東日本大震災の調査報告 岩手大学工学部 宮本裕 岩崎正二 出戸秀明 1.はじめに 東日本大震災は、2011年(平成23年 )3月11日14時46分、三陸沖を震源として発生した巨大地震で、 気象庁が命名した「2011年東北地方太平洋沖地震」のことである。 その地震動はマグニチュード9.0で、継続時間が3分間と長いものであった。このように地震動強さが 大きく、震源域は幅約200km、長さ約500kmの広範囲にわたった。 この本震のあと、マグニチュード7クラスの余震が続いた。場所によっては本震よりも余震のほうが 大きな被害を与えた。 津波による被害は激甚なものであって、死者15,477人、行方不明者7,464人である。(6月22日現在) 全壊家屋104,173棟、半壊98,309棟で、被害総額(世界銀行によると)19兆円となった。(阪神大震災 では10兆円) 著者の宮本は地震直後にテレビがつかないことに気づいたが、東北六県が地震直後からすべて停電と なった。(著者の地域は一日後に電気は使えるようになった) 多くの被災地では電気、上下水道、ガスなどのライフラインが使用できなくなった。三月の東北は雪も 残りまだ寒かった。岩手県庁では自家発電装置があったため直ちに災害対策本部が作られた。 自衛隊、緊急消防援助隊の派遣要請がなされた。太平洋岸を縦に走る交通網は津波のため破壊されたのが 多かったので内陸から横方向に海岸に達する道路の復旧に力を入れた「くしの歯作戦」が進められた。 その後に肉親や知人の安否を求めたり、支援物資を持って現地に行こうとしても、まず燃料の確保が困難 で自動車がしばらく使えなかった。 運転中の東京電力福島第一原子力発電所の原子炉は緊急停止したが、停電となり非常用のディーゼル 発電機が起動したものの、津波により海水をかぶり冷却機能を失い大事故に至ったとされる。 2.被災状況報告 株式会社豊水設計の神原一雄社長運転の車で北見工業大学工学部土木開発工学科大島俊之教授と秋田大学 工学資源学部土木環境工学科川上洵教授と宮本の四人で、4月9日は久慈市を出発し、野田村、宮古市、 山田町、大槌町と調査し水沢(奥州市水沢区)に泊まり、翌4月10日には、南三陸町、気仙沼市、 陸前高田市、大船渡市、釜石市を回って調査してきた。 3.考察と今後の展望について 全体的な考察としては、陸上構造物の地震被害に比べ津波被害は甚大であった。 原発事故の影響は今後も続く。他の原発の安全対策を徹底的にしなくてはならない。事故の原因を追究し これからの対策に反映しなくてはいけない。大事なことは犯人さがしよりも、二度とこのようなことを起こ さぬよう関係者のそれぞれの役割においてなすべきことをきちんと処理するようにしないといけないことである。 津波は浮力だけでなく流木や流船や他のものが一緒になりパワーアップさせた。浸水深5m、流速6m/s 程度で家屋が流失している。押し波よりも、引き波の時のほうが流れが強く被害が大きい例が多い。 家屋流失率・死亡率急増の目安は浸水深2mである。多重防護により浸水深2m以下の地域を増やすべきだ。 これまで行われた耐震対策により橋梁の被害は比較的少なかったようで、災害復旧には役立った。 防潮堤もそれなりの効果をあげ、津波のエネルギーを弱め被害を最小限に食い止め、逃げる住民に時間稼ぎ を与えた。松島では個々の島が防波堤の役割を果たし被害を最小にしたし、石巻の中瀬のハリストス教会 のように前後に配置された建物は被害を受けたが津波力を弱めてくれたのでなんとか教会は残った。 津波のとき緊急避難できる高い建物施設を今後建設すべきである。壁のないビロティ構造は従来耐震的に 劣るとされていたが、津波から破壊をまぬかれて利点も見直された。 北海道南西沖地震では一部高台移転したり、新潟県中越地震では道路崩壊と集落孤立のため集落ごと移転 したが、東日本大震災では高台の適地が非常に少なく、かさ上げして元の場所にとどまりたい被災者多い。 漁業関係者の仕事場に近い海岸へのこだわりも無視できないだろう。 時間はかかるがローカル線の復旧は実現すべきである。医療福祉再生や職場の確保や漁業環境整備も急がれる。 がれき再利用としては、そのがれきを廃棄物(処分)かリサイクル資源(有効利用)か見極めて適宜対処すること。 これまで地震の度に設計基準が見直され耐震構造物は地震に強くなってきた。したがって、災害復旧に あたって耐震構造物は貢献した。社会資本は大切である。特に海岸線より高いところに建設され一部供用 された高規格道路の三陸道(三陸自動車道)は災害復旧におおいに役立った。 津波の記録がデジタル的にとられ津波対策が整備されてきたのはここ100年くらいである。 明治29年三陸津波(1896.6.15)以前の貞観津波(869.7.13)は今回並みの大きな津波ではないかと 最近言われているがデジタル記録がないから具体的な議論はできない。 過去の記録が整備され、より最新のデータに対して、耐震設計・津波防災が向上することが期待される。 当然、ハザードマップも新しいデータに基づいて書き直されなければならない。 地震や津波の記録が書き直される度に構造物の設計基準が見直され、それに対する国家的予算配慮も なされることによって、日本の防災技術力が高まっていくのである。 我々建設関係者は日本の防災技術力をいっそう高めよう。 参考文献 力武常次:東京圏直下大地震が迫る、講談社(1991.11) 桑原真二・大野一興:山古志村のマリと三匹の子犬、文藝春秋(2005.2) 清水將之:災害の心理、創元社(2006.8) 木村政昭:「地震の目」で予知する次の大地震、マガジンランド(2010.10) 河田惠昭:津波災害、岩波書店(2010.12) 鎌田 慧:原発暴走列島、アトラス(2010.12) 山本隆行:サンデー毎日緊急増刊 東日本大震災、毎日新聞社(2011.4) 一力雅彦:緊急出版特別報道写真集 3.11大震災 巨大津波が襲った、河北新報社(2011.4) 北海道新聞社:特別報道写真集 東日本大震災、北海道新聞社(2011.4) 茨城新聞社:特別報道写真集 東日本大震災、茨城新聞社(2011.4) 共同通信社:特別報道写真集 東日本大震災、共同通信社(2011.4) 静岡新聞社:特別報道写真集 東日本大震災、静岡新聞社(2011.4) 神戸新聞社:特別報道写真集 東日本大震災、神戸新聞社(2011.4) 市川裕一:報道写真全記録2011.3.11-4.11 東日本大震災、朝日新聞出版(2011.4?) 佐藤優:3.11クライシス!、マガジンハウス(2011.4) 大前研一:日本復興計画 Japan; The Road to Recovery、文芸春秋(2011.4) 川村湊:福島原発人災記 安全神話を騙った人々、現代書館(2011.4) 小学館防災チーム:みんなで生き抜く防災術、小学館(2011.4) 藤井 聡:列島強靭化論、文芸春秋(2011.5) 内田樹・中沢新一・平川克美:大津波と原発、朝日新聞出版(2011.5) 丸山重威:これでいいのか福島原発事故報道、あけび書房(2011.5) 難民A:帰宅難民なう、北辰堂出版(2011.5) 西田宗千佳・斎藤幾郎:災害時ケータイ&ネット活用BOOK、朝日新聞出版(2011.5) 野口悠紀雄:大震災後の日本経済、ダイヤモンド社(2011.5) 若松丈太郎:福島原発難民、コールサック社(2011.5) 荻上チキ:検証東日本大震災の流言・デマ、光文社(2011.5) 都司嘉宣:千年震災、ダイヤモンド社(2011.5) 広瀬隆:福島原発メルトダウン FUKUSHIMA、朝日新聞出版(2011.5) 三浦 宏:特別報道写真集 平成の三陸大津波、岩手日報(2011.6) 日経コンストラクション編:東日本大震災の教訓 土木編 インフラ被害の全貌、日経BP社(2011.6) 日経アーキテクチュア編:東日本大震災の教訓 都市・建築編 覆る建築の常識、日経BP社(2011.6) 養老孟司・茂木健一郎・山内昌之・南直哉・大井玄・橋本治・瀬戸内寂聴・曽野綾子・阿川弘之:復興の精神、新潮社(2011.6) エハン・デラヴィ:外国人が見た東日本大震災、武田ランダムハウスジャパン(2011.6) 大沼安史:世界が見た福島原発災害、緑風出版(2011.6) 産経新聞社:がれきの中で本当にあったこと、産経新聞出版(2011.6) 立入勝義:検証 東日本大震災 そのときソーシャルメディアは何を伝えたか?、ディスカヴァー・トゥエンティワン(2011.6) 村井雅清:災害ボランティアの心構え、ソフトバンク クリエイティブ(2011.6) 池上彰:東日本大震災心をつなぐニュース、文芸春秋(2011.6) 志村嘉一郎:東電帝国のその失敗の本質、文藝春秋(2011.6) 内藤克人編:大震災のなかで私たちは何をすべきか、岩波書店(2011.6) 朝日新聞取材班:生かされなかった教訓、朝日新聞出版(2011.6) 篠木毅監修:写真集 日本の自然災害 東日本大震災襲来、日本専門図書出版(2011.6) 池田清彦・養老孟司:ほんとうの復興、新潮社(2011.6) 石巻日日新聞社:6枚の壁新聞、角川マガジンズ(2011.7) 飯田哲也・佐藤栄佐久・河野太郎:「原子力ムラ」を超えて、NHK出版(2011.7) 鎌田浩毅:火山と地震の国に暮らす、岩波書店(2011.7) ジャン・ピエール・デュビュイ、嶋崎正樹訳:ツナミの小形而上学、岩波書店(2011.7) 村田友裕:東日本大震災 大船渡市・陸前高田市記録写真集 気仙の惨状、村田プリントサービス(2011.7) 黒田茂夫:東日本大震災 復興支援地図、昭文社(2011.7) 近藤浩之:明治・昭和・平成 巨大津波の記録、 日新聞社(2011.7) 赤坂憲雄・小熊英二・山内明美:「東北」再生、イースト・プレス(2011.7) 植田正太郎:フクシマ3.11の真実、ゴマブックス(2011.7) 江刺洋司:東日本大震災 東北復興プラン、本の森(2011.7) 成美堂出版編集部:地図で読む 東日本大震災、成美堂出版(2011.8) シュープレス:ともしび、小学館(2011.8) 「日本の論点」編集部:巨大地震 権威16人の警告、文芸春秋(2011.8) 広瀬弘忠:きちんと逃げる、アスペクト(2011.9) 盛岡タイムス:ありがとう自衛隊、盛岡タイムス(2011.9) 中原一歩:奇跡の災害ボランティア「石巻モデル」、朝日新聞出版(2011.10) 香山リカ:そこからすべては始まるのだから 大震災を経て、いま、メディアファクトリー(2011.10)