ポケモン被害原因を探る

PSE(光感受性てんかん)は氷山の一角

「これまで人類が経験したことのない刺激が、偶然にも作られてしまった」
調査研究にあたった医師は言った。昨年12月に放映されたテレビ東京のアニメ番組
「ポケットモンスター」が子供の体に異常を引き起こした問題は、厚生省研究班などの
手で原因解明に向けての研究が進んでいる。海外でも類を見ない大規模な被害は、何が
原因だったのか。

ポケットモンスター問題は、昨年12月16日夜に起きた。午後6時半から放映
された番組を見ていた子供たちがけいれん発作の症状を起こすなどして次々に倒れ、
全国で680人が病院に運ばれた。軽度の症状も含めれば、何らかの異常を訴えた
子供は全国で1万人以上に上るとみられている。

子供たちの症状は当初、光感受性てんかん(PSE)とみられていた。PSEは
大脳の異常から、激しく点滅する光の刺激を受けると、けいれんなどの発作を起こす。
過去にテレビゲームで問題になったこともある。多くのマスコミも被害者は
PSEとみて、そう報道してきた。

しかし、体に異常を起こしたのは、実はPSEの子供だけではなかった。

問題が起きた直後、厚生省は専門家を集めて研究班を発足させた。これまで、
被害者の中から7000人を抽出して症状を調査。発作の起きた場面の特定や
誘因の分析を続けている。こうした研究の成果から、子供たちに起きた事態が
ようやく解明されてきた。

症状は、3種類に分類できる。
 (1)けいれん発作
 (2)吐き気やめまいなど乗り物酔いと似た症状
 (3)放送後、報道を見て気分が悪くなった

光感受性発作は大脳の異常が原因。だが、(2)は明らかに自律神経系の異常で、
番組にのめり込むなど情緒面の原因が指摘されている。また(3)は単なる自己暗示
とみられている。

さらに(1)のけいれん発作を起こした臨床例を研究班で調べた結果、中には
PSEの素因がないのに発作を起こしている子供も多かったことが分かった。

国立療養所静岡東病院名誉院長の清野昌一医師によると、光感受性の反応を起こす
人には過敏な順に3種類があるという。

 (A)アニメなど日常の光刺激で発作を起こす人
 (B)検査で強い刺激を受けると発作が起きる人
 (C)脳波を調べると光感受性の反応はあるが発作は起こさない人

(A)、(B)はPSEだが、(C)は光感受性反応(PPR)と呼ばれ、病気ではない。
清野医師は「PSEが氷山の見えている部分なら、PPRは水面下のぼう大な部分。
層は非常に多くなる」という。数年前、子供を対象にPSEの全国調査を行った際は、
子供でPSEの素因を持つのは10万人に6〜7人の割合だったという。今回
500万人前後の子供が「ポケモン」を見ていたとすれば、素因を持っていたのは
300人程度にしかならない。

では、なぜ被害がこれほど大きかったのか。

研究班は、今回の問題ではPPRの人も発作を起こした可能性があるとみている。
同班メンバーの医師は「問題の番組の光刺激が強いため、光感受性の素因が小さく、
通常の刺激では発作を起こさない子供まで発作を起こしたのでは」と推測する。

研究班班長の山内俊雄・埼玉医科大教授は「発作を起こした番組の場面の特定は
できているが、原因については光の強さや回数、色などが複雑にからみあっており、
偶然にも強い刺激のものが生まれたようにみえる。完全に解明するのは難しい
かもしれない」と明かす。光感受性発作防止のガイダンスでは、イギリスのITC
(独立テレビジョン委員会)が知られているが、ITC基準だけではとらえ切れ
ない部分も残るという。研究班は3月にも研究報告をまとめる見通しだ。
放映再開の検討は、この結果が出てからになりそうだ。

それにしても、こうした問題がなぜ今まで放置されてきたのか。

光感受性発作の危険性は、研究者の間では以前から知られていた。1990年代
前半にはテレビゲームで遊んでいた子供が発作を起こす事件が国内外で多発。
「何らかのガイドラインを作るべきだ」と専門家からは指摘されていた。

だが当時、政府は積極的に動いていない。PSEの専門家である医師のひとりは
「欧米の学者からは『テレビゲームは大半が日本製なのに、なぜ日本で対応しないのか』
と批判が高かった」と話した。

民間では、研究者有志のグループ「ESGS」がゲームメーカーの協力を得て、
テレビゲーム発作の研究を進めていた。またITCガイダンスの素案を作った
イギリスのグレアム・ハーディング・アストン大学教授も、ESGSを通じて
日本の精神・神経科学振興財団から助成金を受けている。
日本政府や放送界が問題を放置していた間、日本の助成が海外の放送界の基準
作りに役立っていたとすれば、皮肉な話である。
(毎日新聞 1998年2月15日)

日本人がイギリス人の放送基準を作るための研究費を出していたのであった。
皮肉といえば皮肉だが、国際交流とか国際支援の意義はあったろう。
今度は自国民のために研究費を出す番ですね。

この画面の背景色をわざと強調してみました。光てんかん症状を起こした子供の気持ちに迫ろうとして。
(やりすぎだったかな)

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