2千円札の鈴虫の絵

とうとう発行されましたね。「2000円札」 じっくり、お札の裏を眺めてみましょう。男性二人が向かって左に、右に紫式部がちょこりん。 そして・・・崩し字で書かれている詞書部分ですが、 ---------------------------------------- すゝむし 十五夜のゆふくれに仏のおまへ に宮おはしてはしちかくなかめ たまひつゝ念珠そたまふわかき あまきみたち二三人はなたてま つるとてならすあかつきのおとみつ のけはひなときこゆさまかはりたる いとなみにいそきあへるいとあはれな るにれいのわたりたまいてむしのね いとしけく(みたるるゆふへかなと てわれもしのひやかに念珠したまふ) ---------------------------------------- この、「鈴虫巻」冒頭の文章が書かれているようです。 ※(カッコ)書きは、その続きの部分です。 補いつつ訳してみますと、 ---------------------------------------- 「十五夜の夕暮れ時、仏前に女三宮がいらっしゃって、  端近にて物思いなさりつつ、経文を読まれていた。  若い尼君たち二三人が、仏に花を奉ろうとして、  鳴らす閼伽杯の音、水の気配などが聞こえている。  出家したため、それまでとは様変わりした仏事の営みに  せわしないのも趣き深い。  そこへ、源氏がいつものようにお渡りになって、   『虫の声が、たいそう多く(乱れる夕べですね』  と仰って、自らもそっと念仏を唱えなさる。」) ---------------------------------------- 詞書の場面的には、出家した女三宮が念誦しているところ。 若い尼君たちとは、共に出家した女房たちでしょう。 源氏はそこへ渡って来て、鈴虫の声にあわれを誘われ、そっと念誦する・・・ 冷泉院の出てくる場面とは、違いますね。 この後、源氏たちは連れ立って、冷泉院の御所へ赴き、宴を催すのですが・・・。 印刷されている男性二人は、源氏と冷泉院です。 絵巻自体は、冷泉院の御所にて、月の宴を催している場面。 詞書と絵巻の図柄が、合っておりません。 その上、お札をよくよく解読してみると、 詞書の下半分が、切れてしまっていますね。 印刷されている詞書は、下記のような文面かと思われます。 ---------------------------------------- すゝむし 十五夜のゆふ に宮おはしては たまひつゝ念珠 あまきみたち二 つるとてならす のけはひなとき いとなみにいそき るにれいのわ いとしけく ---------------------------------------- お札の印刷部分だけを読むと、まるで文意が通りませんね。 絵巻と詞書も合っていませんし、どうも中途半端な仕様となっているようです。 「源氏絵巻」には、鈴虫冒頭の場面を描いたものもあるのですが・・・ まぁ、何はともあれ、2000円札に「源氏物語」が採用されたのは嬉しいことです。 これを機会に、多くの方々が「源氏物語」に興味を抱いて下されば、何よりのことと思います。 鈴虫冒頭の詞書は、源氏絵巻でいうと「鈴虫一」に当たります。 これには、女三宮や若い尼さんが描かれてます。 お札の絵は、「鈴虫二」ですね・・・(五島美術館蔵) 向かって左側が冷泉院、右側の、背を向けてるのが源氏だと思われます。 絵巻の解説(『図説日本の古典7 源氏物語』集英社)を見ますと    「庭は一面に銀。置畳も爽やかな白緑を銀で縁どり、     上皇の御引直衣や源氏の縹の直衣など、これまた銀を主調とする。     まさに冴えた月光が画面にみなぎることを感じさせ、     この情景の秘められた悲劇性を象徴する。」 とあります。    「物語本文では参院する車の中で行なわれた奏楽を、     冷泉院の邸内でのこととして描くなど」 絵巻作者の創作が盛り込まれているそうです。    新2千円札

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