岩手大学工学部長平山健一先生のお祝いの文章

科学談話会の50年の歩みを祝して                    岩手大学工学部長 平山 健一 科学談話会発会式は、昭和23年5月、大先輩の小川博三先生の司会で開催され、6月、 7月の例会では洪水の話が選ばれている。この一年前の昭和22年には7月、8月と北上 川は洪水に見舞われ、そして9月にはカスリン台風により未曾有の大洪水が発生し、流域 は大きな被害を受けた。当時は戦争中着工じた田瀬ダムは工事途中で中止のままであり、 石淵ダムの着工間もない頃であった。まだ原始河川の状態であった北上川の洪水の話で は何を議論したのであろうか。折しも、この年も春から洪水が続き、9月にはアイオン台風 による出水のため流域は泥水の下に沈み、483名の死者、行方不明者を出している。そ れから数年を経て、松尾鉱山は全国の硫黄生産量の1/3を占め「雲上の楽園」と呼ばれ る時期を迎えるが、強酸性の坑排水により水質汚染は宮城県に及び、その中和処理のた め北上川は赤い川、死の川と呼ばれる時代が続いた。 現在、開運橋から岩手山を背景に見る北上川は美しい。科学談話会は、川さえもこんな に変遷する半世紀の間、こつこつと続けられて来たのである。驚きを感じると共に心からお 祝いを申し上げます。 多彩な講師陣、自由な話題が提供される科学談話会がこの様に休むことなく続けられて 来られたのは会員の意欲や幹事の熱意はもとより、いつの時代も変わらぬ人間の科学に 対するあこがれや、緩やかな会則、肩を張らない運営などやさしい岩手の風土そのものの 会の雰囲気を感じてしまう。 本会が岩手の科学発展へ大きな貢献をしてきたことは論を待たないが、科学の功罪が 改めて問われているとき、科学の意義を改めて問い直して頂きたい。特に若い層の参加が 待たれるところである。また、生活の豊かさや利便性の向上と引き替えに人間同士のここ ろのつながりが希薄になつていく中で、世代間の人づくり論議を期待したい。 今後の末永い科学談話会の継続を心から祈念しております。                             (平成11年3月)

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