PCカンファレンスの原稿(1次案)です。
2005年8月5〜7日に新潟大学で行われます。
原稿締切は6月15日です。
1行47文字(以下45文字にする)
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インターネット利用による課題提出について
岩手大学工学部建設環境工学科 宮本 裕 miyamoto@iwate-u.ac.jp 賽麗曼・買買提 1.まえがき JABEE対応のために、建設環境工学通論を他学科(応用化学科約80名と材料物性 工学科約50名)の学生に講義している。自学科なら予備知識や関連科目の講義があるの だが、他学科ゆえ専門用語に慣れていないことや予備知識不足のため、教え方に工夫が 必要である。また、多人数講義なので教育効果を上げるためにビデオ教材を利用したり、 著者のホームページ(以下HPと記載)を活用したり、質問や課題提出を電子メールで 行っている。この建設環境工学通論のインターネット活用については2年続けて発表し たが、今回はこの3年間の講義体験の整理したものを述べる。 2.建設環境工学通論 通論としての建設環境工学を講義するための教材として、土木学会が監修した放送大 学の教材「土木工学」(全15巻)を使用した。このビデオはやや古いので、現状とのずれ がないではないが本質的な理解には十分である。厳密には建設環境工学と土木工学とは 同じ学問ではないが、日本の大学の中ではだいたい同じような学問である。そこでは世 界の土木工学の歴史にふれながら、日本の明治以降の土木工学の発展の歴史を述べ、土 木工学の特性としての「社会資本の整備」「環境の保全」などのテーマを具体的な事例 を映像で示しながら、講義をする形態になっている。このビデオ教材を見た学生の印象 は、今まで知らなかった土木工学の意義や価値を知ったという声が多かった。しかし、 具体的な力学計算や建設材料として重要な土やコンクリートの力学的性質に興味をもつ 者もいるが、それらの基礎的な知識が不足のため、理解するのが困難な傾向にある。ま た放送大学のビデオは教材特有の堅苦しさがあるので、建設工事の積極的なイメージを 与えるため、プロジェクトXのビデオ(黒四ダム、青函トンネル)も見せたところおお むね好評であった。これらのビデオは明らかにドラマ性を意識して作られており、放送 大学の真面目な教材とは目指すものが違うのは当然である。 講義では説明しきれないことや欠席した者のために、講義の補足等をHPに載せてみ た。しかし、積極的にこのHPを見て、感想や質問をメールで送ってくる学生は、期待 するほど多くはなかった。 3.この講義のねらい 著者のこの講義に対するねらいは、建設環境工学を例にして自分でものを考える習慣 をつけさせることにある。人の受け売りではない自分のものの考え方を育てること、そ れが社会に出て新しい技術を身につけながら発展的に生きる技術者のあるべき姿ではな かろうか。 多人数教育のため、この講義はビデオを見せて、その感想を毎回規定の用紙に書いて 提出させた。ビデオの説明で不足のところなどは補足説明をした。また、関連のことを 調べさせるため、宿題としてインターネットを利用したり、図書館で参考書を読んで、 電子メールで回答させた。インターネットを利用して調べても、HPの単なるコピーに 終わっていて、自分の感想とか意見を加える者は少ないのは残念であった。3年目の講 義では、国際社会に生きることを考えて、宿題は原則として英語で提出することにした。 なお電子メールによる最終課題は、初年度では「自分の学科の通論と建設環境工学通論 の比較」とした。2年目は「化学史や物理学史や材料学史など」のどれかひとつを選ん で、自分なりに整理して提出させた。3年目は「戦争に使われた工学」「建設環境工学 の未来」などの中から選ばせた。ここでもHPや参考書の丸写しが見られた。どこがオ リジナルか、自分で考えたのはどこかという質問をメールで行い、オリジナル性をきち んと答えられた者には良い成績をつけた。3年目にはいつも送られてくるメールが最後 に集中して、学生もこちらも対応に追われるので、最終課題の前に毎回の提出回答者の 中で優秀な者を選んで、それらの学生が普段の学習態度が良いことを確かめてから、最 終課題を免除することにした。したがって、約20名くらいの学生を除いた他の学生に 対して、最終課題の提出を要求したのである。それでも、提出期間を40日くらい用意 したのにもかかわらず、最後の10日間に半数の学生のメールが殺到した。この40日 は冬休みをはさんでの日数だったので、課題提出開始日を冬休みの2〜3週間前からと すればよさそうである。 著者が学生たちに望むことは、技術の可能性と限界をわきまえて、技術者の社会責任 を自覚することである。その考えるためのヒントを与える講義でありたいと考えている。 国際社会に生きる日本人として、身近にいる留学生との交流は価値があるものである。 しかし、積極的に留学生と交流しない日本人学生が多い。そこで、留学生に自分の母国 事情や日本留学の目的などを学生たちに話してもらったところ、留学生を理解して日本 人としての自覚をうながすことになった。留学生がTAとして講義の補助をすることも、 留学生にとっては貴重な体験となった。 4.学生の感想 毎年、講義の最終回に無記名でこの講義の感想を書いて提出させている(著者は他の 担当する講義についてもすべて最終回に無記名で感想を書かせている)。以下に主なも のを紹介する。 ・他の講義ではやらないことをしてくれたので、よい体験ができた。 ・この講義で得たものは、自分で自発的に物事を考え、調べようとする意欲を得たこと である。 ・自分の学科以外の分野について勉強になり、知識の幅が広がった。 ・建設技術史について知ることができ、この講義がきっかけで歴史に興味がわいてきた。 ・土木建設工学が人間を災害から守り、社会資本整備に役立っていることが理解できた。 ・英語のレポートは大変だった。 ・自分の考えをまとめて文章を書く力がついたと思う。 ・放送大学のビデオはわかりにくかったが、プロジェクトXのビデオは面白かった。 ・毎回出席してレポートを全部提出した人は優をつけていいと思う。 ・成績優秀者でも講義時間に寝ている人もいた。 ・しばらく電子メールを使わなかったので馴れるのに大変だった。 5.あとがき 講義の補助資料、課題の提出状況、模範解答、Q&A、講義に対する学生の意見や 感想などをHPに載せ、それらを有機的に活用し教育効果を上げてきた。映像としての ビデオ利用や電子メールによる質問回答も試みた。インターネット利用教育も、肝心の 学生に使おうとする意欲がないと効果は少ない。TAとして留学生の講義補助は、留学 生にとっても良い経験となった。このような著者のHPは、コンピュータ利用教育の研 究資料となり、時系列的な教育評価資料となり、教員自身の反省材料となる。 参考文献 1)宮本裕他(2001.12):教員の自己評価のためのホームページの利用、工学教育プログラム改革推進 研究発表会、一橋記念講堂(学術総合センター) 2)宮本裕(2003.8):マルチメディアを使った建設環境工学通論、PCカンファレンス、鹿児島大学 3)宮本裕(2004.8):建設環境工学通論を例としたインターネット活用教育、PCカンファレンス、神戸大学 この講義のためのホームページ