日本工学教育協会 第46回年次講演会
7月末に九州大学で行われました。
以下に原稿を示します。なお、図や表はデータ転送を考えて、縮小してあります。
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使用教科書に関する評価のためのアンケート調査 ○宮本 裕(岩手大学)、五郎丸 英博(日本大学)、長谷川 明(八戸工業大学) 小出 英夫(東北工業大学)、川上 洵(秋田大学)、佐藤 恒明(木更津高専) 1.まえがき 著者らは東北地区の6つの大学(八戸工大、 秋田大、岩手大、東北学院大、東北工大、日 大)と東北の大学を卒業した教員が教える2 つの高専(木更津高専、長野高専)の構造力 学関係の教員が共同で執筆した構造力学に関 する教科書を教室で用いている。そして、数 年間これらの教科書を使った結果、学生の反 応を観察し、アンケートを行いその結果を真 摯に受け止め、教科書の改訂版の際に役立て ようと考えている。また、学生の意見を参考 にして、説明や教授法の改良を考えたい。 2.構造力学の教科書 教科書は2冊あって、1冊は公式を誘導し ながら構造力学の理論体系を説明することを 主眼とした「構造工学」であり、もう1冊は 公式を先頭にあげて、例題で解き方を説明し てから応用問題を出題する方式の、問題の解 き方に重点をおいた、いわゆる演習書の役割 をはたす「構造工学の基礎と応用」である。 その目次は右の通りである。 3.アンケート 宮本は毎年学生に無記名アンケートをとっ て、理解できた項目や難しかった項目につい て整理してきた。それによると、だいたい毎 年難しかったと回答のあるのは、断面2次モ ーメント、たわみの微分方程式、不静定構造 物の解法(最小仕事、仮想仕事)などである。 もちろん難しい概念も丁寧に上手に教えれば、 理解する学生は多くなるはずであるが、どう すれば教育効果をあげられるかのポイントを 考えることは重要である。 上記の6大学、2高専において行ったアン ケート結果の一部を紹介すると図−1から図 ―4、表−1から表―2のようになる。 この結果だけでは、教室での講義の説明を どのように直していけばよいか、あるいは今 年改訂版を作る「構造工学」をどのように書 き直していけばよいかの資料として不足だっ たので、さらに具体的な指摘をさせ建設的な 意見を書かせるアンケートを実施した。ただ し時期が遅かったため回答数が少なく、今後 改めてこの種のアンケートを実施していきた いと考えている。 4.アンケート結果考察 全体をながめると、学校差あり、学年差が ある(たとえば長野高専)。 特によく教えられる第1〜1O章でむずか しい章、よくわかった章について考えると、 第1章、第2章はわかりやすいと答えたもの が多い。これは内容が基本的で理解しやすか ったためであろうと思われる。 第3章のトラスをわかりやすいとする者と、 わかりにくいとする者とに別れる。これは同 じ講義を受けていても、物理的センス、理解 力に差があるのだろう。 難しいと答えた項目では、最小仕事、たわ み曲線、応力、断面2次モーメントがある。 これらは抽象的であって具体的なイメージが いだきにくいからであろう。 どのように直したらよいかという意見の中 で次のものを紹介する。 ・具体的な例があると理解しやすい。 ・用語の説明を丁寧に書くことが必要。 ・教科書と対応した講義をする。 ・図を多く入れる。 理解した章と理解しにくかった章について、 全体のアンケートを見ると教師の説明にもよ るので、学校によって違いがある。 大学毎のアンケート調査によると、たとえ ば「難しい」と回答した学生が多い大学(東 北工大など)は「おもしろくない」、「大切な 教科かわからない」という傾向が見られる。 これは教科の重要性を理解させれば、「おも しろい」、「難しいとはおもわない」へ改善で きることを示唆していると思われる。 5.まとめ アンケート結果をそのままうのみにせず、 学生の真の声を読み取る工夫が必要と思われ る。今回のアンケートを参考に、今年夏に「構 造工学」改訂版をよりよいものに編集中であ る。 本の足りないところは、先生の教え方でカ バーする、つまり教科書というハード(メデ ィア)を教え方というソフト(技術)で補うこ とが重要である。 参考文献 1)宮本裕・秋田宏・岩崎正二・川上洵・五 郎丸英博・佐藤恒明・永藤寿宮・長谷川明・ 樋渡滋:構造工学の基礎と応用、技報堂(1 991,1996) 2)宮本裕・岩崎正二・川上洵・小出英夫・ 五郎丸英博・佐藤恒明・永藤寿宮・長谷川明 ・樋渡滋:構造工学、技報堂(I994)