シルクロードの自然災害
岩手大学工学部
宮本裕 岩崎正二 出戸秀明 ママット・アブドゥカディル セリメ・ママット 張友海
中国新疆ウイグル自治区はシルクロードの要点の一つで、中国の西端に位置し、海から最も離れた地域の一つである。地理的には、三つの山脈(アルタイ山脈、天山山脈、崑崙山脈)が二つの盆地(タリム盆地、ジュンガル盆地)を挟むという特殊な地形である。このため、洪水・干ばつ災害,風災害,砂嵐災害,雪災害,地震・地質災害などが多発している。
地震災害
図1は、2000年1月1日から2007年11月29日までに新疆ウイグル自治区で発生した地震図である。震級4〜10の地震は合計1317回発生している。主に南のガシュガル地区やホータン地区に集中していることが観察できる。
図1
洪水・干ばつ災害:
図2は、2006年の中国の降水量を表する。表1は洪水・干ばつ災害の新疆における被害規模の年代変化を示している[1]。新疆における洪水・干ばつ災害の基本的な特徴は、春は干ばつ、夏は洪水、秋は水不足、冬は枯れ、洪水は南より北が早、北と南は交替で発生などの特徴がある。特に南では干ばつの頻度が非常に高い、全国的にも極めて厳しい水準である。
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Natural
Disaster in the
by
Yutaka MIYAMOTO, Shoji IWASAKI, Hideaki DETO, Mamat Abdukadir, Selime Mamat and ZHANG
You Hai
図2
表1 新疆洪水・干ばつ災害による被害の年代変化
年代 |
洪水災害 |
干ばつ災害 |
||
耕地被害規模(万hm2) |
被災人口(万人) |
耕地被害規模(万hm2) |
被災人口(万人) |
|
50 |
5.22 |
2.59 |
21.88 |
46.3 |
60 |
4.84 |
3.74 |
143.95 |
296.1 |
70 |
4.28 |
8.12 |
118.49 |
175.22 |
80 |
28.45 |
492.96 |
166.03 |
382.95 |
90 |
36.47 |
513.80 |
124.66 |
470.45 |
砂嵐災害
砂嵐による災害は主に、砂漠地帯を中心に春と秋に集中して発生している。新疆では、大きい砂漠として10以上の砂漠がある。大きい砂漠として、タクラマカン砂漠(33.76万Km2)、コルバントグト砂漠(4.82万Km2)、コムタゲ砂漠(2.28万Km2)などがあり、主にオアシスが砂漠に包囲された形で南と東に位置している。このため、新疆の大域では春と秋は砂嵐に包まれた天気が続き、日常生活や生産活動に多大に被害を及ぼしている。(砂漠地帯の年間降水量は100mm以下)
表2 2006年春に新疆で発生した主な砂嵐災害状況
|
発生した期間 |
種類 |
1 |
3月9〜12日 |
強砂嵐 |
2 |
4月9〜11日 |
強砂嵐 |
3 |
5月10〜11日 |
砂嵐 |
4 |
5月15〜18日 |
砂嵐 |
5 |
5月19〜20日 |
砂嵐 |
中国の地震の分布
中国は日本ほどでは無いが、かなりの地震国である。過去102年間の地震を調べると、中国大陸ではほとんどの地震が中央から西側で起きている。中国の人口の大半は大陸の東側に住んでいるため、マグニチュード8の巨大地震であっても被害は比較的少ないものになっている。
中国は国土の大半が一枚のユーラシアプレートに載っている。ユーラシアプレートは、東シベリア、インド亜大陸、アラビア半島の3地域を除くユーラシア大陸の地殻及びマントル上方のリソスフェアを形成する大陸プレートである。地球上のプレートとしては3番目に広い。そのため、インドヒマラヤプレートがユーラシアプレートにもぐりこむチベットや雲南地方などを除くと、殆どの地域の地震はプレート間ではなく地殻内地震となる。
中国と日本の震度
中国の各震度階は下記のようになる。
震度1:人は地震を感じない程度
震度2:室内にいるわずかな人が感じる。
震度3:室内にいる人の一部は感じる。車が通る感じ。吊り下げものがわずかに揺れる
震度4:室内にいる人はほとんど感じる。外にいる人の一部は感じる。吊り下げものが揺れる
震度5:室内にいる人全員と外にいる大部分の人が感じる、寝ている人は目を覚ます。天井や壁のほこりが落ちる、壁にはわずかなひびが入る。
震度6:棚の置きものが落ちたり、木が揺れたり、壁にひびが入ったりする。
震度7:人々は恐怖感を覚える。壁に亀裂がはいり、耐震性の低い建物が倒壊する。
震度8:人間の行動に支障がある。鉄筋の入ってない建物に大きなひびが入ったり、煙突が倒れたり、地面にも亀裂が入ったりする。
震度9:人間は立つことが困難であり、地面に亀裂が入り、液状化になる。また、水道管が折れたり、鉄道の一部がわずかに曲がったりする。山には土砂流が発生する。
震度10:人間は立っていられなく、山が崩れ、鉄道は軽度に曲げられる。
震度11:人畜は大量死傷し、建物がほとんど倒壊する。鉄道が曲げられ、地下の管路は破壊され、水があふれる。
震度12:構造物は壊滅され、地面は波のように凸凹になる。
日本と中国の震度階をまとめると表3のようになる。
表3 日本と中国の震度階
中国の地震予知
中国の地震予知には、将来数十年〜百年後の大規模な地震の発生を予知する長期予知の他に、直前予知という予知がある。直前予知とは、地震が起こる直前(数時間〜3,4日前以内)の予知のことである。地震が起こる前には部分的に岩石の破壊が起こり、それが進行して大規模な破壊につながると考え、この部分的な岩石の破壊に関連して起こるのが異常現象であるという仮説により、直前予知をする研究が行われている。その成功例として1975年の2月4日遼寧省「海城地震」がある。
1)動物の異常
ニワトリが木に登る
冬眠中のヘビが巣穴から出てくる
カモメが内陸部で飛ぶ
魚が同じ方向に整列する
ミミズが土からはい出てくる
また、人間も次のような異常を感じることがある。
頭痛・めまい・吐き気など、体調が悪くなる
異様なにおいを感じる
2)電気製品の異常
テレビ・ラジオに雑音が入る
勝手にスイッチが入る
時計の針が突然早く回り出す
3)大気の異常
地震の直前に空が光る(地震発光)
普段見られない雲が発生する(地震雲)
中国の耐震設計
中国のこれまでの耐震設計の歴史をまとめると以下のようになる。
1955年 ソ連の地震区建築規範ΠСΠ-101-51を翻訳、出版した。
1956年 第一枚地震区地図を編集した。
1957年 新しい震度表を提出した。
1959年 最初の耐震設計規範草案を提出した。
1964年 2つ目の耐震設計規範草案を提出した。地震係数を考慮し、地震力計算は静的震度法と呼ばれる耐震計算法を用いた。
1972年 建築物耐震設計規範を提出した。
1974年 第一部正式耐震設計規範―工業と民用建築設計規範TJ11-74を発表した。地震荷重計算は等分布静力法と振型動力法を用いた。また、液状化判別基準も発表された。
1987年 鉄道における耐震設計規範を実施した。
1988年 工業構造物耐震検定基準GBJ117-88を出版した。
1993年 構造物耐震設計規範GB50191-93を実施した。
1995年 建築耐震検定基準GB50023-95を実施した。
1996年 電力施設における耐震設計規範规范GB50260−96を実施した。
参考文献
[1] 姜逢清、胡汝骥,近50年来新疆气候变化与洪、旱灾害扩大化,中国沙漠2004,24(1)35−40