PCカンファレンスの原稿(1次案)です。
2003年8月6〜8日に鹿児島大学で行われます。
原稿締切は6月13日です。
1行47文字(以下45文字にする)
43行
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マルチメディアを使った建設環境工学通論
岩手大学工学部建設環境工学科 宮本 裕 miyamoto@iwate-u.ac.jp 1.まえがき 建設環境工学通論を他学科(応用化学科約80名と材料物性工学科約50名)の学生に講義している。 自学科ではなく他学科の学生なので、専門分野の違いや基礎学力の特性があるため教え方に工夫が必 要と思われる。多人数の講義なので教育効果を上げるためにビデオ教材を利用したり、著者のホーム ページ(以下HPと記載)の活用を試みたり、質問や課題提出を電子メールで行ってみた。これまで 著者はPCカンファレンスにおいて、HPを作って学生教育に効果を上げている例を報告してきた。 この発表はそれらの一連のものの続編と位置づけられるが、他学科の学生を対象とするなど、今まで の発表とは違う面もあり、この講義の今後の発展のため今までの経過をまとめて発表するものである。 2.建設環境工学通論 著者の学科の内容を通論として講義するために、いちおう標準として考えられる教材がある。それ は土木学会が監修した放送大学の教材で「土木工学」(全15巻)である。厳密には建設環境工学と土木 工学とは同じ学問ではないが、著者の理解ではだいたい同じような学問である。そこでは明治以降の 土木工学の発展の歴史をまず述べ、土木工学の特性としての「社会資本の整備」「環境の保全」など のテーマを具体的な事例を映像で示しながら、講義をするという形態になっている。このビデオ教材 を見せての学生の印象では、今まで知らなかった土木工学の意義や価値を知ったという声が多いが、 具体的な力学計算や土木工学の建設材料として重要な土やコンクリートの力学的性質に興味をもつ者 もいるが、それを建設環境工学科の学生の専門の講義のように説明しても基礎的な知識が不足のため 理解が困難なようである。また、教材特有の堅苦しさがあるので、建設工事の積極的なイメージを与 えるためプロジェクトXのビデオ(黒四ダム、青函トンネル)も見せたところおおむね好評であった。 3.インターネットの利用 建設環境工学通論の講義はビデオを見せて、その感想を毎回規定の用紙に書いて提出させた。ビデ オの説明で不足のところなどは補足説明をした。また、関連のことを調べさせるため、宿題としてイ ンターネットを利用したり、図書館で参考書を読んで、電子メールで回答させた。講義の当初では電 子メールをよく使えない者も少なくなかったので、希望者のみ電子メールで宿題の提出をさせた。学 生の中には自分で調べようとせず、すべてを教官から与えられることを期待する者もいて失望を感じ ざるをえなかった。なかなかインターネットを利用して調べても、単なるコピーに終わっていて、自 分の感想とか意見を加える者は少なかった。こういう方式に慣れていない面もあるのだろうが、日本 の学生の特有な受け身の姿勢を感じてしまうのであった。講義では説明しきれないことや、欠席した 者のために、講義の補足などをHPに載せてみた。積極的にこのHPを見て、感想をメールで送って くる学生はまだ少なく、そういう学生は評価点が高くなるのはしかたのないことであった。学生たち の情報交換として、フリーのレンタル掲示板を設けて学生たちの質問や感想を書かせるべく意志の疎 通を計ってみた。なるべく生の声を引き出すよう書き込みに対するこちらの応答に工夫をしてみたが、 率直な著者の感想ではまだまだ利用は十分ではない。著者の他の科目の掲示板でも、利用率が高くな いから、これもやむをえないことかもしれない。なお電子メールによる最終課題は「自分の学科の通 論と建設環境工学通論の比較」とした。応用化学科と建設環境工学科とでは水の浄化などでは化学処 理技術を使うので共通点があり、材料物性工学科と建設環境工学科とでは、鋼などの材料や力学的性 質の知識は共通のものがある。しかし、おおむねその学科独自の学問体系からなっており、通論自体 の比較は難しく、それぞれの学問体系の概要を述べるにとどまった。著者としてはそれでも学生が自 分の学科や建設環境工学科について考えたり知識が増えることは意味があると考えている。技術者は 総合力が必要であり他の工学に対する理解があったほうがよいから。この課題については、新年度は 別の課題にすべきか熟慮中である。著者が学生たちに望むことは、技術の可能性と限界をわきまえて、 技術者の社会責任を自覚することである。その考えるためのヒントを与える講義でありたいと考えて いる。 4.この方式の利点と欠点 電子メールを使って課題提出することを義務づけたが、1年生の時に学習した電子メール技術もそ の後に使っていないと忘れてしまって使えない学生が少なからずいた。もちろん携帯電話から著者宛 に電子メールを送ってくる学生もいたが、通信文の長さの制限があり複数のメールを順次送って長文 の課題提出をする者もいた。中にはこちらから送った返事が届かず戻ってくる場合もあり、携帯電話 の設定をきちんとできないでいる者もいた。最終課題提出のため電子メールを受けつける期間を1ヶ 月と設定したのであるが、最初の半月はほとんどメールが送られてこず、最後の1〜2週間に100 名近くの学生からメールが送られてきたので、著者も一時はパニックにおちいったほどであった。ま た、他人のメールをコピーして送ってくる学生の防止のため、必ず本人に返事メールを送り、その中 で新しい質問をするようにした。他人の回答の不正コピー防止の対策であったが、やってみると学生 も教官もメールに追われるような忙しさを感じたものであった。HPに講義のまとめや補足資料など を載せておくことは、教材のストックとなり、時系列的な教育評価資料の蓄積にもなり積極的な意義 がある。 5.あとがき 講義の補助資料、課題の提出状況、模範解答、Q&A、講義に対する学生の意見や感想などをHP に載せて、それらを有機的に活用して教育効果を上げてきた。多人数教育に効果を上げるために映像 を活用するためビデオも積極的に利用した。マンツーマン方式でレポート提出をするべく、電子メー ルの活用も試みた。結局はマルチメディアもインターネットも、学生と教官の積極的な取り組み方に かかっているものである。そして、ネット回線増強や学内の利用端末室の利用可能時間増加などのハ ード的な条件を整えることも必要である。今後ともこの方式を続けて更に発展させたいと思う。 参考文献 1)宮本裕他(1999.11):自己評価のための情報処理利用教育、文部省主催平成11年度情報処理教育研 究集会、東北大学 2)宮本裕他(2001.8):教員の教育業績の評価のためのホームページ、PCカンファレンス、金沢大学 3)宮本裕他(2001.12):教員の自己評価のためのホームページの利用、工学教育プログラム改革推進 研究発表会、一橋記念講堂(学術総合センター) 4)宮本裕他(2002.8):ホームページによる教育研究資料の保存と活用、PCカンファレンス、早稲田大学 講義のためのホームページ http://structure.cande.iwate-u.ac.jp/education/lecture2002.htm