五重の塔はなぜ地震でも倒れないか
これについての理由を、建築の専門家が色々考えて論文を発表しているが
それを読んでも、なかなかすっきりしないというのが本音でした。
昨日、町で本を買ってきました。
「上田篤編:五重の塔はなぜ倒れないか、新潮選書」
あっというまに読んだら、これがなかなかおもしろい。
いままでの知識をまとめて、最新の研究も整理しています。
内容はやや専門的なので、かみくだいて
私の講義に使おうと思います。
説明には文章だけでなく図が必要なので
ネットワークニュースよりはWWW向きですね。
ということで、ここでは例によってメモ的に紹介してみます。
昭和35年 第2回世界地震工学会議での棚橋諒博士の講演
五重の塔の耐震性の秘密
1.塔は、一般の構造物に比べて、きわめてゆっくりと揺れる 構造物である。 (五重の塔の固有周期は1〜1.5秒で地震時に共鳴しない) 2.塔は、単位面積あたりの木材の使用量が非常に多く、 水平力に対する抵抗力が大きい構造になっている。 (水平力に抵抗する部材要素が多い。五重の塔の中の空間は せまいから建物として人が住むとか中で仕事をするという 実用的な建物ではない) 3.塔はきわめて大きい変形に耐える性質をもっている。 (接合部の遊びによって、ある限度を越えた力が働いても すぐにはこわれず十分に変形しうる能力がある) 4.塔は、木の組物が特徴的であるが、これは振動を緩和する 性質をもっている。 (組物が大きなエネルギーを吸収する。減衰効果?)
心柱の振り子作用
五重の塔の心柱はしっかりと地上に固定されておらず
上から吊らされたようになっている。
地震時には五重の塔の浮いている心柱が振り子として働き
塔が揺れるのを和らげている。
これは現代の学問からみれば制振システムといえる。
しかし、各地の五重の塔を調べてみると
もともとは掘立柱であったが後に礎石の上に心柱を立てている。
いずれにせよ造った当初は心柱は地上にしっかり置かれていた。
ところが木材の基本的性質として、乾燥による収縮の度合いは
繊維方向では小さいが、繊維に直角の方向では大きく、繊維方向の
数倍になる。また、力を受けたときの変形やめり込みも、
繊維に直角の方向が著しい。
したがって塔ができて何年かすると、
塔の骨組はその水平部材の乾燥収縮、荷重によるなじみ、
めり込みなどによって、数十センチも低くなる。
これに対して、心柱の長さの変化は非常に少ないから、心柱の
支える相輪下部と最上重屋根との間に大きなギャップができて、
激しい雨漏りの原因となる。
(心柱はもとのままなのに、周りの五重の塔の全体が沈下するから
屋根のてっぺんが心柱の串から下がってしまい、すきまができてしまう。
歯槽膿漏のコマーシャルみたい)
その結果、どの五重の塔も雨漏りで柱をつたった水が柱底を腐らせ
柱は宙吊りとなってしまう。
日光の五重の塔は、この雨漏り対策として始めから心柱の下部を
短くしてちゅうぶらりんにしておいた。こうすると時間の経過で
五重の塔全体が沈んでも、心柱も一緒に沈んでくれて、屋根の上
には透き間が生じないから、雨漏りもせず大丈夫。
日光の五重の塔はこういうわけで、宙吊りの心柱として
振り子作用で耐震性を示しているがそれは結果としてだけ。
本来は雨漏り対策のため心柱の底が地上についていないので
耐震性は当初の目的ではなかった。
現代の高層建築では、建物の頂部に振り子を設置して、
その振り子の固有周期を建物と同じにすれば
振動をおさえる効果が期待できることがわかっているから
積極的にそういう設計をする建物もある。
(いにしえの匠の知恵と経験は、現代の耐震建築に大きく寄与している)
ビルのてっぺんに水槽を置いて地震時に水の振動で建物の振動に
ブレーキをかける方法もある。