大人には使いません。
Koenntest du mir vielleicht Zigaretten holen?
「すまんが、タバコを貿ってきてくれないか」。
(3)さらに俗っぽい会話で、「ほんとに、まったく」という
意味で使うこともあります。うまく栓が抜けない友人に向かって、
Du bist vielleicht ungeschickt.
「君は、ほんとに無器用(下手くそ)だなあ」。
また、アホクサと自嘲するときに、
Das war vielleicht ein dummes Zeug.
「まったくバカバカしい話だった」。
☆ ☆ ☆
vielleichtがついて言われたら
たぶん実現困難な見通しなのでしょう。
こういう表現は日常使っていないとわかりませんよね。