PCカンファレンスの原稿(1次案)です。

2007年8月2〜4日に北海道大学で行われます。
原稿締切は6月15日です。5月中に送りましょう。
1行47文字(以下45文字にする)
43行
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オリジナルと模倣について

1.まえがき  インターネットでは容易に他人のHPのコピーが可能である。インターネットを利用 した教育においては、したがって著作権のことを重要視して教育する。それは学生に課 した課題の回答が、クラスメイトのものをコピーして送ってきた場合のみならず、イン ターネットのサイトのコンテンツの一部をコピーした場合にも見られることがあるから である。こういう状況を前提に、建設環境工学通論の講義の中で「オリジナルと模倣」 というテーマを取り上げ、学生と討論をしたことがある。今回の発表はそれらをまとめ たものであり、PCCで参加者とともに更に討論をするために発表する。 2.建設環境工学通論  応用化学科と材料物性工学科の3年生を対象とした建設環境工学通論の教材として、 土木学会が監修した放送大学の教材「土木工学」(全15巻)やプロジェクトXのビデオ (黒四ダム、青函トンネル)も見せている。さらに補足的に講義をすることもあるが、 学生の中にはそれらを一方的に受け入れればそれでよいとする学生が少なくない。教室 での講義や教材では不十分で、自分でももっと積極的に不足な知識や情報を図書館やイ ンターネットで探そうとする学生は極めて少ないように見受けられる。 3.この講義のねらいと最終課題  著者のこの講義に対するねらいは、建設環境工学を例として自分でものを考える習慣 をつけさせることにある。人の受け売りではない自分独自のものの考え方を育てること、 それが卒業生が目の前の問題に苦労して立ち向かい、問題を解決する能力となるからである。  ビデオの説明で不足のところなどは補足説明をした。また、関連のことを調べさせる ため、宿題としてインターネットを利用したり、図書館で参考書を読んで、電子メール で回答させた。インターネットを利用して調べても、HPの単なるコピーに終わってい て、自分の感想とか意見を加える者は少ないのは残念であった。  最終試験は行わず、いくつかのテーマを最終課題として与え、各自が電子メールで送 ってきた回答に対して、再度質問して討論することで成績をつけている。これらのイン ターネットを積極的に利用した講義と最終課題方式については、数年間PCCで発表し てきたので今回は省略する。 4.オリジナルと模倣について  毎年課題の回答を電子メールで受け付けているが、その回答を見ていると他人と同じ ものをメールで送ってくる学生やインターネットの参考したサイトが同じであるゆえ他 人と同じ引用(コピー)のものが目立つ。そこで、彼らにオリジナルと模倣についてに ついて考えさせるため、あるとき講義の終わりに「オリジナルと模倣」についてその違 いは何かとかオリジナルの意義を問う宿題を出した。そして、何人か意欲的な回答者を 選び、教員とのメールによる議論をしたのち、その中から優秀な回答をした者を選び、 その優秀者をみんなの前で発表させてみた。このような発表者にたいしてクラス全員か ら評価をさせることで、改めて優秀者とみなし最終成績判定の資料とした(要するに、 この成績優秀者は最終成績も優とした)。 5.オリジナルと模倣の違い  オリジナルか模倣か、それを考えると芸能の世界は盗作が多そうである。たとえば、 森繁久弥の「知床旅情」は「早春賦」(中田章)によく似ている。でも、音楽を知って いる人は、どちらも、モーツアルトの「ピアノ協奏曲7番」(k595)にそっくりという。 ザ・ピーナツの歌った情熱の花は、ベートーヴェンの「エリーぜのために」に歌詞をつ けた(カテリーナ・ヴァレンテの歌をザ・ピーナッツがカヴァー)。滝廉太郎の作曲し た「花」は武島羽衣の作詞だが、これは源氏物語の胡蝶の巻の中において六条院の宴の 歌「春の日のうららにさしてゆく船は、棹のしづくも花ぞ散りける」からの本歌取りだ ということは、源氏物語現代語訳をしたためた田辺聖子の指摘であるそうだ。 日本文学伝統の本歌取りは、盗作ではなく、剽窃でもない。もちろん現代の若者がよく 口にするパクリでもない。しかし、本歌取りかパクリか、オマージュかパロディかとよ く議論になるその判定は難しい。学生たちが新曲をあげて、あれは何々のオマージュで はなくパクリだ等と言うのを耳にすることがある。  一般に模倣はよくないとされるが、模倣を認める分野もある。声帯模写とかコロッケ のものまね芸は模倣の完成度が高いほど評価される数少ない分野である。また、中世の 絵画に見られるように師匠を中心とする絵画製作集団においては、弟子はまず師匠の絵 に忠実に模倣できるようになることが必要であったと思われる。やがて、弟子は自分の オリジナリティをひっさげて独立していったであろう。日本の何々道と名のつく芸事も、 最初は模倣を繰り返しながら型を覚えていき、そのうち自分の個性を出して独立してい ったものと思われる。  さて、出された課題について電子メールで送られてくる回答を見ていると、たいてい はインターネットのサイトのコピーにすぎない。ある項目について要領よくまとめてい たりすると、それをそのまま参考にするのは便利だからしかたがないとも言える。これ に対して単にコピーをするだけではなく、何かその上を行くようなことを求めるとする なら、たとえば2つか3つのサイトを参照してそれらを統合するとか、自分の意見や感 想を追加するこということになろう。引用される文体がそのままだと、学生本人の文体 との不整合が目立つときは明らかにぎこちない印象を与え評価は低くなる。 6.あとがき  オリジナルと模倣については、昔から日本のみならず世界の各国で議論されている。 インターネットの時代になってデジタルゆえコピーはより容易となったため安易にコピ ーする例が見られ、著作権の意味を教育として考えさせる機会にはなった。しかし、安 易な模倣とみなすべきか独創的な改善と見なすべきかは、人によって判断が様々である。 ここで報告した例を参考にして、今後も学生たちとオリジナルと模倣について考えていき たいと思う。オリジナルか模倣かについての判断は時代や社会や民族や国家によっても 変化するものであるから、常に考えるという姿勢が必要と思われる。 参考文献 1)宮本裕他(2001.12):教員の自己評価のためのホームページの利用、工学教育プログラム改革推進研究発表会、一橋記念講堂(学術総合センター) 2)宮本裕他(2005.8):建設環境工学通論の授業評価に関する考察、PCカンファレンス、立命館新潟大学 3)吹浦忠正(2003.4):愛唱歌とっておきの話、海竜社     この講義のためのホームページ

OHP原稿その1(タイトル)