待ってほしいネットの規制

青酸カリ宅配事件で、多くの報道機関の「インター ネットの匿名性や希薄な人間関係が事件を引き起こし た」という報道姿勢に危ぐしている。違法に毒物が渡 されたことに問題があるのであって、この事件の根源 がインターネットの存往にあるというのは、問題のすり 替えだ。 私たち自殺願望を持つ人間の多くは、[自分は生き るに値する」と認識する体験が乏しい。周囲から理解 されないと思い、自分の居場所が見つからず、挫折を 繰り返ずことになる。 パソコン通信やインターネットは、そんな気持ちを 吐き出し、分かち合い、励まし合う場の一つだ。死に たい気持ちを世界のどこかにいるだれかが受け止め る。一時的でもその気持ちを乗り越えられた人たちの メッセージが、私たちの気持ちを解きほぐし、生き抜 く糧になる。そんなやりとりを繰り返しながら、社会 との折り合いをつけて生きる術を身につけていく。 私たちの両親も先生も友人も同僚も上司も、私たち の話を聞かない。ごくまれに[どうしたの」と聞いて も、最後は「がんばれ」と追いつめる。そんな時、私 たちはオンラインで気持ちを分かち合い、ずいぶん助 けられてきた。 この事件を機に、インターネットヘの規制の必要性 が取りざたされている。パソコン通信やインターネッ トは、追いつめられた私たちにとって、今日を生き抜 くための最後のとりでだ。これ以上、私たちの居場所 を奪わないで欲しい。

1999.1.12 朝日新聞の声