橋梁工学「改訂版」のまえがき

まえがき
 横造力学は純粋理論を記述すればすむが,この橋梁工学のような具体的な設計を扱う
本は実は書くのが大変である.なぜなら,設計技術は基本となる構造力学の発展の
上に,材料の改良や新素材の出現、新しい施工法,示方書の見直し,たとえば
兵庫県南部地震(阪神大震災)による道路橋示方書の改訂(平成8年12月),など多く
のことを反映して時代とともに進歩していくものであるから.
 橋の設計は道路橋示方書に基づいて行うが、設計・製作の技術,安全性,施工性,
経済性,維持管理のしやすさだけでなく,最近は周辺環境との調和まで要求されるよう
になってきた。日本でも環境保護やエコロジーを考えた橋梁建設が常識となるだろう。
 ところで,周辺環境との調和を考えて橋梁美学を提唱した先人として,鷹部屋福平
博土がいる.博士はラーメンの解法で世界的にも著名な研究者であり,北海道大学,
母校の九州大学で教鞭を執られた,博士の教えを直接あるいは間接的に受けた諸先生
から橋梁工学を学んできた我々にとり,橋梁の理想を迫求する本を書くことは,意義
深いものであると考える.
 しかし,我々執筆者の橋梁工学の実務経験は必ずしも十分とはいえない,ただ大学院
、大学、高専などで橋梁工学あるいは橋梁設計学の教育研究に携わっているため,日頃
から橋梁工学に関する本を執筆するという目標を抱いていた.その目的が実現された
今、この本の意見や評価を真摯に受けとめ、次の著作などに反映させたいと考えている.
 従来は鋼橋とコンクリート橋について,それぞれ別の本として説明されている場合が
多かった.合成構造やコンクリート構造まで含む「構造工学」に関する本を執筆して
きた我々は,その流れを踏まえて,この本では鋼橋とコンクリート橋の両方を扱うこと
にした.特に第3章「許容応力度設計法と限界状態設計法」,設計計算例1「ポスト
テンション方式PC単純プレキャストT桁橋」,設計計算例2「活荷重合成桁橋」は力を
入れて書いた内容で,この本のユニークな特徴の一つであると考えている.
 各章について内容を要約すると次のようになる.
 第1章の総論は,橋の歴史,橋の構成,橋の形式による分類などを概説的に説明した
が,橋の歴史については土木史的観点から説明を工夫した.
 第2章の橋梁計画と維持管理では,橋を生きものに見立てて,橋のライフサイクルと
いう観点で考えてみた.また架設工事災害にもふれている.
 第4章は道路橋示方書の荷重についてまとめた.
 第5章では,構造材料と許容応力度について述べているが,構造材料としては鋼,
コンクリートのほかに最近の木橋の普及に対応して木材や集成材にもふれている.
 第6章は鋼橋の床版と床組について,図を使いながらわかりやすくまとめた.
 第7章は鋼橋の特に接合について説明したほか,ブレートガーダーや合成桁について
解説した.
 第8章は,格子桁と箱桁の応力解析について詳しく説明した.
 第9章はコンクリート橋の設計について広く説明をした。この理論式などは当然、
設計計算例1「ポストテンション方式PC単純プレキャストT桁橋」と対応している。
 第10章で,支承および付属施設について図を使いながら説明した.
 貴重な資料や写真を提供していただいた(社)日本橋梁建設協会,オイレス工業(株),
オリエンタル建設(株)(青木茂夫氏,市川成勝氏),川田工業(株)(越後滋氏),(株)
サクラダ,東京ファブリック(株),日本鋳造(株),(株)宮地鍛工所(滝戸勝一氏),(株)
横河ブリッジ(塚原弘光氏)、三井造船(株)(小林潔氏)、大成建設(株)(榎本成光
氏)、(株)ピーエス三菱(鈴木秀市氏)に感謝する.
 また,専門知識を授けていただき,暖かい励ましの言葉をいただいた北海道大学名誉
教授渡辺昇先生に感謝申し上げる.さらに製鋼技術について資料を教えていただいた
岩手大学工学部中村満助教授,貴重な国内外の橋の写真を提供していただいた岩手
大学工学部小野寺英輝助教授,岩手県県土整備部の大石勉氏、東急建設(株)遠藤毅
氏、(財)鉄道総合技術研究所の杉舘政雄氏、山本準・和美夫妻、当時岩手大学の学生
だった木村伸一君、松江信子さん、ならびにコンピュータによる描画作業に携わった
岩手大学大学院工学研究科の桜庭志歩さん、木更津工業高等専門学校の嶋野慶次氏に
感謝する。
 この本は5年前に出版したものを、その後の道路橋示方書改訂や関係分野の研究成果
をふまえて、書き直したものである。本書の出版にあたり大変お世話になった技報堂
出版株式会社に感謝する。

  2004年2月
                         著者を代表して 宮本 裕

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