前岩手大学長平山健一先生のお祝いの文章

科学談話会の末永い継続を心から期待する                       前岩手大学長  平山健一  アイオン台風が一関を襲った年の5月に第一回の科学談話会が行なわれました。岩手県 は前年のカスリン台風による被害の復旧の途上にあり、戦争によって荒廃した国土の復興 に科学技術への期待は大きかったのでありましょう。このような科学談話会の発足の契機 は、伊勢湾台風、洞爺丸台風の惨状を目の当たりにして自分が土木技術者を目指したこと と似ていますが、当時は自分が住む社会をまず優先して考えなければならない現実的な必 然性があったのです。  その後、半世紀以上の国民の頑張りによって自然災害に対する我が国社会の耐力は著し く高まり、科学技術の恩恵を実感することとなりました。しかし経済な豊かさへの飽くな き追求によって、地球環境の悪化に伴う異常気象の頻発や新たな災害の発生にもつながる 負の面が引き起こされ、さらにコミュニテーの崩壊によって人々の絆であった共生のシス テムが損なわれていきました。地球が有限である限り、使い方をコントロールできない科 学技術は決して万能ではないことは明らかです。  我が国の科学技術政策を考える「総合科学技術会議」では、科学技術担当大臣が事務局 機能を担っているせいか、先端科学の国際的な取り組みへの貢献や大規模大学の先進的な 研究については積極的な答申がみられますが、多くの国民にとって日常的な社会の在り方 やライフワークバランスの議論など、それぞれの地域が悩んでいる人文科学、社会科学へ の力点は極めて弱いように感じられます。科学技術によって実現した少子高齢化は我が国 にとって社会学的問題です。18才人口は昭和41年250万人を超えていましたが、最近は120 万人のレベルに漸減し、現在の出生率から予測すると平成50年頃には70万人代まで落ち込 むとの予測されています。その時、産業を担うのは誰なのでしょうか。ロボットや外国か らの移民ですべてを代換えできるとは思えません。  改めて科学技術のこれまでの在り方に思いを馳せながら、60年の節目を迎えた科学談話 会が単なる科学技術論議だけに止まらず、より広汎な人間の文化や歴史についても話合い 議論する会となって欲しいと願っています。海妻先生が50周年の時に寄稿した文章にある 「多様なものの混交のなかから真の文化は生まれてくるという強い信念のようなものが会 を突き動かしてきたのであろう」という言葉を今一度味わい、会の進め方に活かして欲し いものです。  多様な話題を取り入れた科学談話会の末永い継続を心から期待しております。

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