フェルメールの贋作

第二次大戦中に、数多くの美術品がナチスに売られた。
戦後にそういうナチス協力者の一人として、オランダの三流画家
ファン・メーヘレンが逮捕された。
彼は、フェルメールの作である「キリストと悔恨の女」を画商を通じて
ゲーリングに売ったことで、ナチスへの協力の罪を問われたのである。
ところが彼は美術界を驚かせる発言をした。
つまり、彼はフェルメールの「キリストと悔恨の女」や「エマオのキリスト」をはじめ
その他フェルメールによるとされた4つの作品を自分で描いたと告白したのだ。
権威ある美術家の鑑定により、それらの作品はフェルメールの作であるとされていたから
当初彼の主張は相手にされなかったが、彼は自分の技量を証明するため
獄中で絵を描き出した。
作品が完成間際になると、ナチスへの協力の罪より贋作の罪の方が
重くなりそうなことを知って中止してしまった。
(別の本には、贋作の罪で1年の実刑判決が出され判決2ヶ月後に病死したと書かれてある)

フェルメールのいたころのオランダはフランスに攻められて(1672)、
経済が悪化し、フェルメールの絵は売れず、病気と多額の借金のため
フェルメールは43歳で死亡する。後には11人の子どもと未亡人が残された。
もともと寡作画家であるフェルメールは、33〜36点の作品が現在確認されている。

はたしてその絵は贋作か本物か。この問題を微分方程式を使って解いてみよう。
放射性崩壊の微分方程式のモデルを次のように仮定する。
    dy/dt=−λy+r(t)    崩壊定数 λ>0
ここで y(t)=時刻tにおける通常の鉛1gごとの白鉛(Pb210)の量
    y(t0)=y0  t0は製造の時刻
    r(t)=通常の鉛の中における毎分1gごとのラジウム226(Ra226)の崩壊定数である。
白鉛(Pb210は22年の半減期をもつ放射性物質であり、
ほとんどの絵に使われる重要な顔料である。
顔料には半減期1600年のラジウム226(Ra226)も含まれる。
そして顔料の中で白鉛(Pb210)とラジウム226(Ra226)は平衡状態になっている。

さて、この微分方程式を解くと次の解が得られる。
    y(t)=e−λt∫eλtr(t)dt+Ae−λt
 ここでAは積分定数である。
 もしrが定数なら
    y(t)=e−λtreλt/λ+Ae−λt
        =r/λ+Ae−λt
となりt=t0のとき
    y(t0)=y0=r/λ+Ae−λt
より    A=eλt0(y0−r/λ)
したがって、解は次のようになる。
    y(t)=r/λ+(y0−r/λ)e−λ(t-t0)
そして、ラジウム226の半減期1600年に対して、フェルメールの絵かどうか
は350年くらいの話なので、1600年の半減期に対してラジウム226は
ほとんど崩壊しないと考えられるから、ラジウム226の崩壊数rは定数と考えられる。

λy0=R  Rは通常の鉛1gごとのラジウム226の崩壊数である。
地球上の色々な鉱石からRを測定すると、0から200までの範囲の値をとることがわかっている。
もし絵が贋作でなく、約300年前に実際に描かれたものとしよう。
そのときはt−t0=300としてλy0を求めることができる。
すなわち
   λy0=λye300λ−r(300λ−1)
 ここで λ=3.151*10−2である。
もし λy0の値が200よりはるかに大きいものは確実に贋作となる。
「エマオの弟子たち」について測定すると
  λy=8.5
  r=0.8
なので  λy0=98147となり
200をはるかに越えてしまう。したがって絵は贋作である。