免震、制震、高耐震、耐震補強

つくば市にある熊谷組技術研究所での研究を紹介しながら、 これらの技術についてお知らせします。

「やはりあの阪神大震災以来、多くの発注者や施工関係者などか ら問い合わせを受けましたし、施工例も増えてきています」と話す のは技術研究所員で建築構造グループの石橋久義副部長。免震・ 耐震技術の専門家である同副部長に現代の最先端免雲・耐震技 術について伺ってみることにした。 「巨大な地震に耐えるための建物を造る技術には大きく分けて4つ の種類があります。まずは建物そのものに地震の振動を伝えない免 震技術。次に建物の内部で地震の衝撃を吸収して建物の損傷を 防ぐ制震技術。それから部材やRC造の構造をより高い強度のも のにして壊れにくくする高耐震技術。この3つは主に新築の建物に 導入される技術で、このほかに既存の建物の耐震性を高める耐震 補強技術があります」

免震 建物に伝わる地震エネルギーを低減する免震技術 「まず免雲技術というのは簡単に言ってしまえば、免震装置によって 建物が地面から切り離された状態に近い構造をつくり出してあげ るものです。免震装置は、水平方向には柔らかいけれども鉛直方向 には硬い積層ゴムと、振動を抑えていくダンパーとの組み合わせで構 成されています。この装置を建物の基礎部分に取り付けて地面の 振動(地震動)が建物に伝わりにくくするわけです。 地震が起こると水平方向に柔らかい積層ゴムがゆっくり横に揺 れて地震の振動をよりゆっくりとしたものに変え、しかもその振動 をオイルダンパーや鋼棒ダンパーなどのダンパーによって徐々に抑えて いくのです。ちなみに、積層ゴムにはダンパーの減衰機能を合わせ持 ったものもあります。 この免震装置を取り付けると地震が建物に及ぼす地震力(衝撃力) は3分のlから5分のlに低減することができるのです」 地震力を5分のlにするということは、例えば震度6弱(加速度 300ガル程度)が震度4程度(同60ガル)に抑えられるということだ。 「免震装置の取り付けには多少コストがかかりますが、地震の振動 を低減できる分、建物自体の部材や資材のコストを低減でき、在来 の建物を建設する場合とあまり変わらないコストでの施工が可能 です。またこの技術は既存の建物に応用することも可能で、多少の コストはかかりますが、建物を使用しながら免震建物にできるので す。免震に関する工事は阪神大震災以前には施工例が非常に少 なかったのですが、震災以降は都内の住友虎ノ門二丁目ビルや埼玉 県川越市の三井病院、さらに東京都町田市のクイーンシティ町田な ど、増加傾向にあります」 ちなみにこの免震構法は既存の床など、建物の一部にも応用でき るとのこと。コンピュータの損傷が、事業運営の大きな障害に成り得 る0A化の進んだ現代のオフィスには特に導入したい技術なのだ。

制震 建物内部にエネルギーを吸収させる制震技術 「次に制震技術は、振動を伝えないという免震の発想に対し、ダメー ジトレラント(損傷許容)という発想に基づくもの。つまり大地震時 に損傷を受ける部材を予め決めておき、被災後に損傷を受けた部 材を交換すれば元の構造に戻るという発想に基づいています。 例えば鋼製スリットダンパーを利用した制震構法を見てみると... まず建物は主体構造と制震部に分かれています。そして巨大な地 震が起こった時、そのエネルギーを制震部となるスリットの入ったダン パーが受けるように設計されています。結果としてダンパーは歪んで しまいますが、主体構造部は損傷を免れるのです。 しかし、歪んでしまった鋼製スリットダンパーは簡単に取り替えら れるため、再び地震が起きても大丈夫というわけなんですね」 この制震技術は高さ300メートルを越すような超々高層ビルにも 適用が可能だとか。 「地震に対する技術という意味では、地震の振動そのものを建物 に伝えない免雲技術が最も優れていると思います。ただ、現実の施 工となると、我が社の免震技術をもってしてもまだ40階程度の建物 までの応用が限界。それに対し、超々高層建築への適用が可能な制 震技術の応用範囲は広いのです。さらにオイルダンパーなどを用い たレトロフィット制震工事も可能だとつけ加えておきたいと思います」 大地震の振動に耐えうる建物を造る高耐震技術 「次は、高耐震技術,この高耐震とは巨大地震の振動に耐えうる 建物を造るということです。具体的な構法・構造を見てみると.... 例えば現在施工中の山形県、上山マンションに使用されている二ュー RC超高層住宅構法。これは我が社が開発した超高強度のコンクリ ートなどを使用。超高強度の部材を用いることで、その他の部材 を軽減できますこれにより軽量化を図り、地上41階という超高層 ながら、高い耐震性を持つんです。 東京都・新宿区にある朝日センタービルなどに使われた鋼管コン クリート構法は、コンクリートを鋼管の内部に充填した柱と鉄骨梁 を組み合わせた構造で、柱の剛性が高く、鉄筋が不要で50階程度の ビルも建設可能な構法です。 この他、鉄筋コンクリートの柱に筋交い状に交差させた主筋を用いて 柱や梁の耐力を高めたX型配筋RC構造など、数多くの高耐震構法が あり、多くの施工実績がありますしかも、これらニューRC超高層住宅 構法や鋼管コンクリート構法などは設計の自由度も増すんですよ」 「そして最後に耐震補強技術です。これは既存の建物の耐震性を 高めるための技術で、これまでに紹介した3つの技術のように主に新 築に使われるのとは対照的。しかし阪神大震災以降、既存の建物 を守るということで最も、問い合わせや施工例の多い技術です。 この耐震補強の代表的な工法のひとつがFRP(炭素繊維強化プ ラスチック)シートによる補強工法でもこれは鉄の10倍という引っ張 り強度を持つFRPシートを鉄筋コンクリート構造物のコンクリート 表面に、接着樹脂を用いて張り付けたり、巻き付けて強度を高める という簡便な工法。 この工法は今後不安の感じられる建物だけでなく、現実に震災で 損傷を受けた建物にも多用されているエ法です。建物を使用しな がらの施工が可能ですし、実に適用範囲の広いエ法だと思います このFRPシートの他にもはめ込み耐震壁による補強工法や、外 付けフレームで補強する工法などがあります。 これらの耐震補強技術を導入する場合には、まず建築物の耐震 診断を行ないます。そして、各建物に合ったより合理的で安価な補 強法を提案していきます」 最後に免震・制震・耐震技術の今後について伺った。 「耐震構法の考え方は現在ほぼ出尽くしています。あとは柱を なくして住みやすい居住空間を造りだすなど、付加価値の部分が勝負 になるでしょうね。免震の技術は建物ばかりか建物内部や展示品 の損傷を抑えるという意味でも、重要性を増すはずですから、より 超高層のビルに導入するとか、コストダウンを図るなどの方向で研究 を進めて行きたいですね」 出典は「kumagai update 1988 No.14」(熊谷組)でした。 同社よりここに掲載する許可を得ています。