歌謡曲の和製英語

歌謡曲の和製英語 意味をぼかすのに一役

日本のポップスにここ数年、「英語」のタイトルと歌詞が目立って増えてきた。
音楽情報誌「オリコン」の17日号が載せたシングルCD売り上げランキング
の上位6曲は、英語のタイトルが付いた曲だ。でも、アメリカ人の知人は
「どれも、ほとんど意味がわからない」と話す。SPEEDが歌う一位の
「WHITE LOVE」に純白の愛をイメージしたら、「『白人の恋』
って何でしょうね」と不思議がられてしまった。

変な英語なのに、なぜ使うのか。日本ポップスが洋楽サウンドを主体に
テンポアップし、日本語ではもたつくことがあげられる。しかし、ほかの
意図もあった。

英語のタイトルや歌詞の多い作曲家、小室哲哉さんは「カラオケで唱和する
ときに、日本語だとストレートに感情が伝わり過ぎて、頭を空っぽに
できない」と話す。ある音楽プロデューサは「日本語ほど意味が限定され
ないから、イメージが広がる」と言う。たとえば「青」より「ブルー」
といった方が、憂うつ、透明感、など意味に幅ができ、表現に奥行きが
生まれる、というのだ。

「英語」に置き換えることで、メッセージをあいまいな形で聞き手に伝達
できる。しかも和製英語だから、内容はいよいよ不鮮明だ。本当の意味は
だれにもわからない。情報を正確に伝えるという、言葉が本来持つはずの
役割とは正反対だ。それは、面と向かって意思や感情をはっきり伝える
ことを好まない日本の文化とも通じる。

それにしても、日本語に比べれば、表現が明快で物事を率直に伝えるのに
適した言語といわれる英語が、意味をぼかすのに一役かっているとは皮肉だ。
街中に外国語がはんらんして困りもの、という心配はご無用。
「英語」は仮の姿で、実は日本語なのです。
(斉藤珠里、ミニ時評、朝日新聞11月24日)

あやしげな和製英語でイメージをふくらまそうとするのは
ファッション界もそう。
お役所の使う横文字言葉もその傾向がありそう。