日本語と中国語
同じ漢字なのに、意味の違う言葉についてです。
中国旅行のときに、簡単な中国語つまり漢字を知っていると便利です。
というわけで、少しずつ勉強して整理したものを紹介しましょう。
参考にしたのは金若静先生の「同じ漢字でも(学生社)」です。
この先生の日本語は非常に詳しいと思います。漢字文化圏の日本と中国の
漢字が同じ場合だけでなく、時には全然違うケースがあることを発見して、
自分でまとめて本に書いたようです。
他にも、阿辻哲次先生の「漢字の字源(講談社現代新書)」を参考にしました。
愛人
「○是井上先生的愛人」 ○さんは井上さんの愛人です。
中国語の愛人は、正式の配偶者をさす。
愛人は、第二次大戦中の延安時代にできた言葉で、封建的結婚に反対する意味で、
革命思想を抱き、愛しあって結婚するから、お互いに相手のことを「愛人」
と呼ぶようになった。
日本語での愛人は、社会的に(道徳的に)認知されていない相手をさすから、
この言葉を使うときは注意。
牙
中国では、歯科のことを「牙科」という。
中国語で歯のことを正式には「牙歯」という。口語では牙である。
日本語では、牙は動物にしか使わない。
首飾
日本語では、首飾はネックレスのことである。
中国語の「首飾」は、もともと男女の頭につける色々な飾り物のことであったが、
今では女性が頭や首につける飾り、かんざし、ネックレス、耳飾り、指輪、腕輪
まだも指すようになった。つまりアクセサリー全般と思えばよい。
日本語では「首」をくび(頸)のことをさすが、昔の意味は頭のことであった。
今も、「頭と尾」を表す「首尾」とか、「党首」という言葉に、頭(あたま、かしら)
の意味として残っている。鬼首(おにこうべ)
頸と首(どちらもくび)
茶碗
日本語では、お茶碗にご飯をよそる(盛る)。お茶は湯飲み茶碗で飲む。
中国語では明確に区別する。
お茶を飲むのは「茶碗」 (日本語なら「茶碗」、「湯飲み茶碗」)
ご飯を盛るのは「飯碗」 (日本語なら「お茶碗」、「ご飯茶碗」)
スープを入れるのは「湯碗」 (日本語なら「お碗」、「碗」)
中国人なら、日本語の「茶碗」の使い方が乱れているのが気になる。
注文
日本語では、注文の品を届けた、という時は、品物の品質、形、数量など
指定して頼むとき使う。難しい注文をつけないでほしい、という場合は
他人に何か指図することを意味する。
これに対して、中国語の「注文」は、本などの注釈文、注解の文字を指す。
日本語の「注文」の意味は中国語にない。
机
日本語では、机はものを書いたり勉強する「つくえ」のことで、中国語なら卓(十が木)子
だろうか。
中国語では、「机」は「機」の略字となる。
だから「机場」は飛行場のことである。
「机」と「機」は別の字であるが、発音が同じ(ji)なので、
中国語では、「機」と書くところを「机」ですませるのである。(同音代替)
手紙
これはよく知られているが、日本語では、手紙は郵便のレターのこと。
中国語では、トイレット・ペーパーの意味になる。
棟梁
文字からすれば、「むね」と「はり」のことである。
建物に非常に重要なものであるから、転じて重職にある人をさし、
中国語では、「一国の棟梁」や「研究所の棟梁」という言い方をする。
昔は日本でもこのような言い方を使っていたが、現代では大工の棟梁にしか
使われなくなった。
取締
中国語の「取締」は、法律違反を取締ることに使う。
日本語の「取締」は、交通違反を取締る等と、中国語と同じ意味でも使うが、
もっと使用範囲は広い。「部下を取締る」など管理監督する意味で使う。
したがって、会社の地位に「取締役」があるが、この言葉は中国人には誤解されそう。
馬刺
中国人が日本に来て「馬刺」の看板を見て、日本は乗馬が盛んなのかと思ったという。
中国人は馬刺を馬を刺すもの、つまり乗馬用の拍車と思いこんだらしい。
その中国人は「馬刺」の店を「拍車店」と勘違いしたらしい。
中国語では、乗馬靴を「馬靴」、拍車を「刺馬針」といい、それらをあわせると
「馬刺」になる。
「馬刺」を中国人に説明するなら、生馬肉というべきか。
人口に膾炙(かいしゃ)する
中国から来た成語で、日本人もよく使う表現である。
「膾(かい)」とは、昔の中国で動物や魚肉を生のまま細く糸切りにしたものである。
論語の中にも、「膾は細きを厭わず」という文章がある。当時から膾はできるだけ
細く切るのがよいとされたようだ。朝鮮料理のユッケを漢字で書くと肉膾となる。
「炙(しゃ)」とは焼き肉のように、肉を直接火で焼いて食べる食べ方をいう。
この字は月(ニクヅキ)と火から成り立っている。
膾(なます)や炙(あぶ)り肉は人々が賞味するものなので、優れた詩文などが
多くの人によって口にされ、広く世間に知れわたることを「人口に膾炙する」
というようになった。日本でも、中国から入ってきたこの言葉を使うのである。
勉強
日本語では、「勉強」は学問することや、仕事に必要な知識技能を身につける意味で、
中国人に「学習」することだと言えば理解してもらえそうだ。
中国語では、「勉強」は、無理強いすることをさす。「勉強同意」とは、いやいや
しぶしぶ承認する意味になる。
羊羹(ようかん)
日本の羊羹は、ルーツは中国にある。
羊羹の「羹(あつもの)」とは、文字通りスープのことである。
だから、羊羹とは最初は羊の肉を使ったスープらしい。
戦国時代にあった中山国で王が家臣を集めて饗宴をしたとき、用意した羊羹の量が
不足して、家臣の司馬子期にはいきわたらなかった。彼は怒って南方の楚の国に走り
中山国を滅ぼすよう訴えた。そして、中山国は楚にほろぼされたという。
食べ物のうらみは恐ろしい。
イスラム教徒が多くなり、中国にも羊料理が増えた。羊の血を使ったスープ料理
から、やがて羊の血を固めた(濃い紫色の)料理となり、それを羊羹と呼ぶように
なり、日本に伝わったとき、肉食をしない日本人は植物性のベニで代用して
日本独特の羊羹を作った。今では中国に逆輸入され、天津の栗羊羹は有名とか。
放心
日本語では、「放心」は、気がぬけた状態。精神状態が正常でなくなり、魂のぬけた
ような状態になることである。
ところが、中国人留学生が日本について、中国にFAXを送ったのを見て驚いた。
無事到着したから放心せよと書いてあるではないか。
中国語では、「放心」は、心配がなくなって安心する、という意味である。
麻雀
日本語の「麻雀」は、中国語ではスズメのことである。
中国人に日本の麻雀のことをいうなら、「麻将」と言えばよい。
薬味
日本語の「薬味」は、食べ物を食べるとき味付けを強めるため使う。七味唐辛子や胡椒など。
中国人は「薬味」とあれば、文字通り薬の味と思ってしまう。
蕎麦やうどんに薬味を入れたら食欲がわくどころか食欲がなくなってしまう。
日本の薬味に相当するものは、中国語では「作料」と言う。
野菜
日本語の「野菜」は、中国語では文字通り、野生の野草、山菜になる。
日本の野菜は、中国語の「青菜」に相当する。
押
日本ではドアに「押」とか、「引」と書いてある。
ところが、中国ではこれらに相当するのは、「推」と「拉」である。
日本での「押」の使い方は中国にはない。
むしろ、中国では以下のような使い方をする。
護送する 例)容疑者を護送する
拘留する
抵当にいれる、差し押さえる
書き判をする 例)証文に印を押した
中国人が「押」を見ると、暗いイメージをいだくらしい。
法則
自然、物理などの法則
歴史法則、物理法則
法、法律
交通法則 日本語になおしたら交通規則
英語の場合、どちらもlawになるので、中国語にまったく対応している。
肥
日本に来た中国人が、「最近肥えましたね」と言われたら嫌だそうだ。
肥えるは主に動物に使う。
中国では、人間に使うときは、「肥」ではなく「胖」を使う。
護送
日本語では「護送」する対象は、その自由を制限すべき犯人のような場合に使う。
囚人を新幹線で東京まで護送する。
つまり、その人間が逃げたり自殺しないように、監視のもとに送り届ける意味に使う。
これは中国語でいうと、「押送」になる。
中国語の「護送」は、価値ある人や物が危険な目にあわないように
つき添って送るという意味である。
日本語でも、物を守って送り届けるときは護送を使う。このときは中国語と同じ。
現金を銀行まで護送する。
茶房
日本で茶房というのは文章語で、喫茶店の名前につけられることがある。
中国では以前に、ホテル、喫茶店、汽車、劇場などの公共場所の湯茶などの
接待等雑務をする人(サービス係)をさしていた。だから服務員のこと。
自我介紹
日本でいう自己紹介のこと。
日本語の紹介は、中国では介紹とひっくりかえってしまう。
もし自己介紹とすれば、「自己」は「自分で」の意味になるので、
「自己介紹」だと、「自分で紹介する」の意味になる。
遺体
たとえば、遺族とは一家の戸主が死んで後に残した家族のことである。
遺体とは、中国「礼記」では、父母が残した身体のこと。子どもが自分のことをさす。
「身体髪膚コレヲ父母ニ受ク」という考え方に通じる。
遺言とは、残す人自身の方から考えて「遺」というのであり、残された方から考えて
いるわけではない。
遺骨も死んだ人が残した骨であり、残されたのは遺族であり、
遺族に残されたから、その死体が遺体というのではない。
韓国でも「遺体」というのは中国古来の用法に従う意味が一般的とか。
「遺体」は日本人が、中国や朝鮮半島から持ち込まれたとき、何か付加価値を付けた。
死んだ人が一時的に身体から離れて、もしかしたらいつかその身体に戻ってくる
可能性をもっている。そういう日本人の生死観があるのだろうか。
だとしたら、エジプト人の生死観に近いかもしれない。ミイラはまさしく日本的遺体。