博士課程の報告資料

新銀 武


「積雪寒冷地の地域的劣化特性を考慮したブリッジマネジメント手法に関する研究」
日本の高度経済成長期には多くの社会資本というべき建設構造物が盛んに造られた。
しかし、その後の社会情勢の変化により、これらの老朽化しつつある構造物の補修
と維持管理が近い将来大きな問題となっている。限られた予算と社会資本を有効に
使うために、資本管理(アセットマネジメント)ということが最近の建設工学分野
の主要なテーマとなっている。この研究においては、社会資本として岩手県内の
橋梁を選んで、主桁や橋脚橋台や床版など橋の構成部材に関して、車両など活荷重
の影響による疲労損傷や凍結融解や融雪剤の影響による劣化を調査し橋梁の損傷
評価を行い、橋梁の維持管理のための資料を集めたものである。また車両交通の
重量化や支承部の支点拘束化の影響を考慮した橋梁の耐荷力を実測と解析に基づい
て評価した。
第1章では研究の背景と目的及び概要を述べている。
第2章では橋梁損傷における地域性を述べている。ここでは、まず橋梁損傷評
価の手法を述べ、橋梁保全の現状と課題を述べ、地域性のある損傷について述べ
ている。
第3章では劣化現象における地域性評価について述べている。この章では塩化
物供給評価、活荷重外力評価、鋼橋疲労寿命評価、支点拘束を考慮した既設鋼鈑
桁橋の計測・評価を述べている。
第4章では地域的劣化特性を考慮した橋梁点検手法について述べている。ここ
では、橋梁点検の意義と目的を述べ、調査点検要領を述べ、損傷部位及び種類の
選定を述べ、優先性による維持管理緊急度評価について述べている。
第5章では地域的劣化特性を考慮したLCC(ライフサイクルコスト)につい
て述べている。この章では劣化曲線に基づく劣化予測を述べ、地域的劣化特性を
考慮した劣化予測を述べ、地域的劣化特性を考慮したLCC算出について述べ、
優先性点を基準としたグループ管理手法を述べている。
第6章では各章の結論を整理して全体的な結論をまとめている。  
 本論文では以下のようなことが明らかになった。
橋梁の活荷重評価に関しては、支点拘束の影響を考慮した耐荷力判定の手法を
提案し、橋梁台帳から推定される耐荷力ではない実際の橋の耐荷力を評価するこ
とに成功した。岩手県内の主要県道の既設橋梁で行った超小型疲労センサーによ
る増大する活荷重外力評価を行ったところ、他の都市交通で報告されているよう
な重交通による主構造疲労損傷や床組の疲労損傷が発生するような応力頻度は計
測されず、重交通頻度・応力頻度ともに主要構造の寿命に与える影響は少なかっ
た。岩手県の一部の路線では床版の打ち替え工事が必要なほど床版損傷が著しい
場合があり、活荷重のような交通荷重による疲労損傷に加えて凍結融解や融雪剤
散布の影響による劣化進展の影響を考慮しないといけないことがわかった。
これらの岩手県の地域的な特性による橋梁劣化を評価するための手法を提案した。
既存の資料と目視点検調査をもとに補修工事費を算定し、それぞれの橋梁ごとに
LCCを計算し、それらを合計することで橋梁管理者の管理する地域全体の橋梁の
LCCを算定することを提案した。このようにして岩手県内の2つの地域の橋梁群
を例にLCCを計算し、維持管理計画に有益な資料を与えた。
  1. 新銀 武・岩崎正二・出戸秀明・宮本 裕・保 憲一:既設鋼鈑桁の計測・評価
    手法の提案、日本鋼構造協会鋼構造年次論文報告集、第12巻(2004年11月)
  2. 新銀 武・岩崎正二・出戸秀明・宮本 裕・保 憲一:支点拘束を考慮した既設
    鋼鈑桁の計測・評価手法の提案、土木学会構造工学論文集(土木学会編)Vol.51A(2005年3月)
  3. 新銀 武・岩崎正二・出戸秀明・宮本 裕:積雪寒冷地の塩化物供給を考慮した床版
    余寿命診断に関する研究、日本鋼構造協会鋼構造年次論文報告集、第13巻(2005年11月)
  4. 新銀 武・出戸秀明・岩崎正二・宮本 裕:積雪寒冷地の床版劣化に影響する外力
    評価に関する一考察、日本鋼構造協会鋼構造年次論文報告集、第12巻(2006年11月)

構造研究室の頁の始めに戻る