構造設計技術者のためのパソコン通信
岩手大学工学部建設環境工学科 ○宮本 裕 岩崎正二 出戸秀明
岩手県工業試験場管理部企画情報係 菅原龍江
岩手県アドバイザー 遠藤良一
岩手大学情報処理センター 上野行秀
Personal Computer Telecommunication for Structure Design Engineer
by
Yutaka MIYAMOTO, Shoji IWASAKI, Hideaki DETO, Ryukou SUGAWARA,
Ryoichi ENDOH and Yukihide UWANO
1.まえがき
最近、世界的に離れた研究者同士の連絡にパソコン通信が広く使われてきている。日本
全国においても色々なパソコン通信が多くの利用者に開放されている。岩手大学でも共同
研究等の連絡に、文部省の学術情報センターを使った電子メール(E−Mail)が使わ
れているほか、科学技術庁系の東北地域研究交流ネットワーク(ハイテクネットとうほく)
のパソコン通信も利用の機会が与えられている。
従来、土木情報システムシンポジウムにおいて、土木技術者や研究者のパソコン通信に
関する発表論文は少ないと思われる。そこで、科学技術庁系の研究交流ネットワークに注
目して、技術者のためのパソコン通信のありかたについて、パソコン通信の意義や将来の
可能性も含めて発表したい。
この論文の全体の構成は以下のようである。
@パソコン通信のメディアとしての特性
A全国的「研究交流ネットワーク」と、その中の1つである「ハイテクネットとうほく」
の特徴
Bハイテクネットとうほくを使った地域共同研究の実例
2.パソコン通信のメディアとしての特性5)
2.1 非対面コミュニケーション・メディア
パソコン通信は相手の見えない非対面コミュニケーション・メディアである。一般には、
「対面こそが、最高のコミュニケーション・メディアである」という暗黙の価値観がある
ようだが、必ずしも正しいとはいえない。パソコン通信も、その特性を使ってうまく利用
すれば、効率的に情報伝達のできる可能性がある。
2.2 パソコン通信における電子会議室
パソコン通信では、電子会議という、興味関心を等しくするものどうしの会議が盛んで
ある。システムオペレーター(シスオペ)と呼ばれる会議室の責任者が議論の成りゆきか
ら、メンバーの苦情、ネットワークの運営者側とのやりとりまで引き受けている。電子会
議室とは、パソコン通信における電子掲示板の機能を、特定のテーマについて意見をまと
める場面に応用したものである。
2.3 パソコン通信の有用性
パソコン通信は”時と空間を越えるコミュニケーションシステム”と言われている。遠
隔地のコミュニケーション手段だけでなく、自分の時間に合わせたコミュニケーションシ
ステムであることも利点である。
またネットワークの有用性は、不確かなことでも、ネットワークを通じて真実に近ずく、
ということもある。
2.4 ネットワークの評価量
ネットワークがいかに使われているかを表す評価量を紹介する。9)
(1)『情報生産量』 (掲載文書数*掲載者人数*作業コスト)
(2)『情報の消費量』(掲載文書数*呼び出し人数*期待コスト)
(3)『接続作業量』 (操作性*グループ相互協力性*通信コスト) とすれば、
ネットワーク・パワーの評価量= 生産*消費*接続 となる。
つまり、パソコン通信がどれだけ重宝されているかというと
(A)入力情報量 (B)出力情報量 (C)操作のしやすさ
の3点で考えるべきで(コストも含まれている)、さらに全体のバランスが大事であろう。
3.ハイテクネットとうほく
3.1 ハイテクネットとうほくの概況
ハイテクネットとうほくとは、東北地域(東北6県と新潟県)の工業、農林水産業、自
然科学などの分野で研究開発を行っている民間企業、試験研究機関、大学などの研究者、
技術者のためのパソコン通信によるネットワークである。すなわち東北地域研究交流促進
計画に基づき、地域の技術力・開発力のレベルアップをめざすために設置された東北地域
研究交流ネットワークである。この制御マシンは盛岡市内の岩手県工業試験場内にある。
8月1日現在308名の会員が加入している。
また東北地域だけでなく、筑波研究学園都市や他の研究交流ネットワーク(富山、静岡、
石川、京阪奈、中四国等)ともゲートウェイすることによって、情報交換も可能である。
(図1がここにくるが 省略)
図1 ハイテクネットとうほくから見た研究交流ネットワーク
3.2 筑波ネットワークの役割
全国の研究交流ネットワーク(東北、富山、静岡、石川、京阪奈、中四国等)のまとめ
役としての筑波ネットワークの役割は重要である。筑波研究学園都市に集中する各種の研
究機関の研究者ユーザの力をまとめて、さらに地方のネットワークともよく連携し、日本
の研究をリードすべく関係者の努力が続けられている。
3.3 研究交流ネットワークの利点
研究交流ネットワークは文部省の支援する学術ネットワークとは別のものである。しか
し科学技術庁の研究交流ネットワークは文部省のネットワークや商業ネットワークと、電
子メールの相互乗り入れができる。このメリットを生かせば、大学の情報処理センターが
休みで利用できないときでも、ハイテクネットとうほくを使って文部省のネットワークの
ユーザに電子メールを送ることができる。
3.4 研究交流ネットワークの問題点
中小規模のネットワークではシステムやサービスメニューを充実させる投資はむずかし
くなっている。サービスメニューの更新・維持が運営の負担になる場合も多い。こういっ
た場合に、地方のネットワークは、システムを大幅に変更することなくサービス項目を増
やしてゆく方向に進む方法がある。7)
ハイテクネットとうほくでも、他ネットワークとの接続で補おうとゲートウェイをして
いるが、さらに新聞データベースの提供や、FAX配信サービスの提供、他ネットワーク
との掲示板の共有などが考えられる。
一般にデータベースや行事案内などのインフォメーションについても、提供しやすい素
材が使われることが多く、ユーザの利用形態に合うように加工された情報が少ない場合が
多いように思われる。
会員数や利用率が伸びない原因は、サービスやコマンドや運営などの運営側から目につ
きやすい、手が届きそうな問題だけにあるのではない。ユーザの立場からの使いやすさや
使いたくなる魅力を考えるべきだ。
4.構造設計技術者のためのハイテクネットとうほく
ハイテクネットとうほくは、文部省が支援する大学研究者のための学術情報ネットワー
クとは異なり、民間の技術者も加入する産官学からなるネットワークである。したがって、
一般の技術者・研究者にとっても、ハイテクネットとうほくは、研究をする上で価値ある
ネットである。
ここでは著者ら構造設計技術者の立場での、具体的な利用法を紹介する。
(1)研究者データベースの利用
東北地方、特に盛岡周辺の研究者データベースを調べることにより、関連の研究者から
研究資料等を教えてもらうことができた。材料の実験データなど入手することができた。
(2)土木学会橋梁振動小委員会の文献データベースの作成
土木学会構造力学委員会の中の橋梁振動小委員会の文献資料を整理して、関心のある方
面へ紹介する。
これは自分の研究メモや研究資料の整理としての意味もあり、使い方によっては価値はは
かりしれない。
(3)シューの資料
共著者の遠藤は橋梁のシュー製作会社にもコンタクトがあり、最新の製品資料を入手し
ている。構造物の製作にあたって必要な製品・部品の資料もハイテクネットとうほくを通
じて全国的に入手することができる。
(4)討論・意見交換
構造設計や判断に関する情報について、討論をしたり、意見の交換をすることができる。
この原稿を書くときも、共著者に原稿の案を電子メールで送って意見交換をして完成した。
(5)連絡事務
オフライン会議の打ち合わせや、ハイテクネットとうほくとの管理事務局との事務連絡
に利用した。
著者らは、土木学会発行の土木用語大辞典の編集、執筆作業に関する質問や連絡で、札幌
の幹事の仕事に従事する北大博士課程の今氏と、科学技術庁ネットと商業ネットとのメー
ル交換サービスを利用している。
(6)共同研究の打ち合わせ
著者らは、盛岡市内の建設コンサルタントと設計プログラムの開発を、共同研究してい
る。会議の打ち合わせ程度なら電話ですむが、研究成果品としてのパソコンプログラムの
リストやドキュメント、あるいはそのプログラムによる計算結果などをデータベースの形
式で保存しておくのは、将来の仕事の発展に重要なことである。そして、パソコン通信上
のデータは編集・加工が可能なデータであり、利用価値は無限である。
(7)通信上の専門知識の援助
パソコン操作等の疑問をボードに書き込んでおけば、マニア的な専門知識の豊富なユー
ザに対応策を教えてもらえる。通信ソフトにATOK7の辞書を入れるとき、容量不足の
問題があったが、フリーボードに状況を説明することによって、ソフト販売会社の技術サ
ポート以上の解決案を、他のユーザから与えられた。
なお、ユーザからみた研究交流ネットワークのパソコン通信の問題点をまとめると次の
ようになる。
(1)接続手順やコマンド操作が初心者的な研究者ユーザにとって難しい。簡単なら利用
者はもっと増える。
(2)日本語情報を基本に送受信するので、コード体系の不統一によるバグの問題がかな
り生ずる。
(3)情報を送受信するには、送り手と受け手の存在が前提となるが、問題テーマによっ
ては、興味関心のあるユーザが少ないと、コミュニケーションが成り立ちにくい。
(4)ユーザの対応(マナー)が悪いと、不要となった情報データがたまってファイルの
余裕がなくなる。
(5)現在のシステムの許容ユーザアクセスを越えると応答がきわめて悪くなる。
(6)他の地域の研究交流ネットワークと接続しようとするとき、たまに接続が不調にな
ることがある。
(7)データベースなどの大量情報を入力する作業は大変時間と人手のかかることである。
入力と修正作業を容易にするため、OCR文字入力の利用が最近試みられている。8)
5.あとがき
著者の中の宮本は、昭和61年から岩手県庁の委嘱を受けて、東北地域研究交流促進協
議会委員またユーザとして「ハイテクネットとうほく」の利用発展のために努力してきた。
この研究をまとめるにあたり、筑波ネットワークをはじめとする各地の研究交流ネット
ワークのシスオペ、ユーザの方々から、フリーボードや電子会議室などで貴重なご意見や
ご助言をいただいたことを感謝する。
共著者の分担としては、宮本、岩崎、出戸はパソコン通信の実践者として、菅原はハイ
テクネットとうほくシステムの相談役として、遠藤は高度な利用のアドバイザーとして、
上野はパソコン端末整備者としてそれぞれ協力し、原稿は全員でディスカッションして宮
本が中心となり書き上げたものである。
紙面の都合で詳細については省略したので、興味のある方は参考文献9)を参照された
い。
参考文献
1.佐宗哲郎、理学研究者のためのコンピュータ環境、東北大学大型計算機センター広報
SENAC、
Vol.24 No.1、1991.1
2.宮本ほか、岩手大学における電子メールとBBSの現状と将来、文部省主催平成4年
度情報処理教育研究集会講演論文集 1992.12
3.(財)岩手県高度技術振興協会、「研究者データベース」操作マニュアル 1991
4.学術情報センター、NACSIS 利用の手引き 1992.3
5.現代のエスプリ 306 メディアコミュケーション、至文堂 1993.1
6.寺口俊伸、ネットワーク達人への3つの鍵、ネットピア11月号 1992
7.特集93年列島縦断BBSトレンド、パソコン通信1月号 1993
8.宮本ほか、橋梁技術史資料を例としたパソコンの独日文書ファイルの活用、土木情報
システム論文集 1992
9.宮本ほか、技術者のパソコン通信利用について、岩手大学研究報告第46巻 1993
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