ヨーロッパ旅行記(1)

1回目から10回目まで
 ロンドン、ドンカスター、ハンバー橋

ヨーロッパ旅行記 その10

10月11日 バスで北イングランドのハンバー橋へ

一路 高速道路を走る。
バスが走ってロンドンを出て1時間くらいしたら
外がだいぶ明るくなってきた。
(出発は6時半くらいだった)

日本の高速道路みたいな感じで親しみやすい。
これがヨーロッパ大陸の方なら右側通行で
調子がくるってしまう。

2時間走ってサービスエリアで休憩。

ガソリンスタンドを見ていたら
たいてい セルフサービスで
ドライバーが自ら自分の車に給油していた。
レシートを持って会計の窓口に出して精算する。

1リットルが約100円
 日本と同じか。

昼食はドンカスター(Doncaster)の町の郊外で。
旅行会社が世話してくれた地元のレストランだが
これが、ひなびた場所にあって ロンドンから運転してきた
ドライバーも場所がわからず
公衆電話を見つけて、電話でレストランに場所を聞いていた。

PICKBURNというレストラン。

パンやソーセージはセルフサービス。
そしてメインは鶏肉。
ヨークシャプディングというパイの皮の名物料理。
アイスクリームも必ず食後に出てきた。

実は出発前に、農学部長と銀河ビールを飲みながら冷麺を食べたとき、
今回の旅行でイギリスでは決して牛肉を食べないように
と言われた。そこで、添乗員に出発前にこの話をしたら
大丈夫ですと言われた。
はたして、イギリスではビーフは全然出なかったのだ。

また、筑波でのオフラインの際に、ハムの製造会社の研究員から
ハムは牛肉では作らず豚肉で作るから、イギリスのハムは
大丈夫でしょうということを聞いてきた。

食事の後に これから時間もよく午後の見学となる。
少し走って
ハンバー川に架かるハンバー橋の事務所へ。

この橋は世界一長い吊橋(中央径間長1410m)だが
メインケーブルから桁を吊る吊材が
通常なら上から下に垂直なのに
この橋は斜めハンガーを使っている。
(一見すると北上の珊瑚橋のイメージに似ている)

そして、吊橋は箱桁の断面である。
箱桁は、旭橋も新しい夕顔瀬橋も箱桁だが、
橋の下の目につかない所に
隠れているようでわかりにくい。
日赤近くの都南大橋の箱桁はよく見えてわかりやすいだろう。

日本の吊橋は大きいものは みなトラス構造
トラスの方が風が通り抜けるので
台風に強い
というのは日本の常識。

トラスは開運橋や、新幹線の北上市の北上橋梁や、一関の
やはり新幹線の北上川に架かるトラス橋がある。

   

イギリスはこういう独創性で
世界一長い吊橋を架けた。

ただし、この形式の吊橋は、風で揺れて大変という報告も
以前に読んだことがある。

同じ箱桁形式の先輩の吊橋セバーン橋は、傷みもひどく
補修に力をそそいでいるようだ。

ハンバー橋はセバーン橋を改良していると言われる。

文献を読むと、ハンバー橋は経験的に斜め吊材の振動減衰効果を期待して
いるが、斜め吊材吊橋として理論的な構造解析をしていないようである
との報告がある(橋梁と基礎 1977年6月号)。

日本なら、斜め吊材吊橋として、構造計算に必要な節点数を考えた
全体モデルを作って理論的に「剛性マトリックス法」で構造解析して、
動的解析をも行うところであるが、
イギリスの橋梁設計技術の伝統として、経験的に妥当と判断したら
簡単なモデルで設計するようである。

これに対して、何でももっともな理屈をつけ、数式をあやつって
数値を出しながら理論的に設計することが好きなのがドイツで、
日本の技術者の好みとしてはドイツ流が多数派であろう。
(人によっては、理屈っぽく面倒な計算式が延々と続くドイツ流より
経験に裏打ちされた簡単な式ですませるイギリス流を評価する人もいる)

我々の見学の際の説明では
ハンバー橋では
斜め吊材の振動防止の工夫もされて
今のところ問題ないという。

塩害については、河口から約40km上流にあって、
下のハンバー川は海水でないし、雪も年に2〜3回程度しか降らない
ので、路面凍結の予想される前夜に尿素をまくだけで心配ない
とのことであった。

風速は毎秒20mになると通行禁止にするという。

メインケーブルに付着する氷塊が時々落下して、走行車に影響を
与えることが問題で、その時は歩行者・自転車の通行を禁止し、
自動車は
車両速度制限をしているとの説明もあった。

箱桁にすると、維持管理がトラスより有利という説明で、
たとえば塗装なども7年に1度ですみ、断面が一定だから
橋脚付近にあった塗装用のトラベラー台車を橋の長さ方向に
移動して合理的に作業できるということであった。

しかし、同報告書でも、塗装は簡単かもしれないが、維持管理
面で一般に箱桁が有利であるという意見には同意できない
と述べられてある。トラスの明快な応力評価に対して、複雑な応力
の生ずる箱桁を理論的に解明するのは困難と思われるから。
(トラスの構造計算は1年生に教えているが、箱桁の応力計算は
大学院クラスの内容)

技術のことは資材(生産や輸入事情)とか作業員の能力など
その国の事情もあるので一概には言えないが、
ともかくイギリスでは1981年に開通してから現在まで
世界一長い吊橋を供用してきたのである。

主塔はそれまでの吊橋と異なり鉄筋コンクリート構造としている。
この理由として、架橋地域には地震がない、鋼製の約半分の工費で
すむ、塗装の心配がない等が上げられ、イギリスの積極的に新しい
技術に挑戦する勇気のあらわれとも言える。

見学で橋の桁の箱の中に入ってみた。
鉄の箱なので中に入ったら車の騒音が増幅されてやかましい。
それから交通荷重により主塔付近のジョイント部(伸縮継目)で
主桁が大きく移動するので、
ズルズルズルザーという音を絶えず聞いた。

この桁のたえず移動する音を聞きながら、
橋桁の移動は交通荷重によるものか、それとも風荷重によるものか
疑問をいだいた。

帰国してから改めて手紙を書いて質問したら、説明して
くれた EVANS氏からはっきりと
「橋桁は交通荷重によって移動するのであり、
風荷重によって移動するものではない」
との返事をFAXで送ってくれた。

なぜ、私がそういう疑問をいだいたかというと、
それ以前の日本の調査団の報告書には、ハンバー橋の橋桁は
風荷重によって振動するから伸縮継目のところで
大きな移動が観察されると書かれてあったからだ。

見学したときはそれほど強い風はなかった。
むしろ絶えず橋の上を車が通過していた。
そして、橋桁の移動はずっと観察できたから。
だから、風で動くのではなく、車の走行で橋桁が移動する
はずだと直感したのだから。

真相はもっと調査しなければならないが、
先人のレポートを頭からうのみにするのは
いかがかという例である。

箱桁の中でイタリア調査団が計測したという話を聞いた。
電源ケーブルも完成当時から計測用に配置されてある。
まだイタリア人の吸ったタバコの吸い殻が残っている
と言って笑わせた。

箱桁を出るとき、湿度を50%以内にコントロールしているという
確認のための湿度計が設置されてあるのを示された。

理屈と現実を体験できた。
構造設計を体で体験。

本当に自分が世界一の吊橋の中にいるのだろうか
これは夢ではないかと何度も思った。

川の上は風が強くて やはり寒い。

10月にノルウェーまで行くので
寒くてもいいような服装をしてきたので
私は大丈夫。
いざとなればインスタントカイロも使うつもり。

講演して案内してくれた EVANS氏は前にも日本の調査団に
説明した人で、聞いているみんなも彼は人格者だなあと思った。

左に説明する人が EVANS氏、右は通訳。

この世紀のプロジェクトが実は 国家からの借金があり
まだ借金が払いきれない。
それどころか 通行料金は焼け石に水で
利子だけでも借金が膨らんでくる。

さすがに最近は国の方でも考えてくれて、
地元で可能な限り金を集めたら、
残りは国家予算から払うという話がまとまったとのこと。

世界一の吊橋も経済問題がついてまわる。
これが土木工学。

詳しい技術レポートはまとめる役の人がいます。
私は報告書のまとめの一言を書くだけ。

この日は ハンバー橋からホテルのあるリーズへ移動。

イギリスの世界一の吊橋ハンバー橋。

ハンバー橋の主桁の中に入る。

   

   

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