Unterhaltung ―― 談 笑 ―― 楽しい語らいほど、人と人とを結びつけるものはない、とドイツ人 は考えます。 日本人の男性ですと、真面目に座って、多少は笑うにしろ ネクタイ締めてしやべっている限りは「よそ行き」のつきあいであり、 本物ではない。ほんとうのつきあいとは、酔っぱらうまで とことん飲み、飲みつぶれ、悲しい歌を歌い合い、「おれはなあ」 と腹の底を見せ合い、臓物をさぐり合う、こうして初めて安心が できるというわけです。 ドイツ人はやはり真面目なんでしょうか。腹の底を見せ合うのも 酔っ払ってでなく(酔ってもいいが、酔っ払ってはいけないの です)、あくまで論理と感情とのハーモニーにおいて楽しい談笑 を重ねることによって互いを知り合うのだ、と考えます。 何年も前に亡くなった国立K大学のO教授。この方はたいヘん ドイツ語、ドイツ文学研究の大家として知られた人で、著書訳書も たくさんあります。こうして記すとわかってしまう方もおあり かもしれません。どうかお許しいただいて実話をここに記させて いただきます。 私どもドイツ語・ドイツ文学の教師はドイツ語を話すときに、 専門なんだからまちがいを犯すまいとして緊張します。 そのため留学してもGermanistがいちばん会話がまずい ということになります。 たぶんそういうことのためでしょう。O先生は(Oshioじゃあ りませんよ)、ある恩義のある有名なドイツ人を自宅でなく料亭 に招いて3時間半、ドイツ人のお客さんの横に座りながら一切 ドイツ語を話さず、乾杯にあたってもついに一回も目を見合いませ んで、ひとりで浴びるように酒を飲んでおられた。 斗酒なお辞せずというその酒豪ぶりが、わが国では「偉い人」と いうことになっているのですが、ドイツ人には通用しませんでした。 そのドイツ入のみならず、他のドイツ人もあきれ、怒り、憤ること はなはだしいものでした。私は何度O教授の日本的特質を弁護しなくては ならなかったことでしょう。 日本に長くいるドイツ人はわかってくれましたが、 短い滞在の人はけっして許してくれないのでした。 これからの私たちの世代は、こういうふうではなくありたいものです。 Nicht das Gericht,sondern die Unterhaltung ist wichtig. 「ご馳走でなくて,談笑こそ大事です」。 Das Gespraech mit lhnen war so interessant. 「あなたとのお話は,実に面白うございました」。 ☆ ☆ ☆ 高価なご馳走よりも、楽しい会話のもてなしの方が ドイツ人に喜ばれる。