清水 立 卒業研究

 建築工学 土木工学 建設工学
 について

建築雑誌4月号 土地問題の現在

「土地問題」というと我々は真先に「地価問題」を思い浮かべる。自分もその例に漏
れないのだが、ここでは「土地問題」を「土地利用問題」に絞って考えようと思う。
それは少しでも自分の学ぶ事柄に近づけて語るにはその方が都合が良いのに加え、地
価の問題となると、所謂ハードというよりはソフト的な問題故のリアリティ欠如によ
り、踏み込み難い印象を受けるからなのだが、端的に言って知識が不足している故で
ある。丁度昨年本学における都市計画学(担当教官:安藤昭教授)にて土地利用計画
に関する課題に取組んだばかりなので、浅はかな知識で不動産について語るよりは身
のある文章が書けるだろう。

 さてその課題とは、「学生各自が任意で選定した一都市についてその現在(及び過
去のものについても)施行されている土地利用計画を分析、そこから将来に向けての
開発計画を考察せよ」という内容、自分は地元である北海道苫小牧市を選定し収集し
た資料とひたすら睨み合った訳だが、周囲の学生が盛岡市をその分析対象に取り上げ
た中で、苫小牧市は他と比べ聊か性格を異にした都市である事を知る。

 苫小牧市は王子製紙を中心に発達した工業都市であり、昭和35年に掘り込み開始と
なった苫小牧港の発展を契機に北海道における工業拠点都市としての地位を確立し
た。全用途地域における工業系用途区域が占める割合は平成11年の段階で78%、実に
8割に相当する面積である。中心部をされるJR苫小牧駅を一歩出ると眼前に3本の巨大
な煙突を擁する大工場が連立(隣接して市最大の商業地区)する様は、まさしく「工
業都市」の性格を強烈に印象付ける景観である。

 苫小牧市の総面積は561.16km2、しかし海岸沿いであるために開発区域のほとんど
は東西40kmに渡る細長い区域に集約される。故に市街地は中心地区から放射状にでは
なく、東西に伸び広がる形で発展してきた。結果として人口17万人程度の都市にも関
わらず極端(と言えば言い過ぎかもしれないが)に直線距離の長い市街地が形成され
てしまい、最西端・最東端から中心地区までは自動車で30分以上を要し、その開発の
手は尚も郊外、つまり東西へ伸び続けているのが現状である。

 にも関わらず市内を横切る主要道路はバイパス(片側3車線)と国道36号線(片側2
車線)の2本のみ、朝夕の通勤ラッシュ時には市営バスも交えて大変な混雑を見せ
る。冬場などは路面が凍結するために、ただでさえ滞る車の流れが一層澱み、何千台
という車が延々2時間近くもアイドリングを続ける異常事態を招く。これが無駄でな
くして何と言おうか。

 郊外へ開発の手が伸びる=中心地区の空洞化を招く事は今更取り上げるまでも無
く、苫小牧市もその例に漏れる事はない。中心地区の夜間・昼間人口の差は歴然であ
り、中心地区がそのまま工業地帯周辺に当るため環境は粗悪、居住空間としては適さ
ず王子製紙社員住宅団地がただ寂れた姿を晒すのみである。

 市民の足として活躍すべき市営バスも赤字経営のために運賃の上昇が続き、車が無
ければ買い物にもおよそ事足らない。

 このような状況は他の都市でも容易に起こり得るもので、建築雑誌4月号「わたし
の帰る街を」と題した伊達美徳氏の記述では福井県鯖江市の中心部空洞化が紹介され
ている。確かに郊外に開発の手を伸ばせば土地が安く手に入るし、そうすれば住民も
安い住宅が手に入る。一見何の不都合もないようだが、それはあくまでも短期的な見
方をすればの話である。長い年月を要する中心地区の再開発を先延ばしにしてとりあ
えずの応急処置を繰り返すのは、本来の都市計画から著しく逸脱した行為と言わざる
を得まい。

既に少子化の問題は間違いなく高齢化社会を招くものとして多くの人々に認識されて
いる。では実際に高齢化社会を迎えた時に郊外に散らばった住居地域、希薄な市街地
で果たして十分な統一性を持ったコミュニティが形成出来るだろうか。地球環境に配
慮しようという風潮の中で、通勤にさえ手間取る交通形態が果たして改善されるのだ
ろうか。今のままの開発が本当に住民の誇れる都市を創り出すのか、と言った内容の
結論でその課題を締めくくったのだが、正に同様の議論が同雑誌内で展開されてい
る。

もう一つ述べておきたいのだが、開発計画とは本来其処に住む人間が自ら行うもので
あるはずだし、そうあるべきだ。しかし現状では一部の人間が決定した開発が、ある
日突然住民の目の前に姿を現す。その開発の意図は後付けの理屈、納得いくもいかぬ
も無しである。無論情報公開が叫ばれる昨今であるから、事前に然るべき手段で開発
計画についての情報を得る機会も設けられているのだろうが、間違いなく大衆レベル
では土地利用計画など雲の上の話、同雑誌内大江匡氏の言葉を借りれば「山の国の
人」の仕事なのである。(閉鎖的で一般社会と孤立していると言ったニュアンス)
同雑誌巻頭インタビューにおける田中啓一日本不動産学会会長の言葉からの引用だ
が、ケンブリッジでは毎週金曜の夜になると、大学で都市計画の先生や財政の先生方
と住民、行政の方々がこの街が抱える問題、将来どうあるべきか、伝統的な街を護り
ながら新しい大学町をどう創っていくのか、と言った議論がなされているのだそう
だ。大変羨ましく感じると共に、同氏の「日本は経済大国でありながら生活大国では
ない」という言葉が実に印象深いのだ。
2000.8.20 清水 立