自己中心的な性格

悪質な犯罪の裁判において、裁判長が判決文で犯人の悪質さや、自己中心的な性格
について述べることが多くなった。
しかし、人はたいてい自己中心的である。抑制心が働くから犯行に及ばない
だけなのかもしれない。

人前であがったり、コンプレックスを感じたりすることも
自己中心的な心の働きのなせるわざなのかもしれない。

自己意識の強い人、弱い人
日本人はアメリカ人よりも自己意識が強いようである。
次の事項に該当することが多い人は自己意識が強い人で、他人が自分のことを
どう思っているかが気になる人である。
・自分のしたことを反省する傾向がある
・人が自分のことをどう思っているか気になる
・自分の気持ちに注意をむける傾向がある
・人に良い印象を与えているかどうか気にかかる
・人に自分をどう見せるか関心がある
・自分が何をしたいのか考える傾向がある
・自分の外見が気になる
・自分の感情の変化に敏感である

自分自身に向けられる意識が強いと、理想と自分の現実のギャップを痛感して
落ち込んでしまうものである。自分を意識しすぎて、反省しすぎるのはよいことではない。
しかし意外なことに、自己意識の強い人は本気で反省しないものである。
理想と現実のギャップを埋めようと努力するのが理想的な対応であるが、
自信のない人は、そのギャップのもたらす不快感から無意識のうちに逃げだすのである。

この本の著者は実は自己意識が強いために、人からよく思われようとするあまり
講義や講演でストレスが溜まってしまうという。
人の評価をとても気にするあまり、肩が凝るのである。
講義は苦手だが、ゼミは楽とも述べている。学生どうしのやりとりがあり
視線が著者に集中しないからと解説している。なるほどとうなずかれる。
心理学の専門家として、テレビ出演するのは苦手だが、ラジオは気にならないという。

鬱病になりやすい人と自己意識の関係
失敗したことにいつまでもこだわらないのが平凡な人である。
鬱病になりやすい人は、失敗したときに、自分を強く意識してしまう人である。
失敗を反省して努力して立ち向かう姿勢は評価すべきであるが、
反省をとおりこして、失敗をいつまでもひきずると大変。成功したことより失敗した
方にだけ気持ちが向かっていく傾向が、鬱病になりやすい人にある。

誰でも、成功したときより失敗したときの方が自己意識が高まるものである。
しかし、鬱傾向のない人はいつまでも失敗にひきずられず、気分転換して、いつもの
生活に戻ることができる。それに対して、鬱病になりやすい人は、気持ちが失敗の
方に向けられるために、いつまでも失敗したみじめな自分をひきずっている。
鬱になりやすい人は、成功したときの写真や記念品を部屋に飾っておくとか、
ポケットにしのばせておくなど、いつも良いイメージを大切にしたらいい。

劣等感の克服のためにプラスの自尊心を身につける。
自分の目標となるような立派な人を見つけてその人をモデルに努力することは
よいことだが、そんな優秀な人との人間関係をもつと、たえずストレスを受けて
こちらは劣等感をもち自己評価を下げることになる。楽しくはない。
自分より下の人と比べて優越感を感じても進歩はないのだが、
進歩に必要な積極性は、そこで生じたプラスの自尊心によって促進されるのである。
プラスの自尊心を身につけるには、何かに成功すること、ほめられることが必要で
あるが、いずれにせよ自分が優位にたつことがなくてはいけない。
そのためには、ときには自分より下と思える人と自分を比較することも自信をつける
効果のあるものなのである。そうすれぱ内心の自己評価は上がり、気持ちにゆとりが
うまれ、人間関係を楽しめ、生きる力を感じるものである。

人間も若いうちは自分の評価が安定しなくて、優秀な相手やダメな相手が現れる度に、
自己評価が大きく変わり、自分がすごいと思ったり、ダメだと落胆したり、落差ははげしい。
ある年齢になると自己評価は安定する。経験を積むと、無理して偉い人に会う必要は
ないし、会おうとも思わなくなる。自分のレベルにあった人とつきあい、劣等感を
おこさないよう生きるすべを身につけるのである。

大学教師でも、ビジネスマンでも、同僚のスピード出世や、異性からもモテぶりや、
仕事の成功は(心の中で)笑顔で迎えられない。その同僚が自分に近ければ近いほど
気持ちは複雑となる。友人だから喜びも大きくなるべきであるが、ひがみや嫉妬心
はそれ以上に大きくなる。そして、劣等感から自分を守ろうとして、
友人のあらさがしをしたり、批判的になるのである。
出世したりモテたりする人間が鼻持ちならぬ奴なら、嫌いになるのもうなずけるが
相手の性格がよくても、相手の成功に対して、ひがみをもったり嫌いになるのは
人間の身勝手な心の働きなのである。

劣等感を克服して優越感をもつ、無意識の生活の知恵
「ハロー効果」のテクニック 後光効果つまり何かすばらしいものがあると
他の性格も同じようによいと判断してしまう、人間の歪んだ認知傾向をさす。
たとえば美人のガールフレンドを持っていたとする。そんな男を世間の人は
つい、あんな美人がガールフレンドなのだから、彼には何かすばらしいものがあるに
違いないと思ってしまう傾向がある。
実際に美人は得だ。(あのちびまる子もまる子の母親もおばあちゃんまで、男は
美人に親切にしすぎると怒る)
「男の先生はかわいい女の子ばかり合格させてしまうので、ホントに困る」と
某女子大の女性教授は嘆くとか。推薦入学試験の場合、決め手は面接。
審査官の男性教授も、目の前で若い女性が座り、ぜひ入学させてと熱い目で訴えられたら
つい、無意識に合格させてしまうのかもしれない。
「かわいい学生だけをとるんだよ」という老教授はさらに続けて「かわいい学生を
とっておけば就職の心配がないからね」と言うとか。どこかから小石が飛んできそうだ。
この就職難の世の中でも、どんぐりの背比べでは、かわいい子から就職が決まっていく
だろうか。
何か一芸にひいでている者から合格させる大学もあるので、このハロー効果も
無視できないものであろう。

劣等感を克服して優越感をもつ、もう1つの無意識の生活の知恵
「栄光浴」のテクニック つまり昔からある『あやかり』の技
人に勝ちたい、負けたくないという優越欲求を満たしてくれる技。
「私は松井と同じ石川県なのだよ」
「私は中学生時代、オリンピック柔道金メダルの○○君と同じ柔道部にいた」
「今の総理大臣と高校が同じです」
「雅子さまがお買いになったハンドバックですと勧められて買ってきたの」
優勝候補とさわがれたW大学チーム、決勝戦には内野席に応援の学生があふれる。
一方の相手チームの三塁側応援席には応援団しかいない。ムードの上がるチームには
みんなつきたがり、下がる傾向のチームはさけてしまう人間心理。

齊藤勇:自己チュウにはわけがある、文春新書174