博士課程の報告資料

土田貴之氏の単位報告

平成8年12月21日
岩手大学 工学研究科
生産開発工学専攻
土 田  貴 之

橋梁振動モニタリング研究小委員会への参加について

 平成8年度から構造工学委員会 橋梁振動モニタリング研究小委員会(大島委員長)
に参加している。本委員会は以下の項目を重点としており2年間に渡って活動するもの
である。これらの項目のうち最近業務で取り扱った1)と3)について自分の考えを
述べる。

1)橋梁の健全度診断
2)減衰の評価
3)疲労照査と実応力比
4)構造システム同定

1.橋梁の健全度診断
 橋梁の健全度診断に関しては、業務において取り扱うことが多く、非常に興味深い
テーマでもある。主な業務内容は、ジョイント部を連続化したり支承をゴム沓に取り替え
た場合の騒音・振動の低減効果を計測するなどというものもあるが、多くは損傷があると
思われる橋梁に対して、現状のまま供用できるのか、補強が必要なのか、あるいは、架け
替えが必要なのかを総合的に判断するというものである。橋梁の健全度診断においては、
最終的な総合判断というものを成果として報告することになる。総合判断は、上部工・
下部工・基礎工などに対して、現場の損傷状況を外観目視や数種類の測定器を用いて計測
したり、あるいは数値計算により外力に対して充分抵抗できるのかを判断することである。
健全度評価のための調査は、床版のひびわれや鉄筋の露出、漏水や遊離石灰の状況、鋼材
の腐食状況などの把握を目的とした外観目視調査や様々な機器を用いた測定が行われる。
シュミットハンマーなどを用いたコンクリート強度試験、超音波測定器を用いた鋼材の腐
食度測定、コンクリートの中性化などの測定などが実施される。あるいは振動を使った測
定も診断手法のひとつとして用いられる。さらに数値計算では応力度照査を行うのだが、
設計図書がない橋梁に対しては橋の形状を測定し配筋などはRCレーダーなどを用いて探
査することになる。その結果を用いて設計当時の規定に準じた復元設計をおこない照査を
することになる。
 これらの調査・測定・計算結果を基に健全度を評価するのだが、総合判断に当たっては
主観的な意見に依るものが多く定量的な結果判定がなされていないのが現状であると思
う。上司は橋を観ただけで健全度がだいたい分かるようであるが、経験の少ない自分にと
っては、どういう部位に着目していいのか、測定結果や数値計算をどのように判断してい
いのかよく判らないものである。損傷度にはある程度ランク付けがされてはいるものの総
合的な診断となると経験の少ない技術者は判断に苦しむことが多い。そういう意味からも、
誰が診断しても同様な結果が得られるような定量的な診断、特に部位毎に重み付けをした
ようなものから橋梁全体の健全度診断することがこれからますます必要になっていくであ
ろう。
2.疲労照査と実応力比
 疲労照査と実応力比は外力の要因が非常に関係していると思う。設計上の照査を満足し
ていてもある部位に損傷が発生したり、また逆に設計上の応力度が超過していても測定し
てみると実応力はそれほどでもなかったりする現象がよくある。計算上の応力と実際に測
定した応力が一致しない原因はいろいろあるが、原因のひとつは外力の扱い方であると思
う。設計では所定の外力をその構造に対して最も不利になるように作用させているが、そ
れでも不足な場合があったり過足な場合があったりする。損傷に影響を与える外力のうち
車両などの活荷重や地震などを考えても、設計においては外力自体が実は不明なものであ
るというのが現状ではないだろうか。例えば、単純桁の中央に1個の集中荷重を作用させ
たときの中央のたわみというのは計算で求められ答えはひとつである。しかし、その逆の
答えはひとつではない。単純桁の中央に1cmのたわみを発生させる荷重の組み合わせは
無限にあり答えは1対1の関係にならない。設計というもの作用させた外力に対する応力
などを照査するのみの一方向(外力→応力)の手法が用いられる。モニタリングは、設計
での外力→応力の一方向的な手法に加えて、測定した応力→作用した外力の推定が可能で
あるため外力の実態を把握できるようになるのではないかと思う。作用する外力の推定は
橋梁設計にとって最も重要なことのひとつである。こうした未知の外力を追求することが
モニタリングであり、今後、モニタリングによる研究はますます盛んになっていくものだ
と思う。また、これらのモニタリングの結果が設計に反映されなくてはいけないのだろう。

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