さきほどの例では実は地震の上下動を考慮していません。
地震の力が上向きに働けば、一種の浮力のようになって、自重の大きさが減ります。
このような見かけの自重が減ったときにも安定になるよう考えると
次のような理論式になります。
なお、以下に地震力の水平震度をKh、鉛直震度をKvとし
自重をWとすれば、H=W・Kh、V=W・Kvとなります。
D点に関してタンスを左に回転させようとする力はW・Kh・h/2です。
これに対して、元に戻ろうとする力は W・(1−Kv)・b/2
ですから、差し引き左回転する力は{Kh・h/2−(1−Kv)・b/2}W
となります。
この{}の中がマイナスになれば、タンスは倒れないことになります。
さて、実用的にタンスを倒れないよう頂部あるいは底部を固定する場合を考えます。
家具を転倒させる力を上回る固定力は、家具頂部(タンスの右上端)F1は
家具底部(タンスの右下端)F2よりかなり少なくてすみます。
F1≧{Kh・h/2−(1−Kv)・b/2}W/h
F2≧{Kh・h/2−(1−Kv)・b/2}W/b
数値計算として、h=180cm、b=40cm、W=100kgfとすれば、
F1≧40kgf
F2≧100kgfとなります。
(ただし Kh=1.0、Kv=0.3としたとき)
ただ、このように考えたのは地震力が上向きの時で不利なケースを考えたわけですが、
反対に地震力が下向きになるなら自重が見かけ上増えたことになるから
倒れにくくなるわけです。
したがって、ここで紹介した計算はあくまでも理論的なものです。