Yさんの 赤毛のアン 翻訳者の比較 アンブックスを「赤毛のアン」「アンの青春」「アンの愛情」にかぎり、翻訳者を調べると、4人に絞られる。 10冊完訳したのは掛川恭子氏、松本侑子氏、村岡花子氏(花岡美枝氏)の3人だけである。 小中学生が読むなら、@「茅野美ど里 訳 - 偕成社」 (抄訳ではない)もよいが、後3者がお勧めである。 最も広く親しまれているのは「C村岡花子 訳 - 新潮文庫」であろう。もっとも古くからあり、 タイトルを「赤毛のアン」(原題はグリーンゲイブルズのアン)としたのも彼女であるから。 それに対し、最も新しいのが「B 松本侑子 訳 - 集英社」である。訳者は現役の作家、文筆活動を続け、 更に、アンに関する情報誌、旅行企画なども手掛けている。注釈も豊富だ。 文体は人の好みにもよるから、どれが良いとは簡単に言えない。 後で翻訳の比較をしてみよう。 @ 茅野美ど里 訳 - 偕成社 本書は新書版で字も大きく、明らかに児童向けである。3部作だけで他のアンブックスは出版されていない。 上下に分かれているのも特徴。 氏はアガサクリスティなども翻訳。主として偕成社文庫で出版。 A掛川恭子 訳 - 完訳シリーズ。講談社。 最近文庫化。アンブックス10冊完訳。 ただし扉の詩がない。村岡花子氏に次ぐ翻訳家である。 B 松本侑子 訳 - 集英社。 訳者の研究による注釈が豊富な訳本。テレビ司会からニュースキャスター、作家、エッセイスト、など経験し現在活躍中。多彩なタレントだ。 ブラウニングの詩に始まり、ブラウニングの詩に終わる日本初の全文訳『赤毛のアン』、がキャッチコピー。カナダツアーが計画されている。アンブックス10冊完訳。 固有のHP を持つ。 C村岡花子 訳 - 新潮文庫。 1954年に出版された村岡花子訳の改訂・補訳版。村岡花子 訳というが、実際は孫娘が祖母の抄訳を完訳、補足した。 日本で初めて「赤毛のアン」を紹介した翻訳本。アンブックス10冊完訳。児童書に入っているものは省略文なので注意。 2.赤毛のアン-アボンリーの教職を譲ってくれたギルバートに礼をする場面 掛川恭子 訳 - 講談社 「ギルバート、」頬を染めたアンがいった。「私のためにここの学校をあきらめてくれて、ありがとう。 ご親切、ありがたいと思っています。どんなに感謝しているか、わかってもらいたくて、、、、」 ギルバートはさしだされた手をしっかり握った。 「親切だなんて、そんなことじゃないんだ。なにかきみの役に立つことができたらと思っただけなんだ。 これからは友達になってくれるかい?昔の失敗を許してもらえたのかな?」 アンは声をあげて笑うと、手をひっこめようとしたが、ギルバートは放さなかった。 「自分でも気がつかなかったけれど、あの日、『輝く湖』の船着き場で、もう許していたの。わたしって、なんて頑固で、まぬけなのかしらね。 あのときから―このさい、白状してしまうけど―あのときからずっと、後悔していたのよ」 松本侑子 訳 - 集英社 「ギルバート」アンは顔を真っ赤にして言った。「学校を譲ってくれて、ありがとう。お礼を言いたかったの。 本当に親切にしてくれて、、、、、感謝していることを知ってほしかったの。」 ギルバートは、アンの手をしっかり握った。 「アン、別に親切というほどのことじゃないよ。何かして君の役に立ちたいと思ったんだよ。 僕たち、これからは友達になろうよ。前に君をからかったこと、もう許してくれたのかな?」 アンは笑って、手をひっこめようとしたが、彼はまだ握っていた。 「池の船着き場に上げてもらった時には、もう許していたのよ。でも、自分では気づいていなかったの。 なんて頑固なお馬鹿さんだったのかしら。それに、思い切って白状すると、あれ以来、ずっと後悔していたの。」 村岡花子 訳 - 新潮文庫 「ギルバート」アンの頬は、真っ赤になった。 「あたしのために学校を譲ってくださってほんとうにありがとうございます。 あたしとってもうれしかったんです―そして、あなたにそれをしっていただきたかったですわ」 ギルバートは、さしだされて手を熱心に握った。 「なに、べつにたいしたことじゃないんですよ、アン。いくらかでも役に立ちたかっただけです。 これからは友達になろうじゃないの?僕の昔のことを許してくれる?」 アンは笑って、手をひっこめようとしたがだめだった。 「あたし、あの日、池のところで許したんだけれど、自分でも知らなかったのよ。なんてがんこなおばかさんだったんでしょう。 思い切ってなにもかもいってしまえば―あのときからずっとあたし、後悔していたのよ。」 「村岡花子 訳」は丁寧で古風で物静かに感じる。ですます調を基調に書かれているせいだろう。 これが会話まで及ぶのはどうか?村の同級生がそんな会話をするだろうか? と考えると、「掛川恭子 訳」、「松本侑子 訳」はである調で、現代風の訳である。歯切れもよい。 アンとギルバートの会話には適当に見える。しかし、アンとギルバートは親しい仲ではない場面が多く、砕けた言い方はしないもの、、、、 わたしは何気なく新潮文庫で読み始めたのだが、たまたま図書館で読んだものが読みやすく、訳者の違いを知った。 「アボンリーの教職を譲ってくれたギルバートに礼をする場面」の「掛川訳」が好きである。 注釈が多い方がよいなら、「松本訳」がお勧めで、解説書も多い。しかし、生身の女を押しつけられるような印象で、引いてしまう。 特にこだわりがないのなら、「村岡訳」が無難だ。丁寧だし、値段も安い。講談社の青い鳥文庫も「村岡訳」(抄訳だけど)だ。