岩手大学農学部岡田幸助先生のお祝いの文章

  オフラインの魅力                     岩手大学農学部  岡田幸助  科学談話会が発足して60周年になるという。私は昭和53年に当地に来て以来、約30年間 この科学談話会に出席し、多くのことを学ばせていただいた。もちろん毎回出席したとい うわけではなく、年に数回という年もあったと思う。  私にとって印象の深かった演題をあげると昭和57年「東北新幹線について」宮原和雄氏、 「松尾五色沼の不思議」吉田 稔氏、「シルクロードを訪ねて」菊池修二氏、平成元年 「最近の電池について」熊谷直昭氏、平成4年「石っこ賢さんと盛岡高等農林」井上克弘 氏、平成8年「岩手まるごと農業博物館構想」古賀康正氏、平成13年「邦産フクジュソウ 属の分化」須田 裕氏、平成15年「ビオトープの変遷と再生」平塚 明氏などがある。  宮原氏は東北新幹線がなぜゆれが少ないのか、また雪に強いかの説明をいただいた。前 者はレールが東京駅から盛岡駅までコンクリートの桁の上に乗っているからであり、後者 は車体が腹までカバーで被われているからだそうだ。吉田氏はなぜ五色沼の色が季節によ り変るのかを解きあかしていただいた。菊池氏のシルクロードを訪ねては我々があまり行 くことができないシルクロードの旅を紹介してくださった。熊谷氏は電池の重要性を教え てくださった。井上氏は先生の教室に残された「賢治採集の石」の発見から賢治のことを 話された。古賀氏は岩手県のどこに行けば何ができるか情報を集めて発信し体験実習の現 場づくりそれが本当の農業博物館になり得るという話だった。須田氏から見せていただい たスライドの黄色いフクジュソウの色が今も目に焼き付いている。平塚氏の松園子ども自 然観察園の取り組みをとおして自然の知恵に学ぶ教訓を語っていただいた。  なぜこれほど息長くこの科学談話会が続いてきたのだろうか。最近は情報過多の時代で ある。テレビ、新聞、書物、インターネットでなんでも調べることができる。また日々多 数の冊子や通信が送られてきて、たちまち机の周りが書類の山になる。そんな中で、せい ぜい30人程しか入らない小さな部屋の中で、何かをなしてこられたご本人と直接向き合っ て、お話しが聞けるという魅力ではないであろか。電波、印刷物、インターネットのオン ラインなどの媒体を通さないで、直接その方の人柄に触れ合えたことは何にも代えがたい。 お話しをいただいた方や幹事をしてくださった方の中には既に故人になられた方もたくさ ん居られる。最近は市民を対象としたこの種の公開講座や講演会は多いが、60年前は珍し かったのではないだろうか。今後ともこの会が息長く続くことを願って止まない。

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