平成18年度自然災害東北地区部会講演の原稿です。
1月13日、14日に岩手大学で行われます。

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シルクロードの自然と災害

      岩手大学工学部 宮本 裕 岩崎正二 出戸秀明 セリメ・ママット ママット・アブドゥカディル          miyamoto@iwate-u.ac.jp  シルクロードの自然と災害        岩手大学工学部 ○宮本 裕 岩崎正二 出戸秀明 セリメ・ママット  ママット・アブドゥカディル  まえがき シルクロードは日本人にとって仏教文化のたどってきた道として、憧れとロマンでもって とらえられている。しかし、現実のシルクロードは厳しい自然の中で有史以来民族の存亡 をかけた戦いが繰り広げられた地でもあった。この研究の目的は、観光や国際交流や学術 調査などのためシルクロードを訪れる日本人にまとまった情報を提供することである。な お、シルクロードとよばれる地域は広いが、ここでは日本人観光客の多く訪れる中国新疆 ウイグル自治区についてとりあげることにする。  シルクロードの地理  新疆ウイグル自治区の地形は「三山、両盆を挾む」と形容される。これは、3本の山脈 が2つの盆地を挟んでいる、の意である。そして、新疆の「疆」の字の右側の旁の形にも 例えられる。つまり、一番上と真ん中と一番下に横線がある。これが3本の山脈、その間 に田の字が二つ、これが二つの盆地である。  一番上、すなわち北側の山脈はアルタイ山脈といい、モンゴルとの国境を形成している。 その下がジュンガル盆地で、その下に、いわばこの地域の真ん中に天山山脈が東西に伸 びている。その下が広大なタリム盆地で、その大部分はタクラマカン砂漠となっており、 その東はゴビ砂漠が続いている。そして南の崑崙(こんろん)山脈がチベットとの問に横 たわっている。  天山山脈は標高5千メートル級の山がつらなる大山脈で山頂は万年雪で覆われていて、 最高峰は8千メートル近くもある。この天山山脈の雪解け水がオアシス都市の貴重な水資 源となっている。オアシス都市では、カレーズ(坎尓井、坎児井)という水を地下のトン ネルでオアシスに引くものがある。これは山麓で地下水の出る竪穴式井戸を20〜30m ごとに掘っていき、その井戸をやや傾斜した地下道(導水路)で掘りつないで、地下水を 所定の貯水池まで引いてくるものである。地下の導水路なので、水が蒸発しないで運ばれ てくる。縦穴は換気と泥水処理のために役に立つ。トルファンのカレーズが有名である。  シルクロードの気候  大部分が砂漠地帯なので夏と冬の温度差が大きい(トルファン+40℃、石河子−28℃)。 降水量も少なく、天山山脈の北部では年間平均100〜500ミリ以下で、天山山脈の南部では 年間平均25〜100ミリ以下である。  シルクロードの歴史上有名な人物  前漢の武帝(在位前141〜87年)が、張騫(ちょうけん)に命じて匈奴をはさみうちす べく西方の月氏と連絡を取らせようとした。これがきっかけで、後に西のローマとの通商 路が開けたことになった。これからシルクロードを経路として、インドから仏教が伝わり 、中国の絹はヨーロッパに伝えられ、ペルシャの文物は中国、朝鮮半島経由で日本にまで 伝来した。しかし、張騫以前にも東西の文物交流史はあったと思われる。たとえば小麦文 化を考えても張騫以前に文物の伝達ルートがあったことは自明である。 【紀元前8000年以後、チグリス・ユーフラテス地域を中心に、いわゆる「肥沃な三日月地 帯」)で麦が栽培化されていた。中国ではたとえば、紀元前5000年の釣魚台の遺跡から大 量の小麦が発掘されている。ただ中国ではムギのほかにアワも食べていた。】  玄奘三蔵(三蔵法師)は、仏教の原典を求めてインドへ向かった。途中シルクロードを 苦労して越えた。当時のシルクロードは危険なので、唐王朝は中国人が旅行することを許 可しなかったが、三蔵法師は出国禁止の掟をやぶって、密かに玉門関を出て、砂漠を進ん だ。高昌国(トルファン地方)でもてなしを受けてから、天山南路を進み、クチャ国で雪 解けを待ってから、ベダル峠を越えて西突厥(砕葉城、アク・ベシム遺跡、現在のキルギ ス共和国)に着いた。そこから先を簡単に示すと次のようになる。 トクマク(西突厥)→タラス→タシュケント→サマルカンド→鉄門→クンドゥズ→ バーミヤン→北インド インドからの帰国では、パミール高原を越えタクラマカン砂漠の南の西域南道を通った。 彼の旅行記は後にヨーロッパの研究者にとって重要な資料となった。  シルクロードの災害 自然災害としては砂漠化、地震、洪水などのほかに風や積雪によるものもある。 新疆では天山山脈の北と南で自然災害はかなり違う。例えば、北の方では冬には大雪や雪 崩、夏には洪水などがあり、南の方では春と秋には砂嵐、夏には干ばつがあるかと思えば、 東の方には高温、大風などいろいろである。また、地震も南の方に集中している。 特にここでは地震について述べる。 新疆はユーラシア地震帯に位置して、強震の活動は中国全体の首位に位置して、20世紀か ら、6級以上の地震が百数回発生して、1年あたりは1回の6級以上の地震が発生して、7-8 年ごとに1回7級以上の地震が発生して、100年ごとに2-3回の8級以上の地震が発生した。 (中国の震度階は12段階で欧米のものとほぼ等しい) その地域は全新疆の60%近くに及び、70%の市や県などの重要な経済区を含んでいる。1996 年から、新疆には破壊的な地震の34回が発生して、327人の死亡をもたらして、数千人が 負傷している。その直接の経済の損失は35億元に達している。 徐々に地震の被害を減少させるための耐震関連の法規と管理方法の整備につとめ、関連の 建設工事にも大きな改善がほどこされつつある。 最近の大地震としては、2003年2月24日にカシュガル地区に属するマラルベシ(巴楚)と ペイッズアワット(伽師)の両県で発生したものが有名である。ベイッズアワットは地震 の多さで知られているが、そのときはマラルベシのほうが被害が大きかった。 「カシュガル25日発新華社電によると、24日午後8時までに、新疆ペイッズアワット ―マラルベシ地震による死者が259人に達し、重傷者が2050人を超え、民家886 1軒、教室900室が倒壊した。負傷者の数はさらに増える見込み。(中国通信=東京)」 これは中国独特の研究であるが、地震の前兆の観測台を各地に設置し、観測データのネッ トワーク化をはかっている。また、省都ウルムチ市の活断層の測定と危険性の評価の模範 を示す報告もされている。 新疆の地震計の配置密度はそれぞれ0.34台/万平方キロメートルで、全国平均の1台/万平 方キロメートルに比べてまだまだ整備が遅れている。なお、地震の前兆観測の機器の配置 密度は0.62台/万平方キロメートルで、全国平均の2-3台/万平方キロメートルをやはり下 回っている。 なお、現在中国で行われている主な前兆観測としては、地震学、地変形、地電磁気、地電 流、重力、地温、地応力、地下水、衛星写真分析及び動物の異常現象などがある。 これらは微観的な前兆観測と宏観的な(人間の五感にもとづく)前兆観測に分かれる 微観的な前兆観測としては、地震学、地変形、地電磁気、地電流、重力、地温、地応力、 地下水などが測定されており、宏観的な前兆観測としては、地震前の動物の異常現象、 地鳴り、発光、水位水質の観測などが観測されている。  辺境学のすすめ 最近、日本の若手研究者の中に、中国研究のドーナツ現象とでもいうべき傾向が見られる という。それはつまり、中国自体の歴史や文化に対してよりも、その「周辺」あるいは 「辺境」と呼ばれる地域、そこに生活する民族、その文化への関心が高まっているという ことである。「辺境」は中国では「辺疆」と記載されが、これに対応する英語はFrontier, Border, Boundaryであろう。そもそも、Frontierはアメリカの西部開拓時代に使われた言 葉であり、未開拓地の辺境をさす言葉であった。そしてその未開拓地は開拓地と接するも のであった。これから、Frontierは意味が発展して、いまでは知識の最前線という意味で も使われる。 アメリカの歩く歴史家といわれたラティモアは「辺境学」を提唱した。 彼の中国研究アプローチは、地主と農民の関係、対立、抗争を軸にした時代の変化を考え、 さらに彼は、中国の中心と辺境の関係で歴史の転換をとらえたのである。 「中国の歴史を解く鍵の一つは、中国の偏遠地方の夷狄との間の勢力均衡を理解すること」 中国を時系列的には地主・農民の対抗関係で、空間的には文化的勢力圏の考えに立って 政治的・文化的中華思想の対外拡張のプロセスとしてとらえようとしたわけである。 この小稿はそういうわけで、辺境学に関係するものである。自然災害は民族とか国家を超 えた自然現象によるものであるが、災害に対してどう受けとめるかは民族とか国家として の対応があり文化的アプローチが必要であるから、この研究の独創性が認められよう。  あとがき これらの資料は、日本人にとっても役に立つものであるが、新疆ウイグル自治区からの留学 生にとっても母国の故郷を改めて認識するのに有効であると信じるものである。日本人も 海外に出てはじめて日本の文化や日本に関する知識の不足を実感して勉強し直すことが多 い。岩手大学には1999年以来ウイグル人の留学生が増え続け現在も10名を越える留 学生が学んでいる。 参考文献 護 雅夫:人間の世界歴史F 草原とオアシスの人々、三省堂(1984) 長澤和俊訳:玄奘三蔵 大唐大慈恩寺三蔵法師伝、光風社出版(1985) オーレル・スタイン著、澤崎順之助訳:中央アジア踏査記、白水社(2000) 尾池和夫:中国と地震、東方書店(1979) 中身立夫編:境界を超えて、アジア理解講座1 山川出版社(2002)

OHP原稿その1(タイトル)